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シニアになって働く意味を考える⑰ ~明けない夜はない~

定年前後のシニアに「働く意味」についてインタビューした記事です。一人一人のインタビューを積み重ねて、「働く意味」のスペクトラムを描けたらいいかなぁって思っています。
その切り口を「働く理由の8区分」から考えます:カネ、自己実現、社会貢献、承認欲求、自立、地位獲得、他者との絆、その他(仕事があるという幸せ、色々な経験、不安の解消など)


30年やり続け、先端電子デバイス設計部門のトップに

 Eさん(54歳2023年時点)は、新卒後から現在まで30年間一貫して、ある先端電子デバイスの設計に従事している。2万人以上の従業員を擁する日本を代表するハイテクデバイス企業で、約3,500名の設計事業所を束ねるトップに就く(2年前の2021年)。
 順風満帆のような技術者人生のように思えるが、キャリアの節目、節目で必ず自分の無能力感を味わったと言います。
 まずはその経緯をお聞きしました。仕事で悩まれている方に、Eさんの労働観のあり方は参考になると思います。

何度もチャンスを与えてもらったが、満足できる仕事ができなかった…

 いつもの「仕事人生満足度曲線」を描いてもらいました。

 新卒後、地元にある設計事業所に就職。ところが当時花形の部署には配属されず、製品の仕様設計部署に配属。ここでの約6年の経験が今の成功に繋がっているから不思議だ。というのも、現在の先端デバイスというのは、ライバルに対し高性能化を達成すれば売れるという訳ではなく、お客さんや社会の「お困りごと」をどうやって解決できるかという「製品仕様」が重要となっているからだ。
 その後、家族帯同で5年間の海外赴任へ。この地域は、最新の技術を積極的に導入しシステムを開発することを特徴としていたため、現地採用のエンジニアの技術水準が高く、国内でのたった6年の経験では歯が立たず、実力が発揮できないまま(本人談)地元に帰国することになる。

帰国後、地元で家を買ったら勤め先が閉鎖、単身赴任に

 合併やリストラを繰り返す日本企業の例に漏れず、勤めていた事業所が閉鎖となる。帰国後7年目のことで、ここから単身赴任生活が始まる。家を建てた2年後のことだった。現在単身生活12年目をむかえる。
 初めての単身赴任先は、国内の合併相手先の設計部門であったため視野を広げることができる。
 その後さらに、2回目の海外赴任を単身で経験することになる。この赴任国は前回と異なり、現地の業務体制自体が未整備だった。前回での苦い経験が頭をよぎり、何とかパフォーマンスを上げようと自分を追い込み仕事に集中。しかし、技術屋としての経験では何ともならずマネジメント経験不足で、結局、現地での業務目標を果たせず帰国することになる。

思い通りの成果がでなかったモヤモヤした経験が今の飛躍になる

 2回目の海外経験も「不発?」に終わった(ご自身の評価)後、リストラを繰り返していた会社もようやく反転攻勢の兆しが見えてきていた。2016年に帰国後、デバイス設計の本拠地に単身赴任する。
 ここからEさんの「モヤモヤ不本意経験」が役立ち、やりたい仕事が好循環で流れ始める。この経緯を聞いていて「水を得た魚のよう」でした。2018年担当部長、2020年部長、2021年事業統括部長、兼事業所所長に就任。約3,500名の技術者集団を束ねることになる。

何度も上手くいかない経験をしても、へこたれなかったのはなぜ?

 「自分自身、ストレスには弱いと自覚しています」とEさんは言います。ただ、いつも「明けない夜はない、と確信していた」そうです。
 それに、彼が担当するデバイスの業界では、自社製品は世界で二番手に位置し、先行するライバル企業は次々と先端的チャレンジを仕掛けてくるそうです。そのことがEさんのエンジニ魂を刺激し、「将来の夢が描ける」ことが活力になっているとのこと。
 また、何度も不本意な経験をしたことから、人の痛みが分かるようになってきたとも言います。とくに事業所所長としての職務は、Eさんの性格に合っていそうです。人生どうなるかホントに分からないものです。

「オレ、何で働いてるの?の図」

 著者の勝手な指標で作った「オレ、何で働いてるの?の図」を作ってもらいました。Eさんのは、こんな感じです。

 Eさんの労働観、これまでの経緯を見てきたら納得できます。「他者との絆」が満点。自己評価が厳しいにも拘らず、他人への期待感が強い人で、こういう上司を持った部下はパフォーマンスを発揮しやすいと思いました。
 自己実現の評価には厳しかったEさん、今後このスコアはドンドン上昇していくことでしょうね。

今後の進み方は?

 グローバル企業に変身した日本企業。Eさんの上司は海外に住む外国人。そのため日本人設計者より、もっとコスパの良い海外設計者を多用せよとの指示が出ているそうです。
 新たなる試練を抱えて、「世界一の夢」を追いかけるEさんには、まだまだ引退の声は聞こえてきませんね。

後記:


 「明けない夜はない」の由来は、シェークスピア作の戯曲『マクベス』の台詞であるという説が有力だそうです。” The night is long that never finds the day. “が原文。直訳すると「夜が長くて、その日が見つからない」です。ここから、「夜は長く苦しいけど、必ず明ける」となったそうですね。
 「朝の来ない夜はない」や「止まない雨はない」と言うのもあったり、ことわざの「待てば海路(かいろ)の日和あり」とかもあります。確かに、悪いことはずっと続かないって思えると頑張りがききますね。

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