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制約し合う社会よりも、頼り合って許し合える社会の方がいい

インドに住んでいた頃、オープンカフェのデッキで、まだ3ヶ月だった息子を寝かしつけようと、抱っこしながらゆらゆらしていた時のこと。

近くに座っていた若いインド人男性に声を掛けられた。

あら、ナンパ?

で、あるはずはなく、話を聞くと、席を外すあいだ荷物を見ていて欲しいとのこと。
「もちろんいいよ〜」と返事をした。
(なんだ、ナンパじゃないのか、と、ちょっとだけ思ったのはここだけの話)

そして、ふと、これって日本ではなかなか有り得ないシチュエーションかなぁと思った。

本当に困ってどうしようもなく、お願いするだけの合理的な理由がある場合、例えば、

「3人いるのに椅子が2脚しかないんです!使っていない椅子を貸してくれませんか?」

とか、そういうケースでない限り、カフェで出会った赤の他人に何かをお願いすることって、日本ではなかなか無い気がする。

(私をナンパしなかった)インド人の彼からすれば、目の前に突っ立っていて、しばらくそこにいそうだし、席を立つのに荷物を全部持って行くのは大変だし、自分はそれなりに困っていて、合理的だと思ったから「荷物を見ていて」と言ったのかもしれないけれど、日本でそれをやったら、

「は?自分で管理しろよ、クラークじゃないんだから」

なんて思われそう。

少なくとも私は、もしこれが日本で、日本人に頼まれたとしたら、

「え?いいけど、結構図々しい人だなぁ」

と感じる気がする。
いや、日本であろうと海外であろうと、声を掛けてきたのが日本人であったら、私はそう感じるかもしれない。

そして、ちょっと恐ろしいなと思った。
同じ行為なのに、自分自身、日本人に頼まれる場合と、外国の人に頼まれる場合とで、こんなにも感じ方が違うなんて。

なんでだろうと考えてみた。

私たち日本人は、お互い「私もあなたに迷惑掛けないように頑張るから、あなたも迷惑掛けないでよ」と、牽制し合って、制約し合っているような気がする。だから少しでも迷惑を掛けたり、自分勝手と思える行動に対しては「私が我慢しているのになんであなたはそんなに自由に振る舞っているのよ!」と、ムキになって足を取り合い、批判し合っているように感じる。
あくまでこれは私が感じた日本の一面であって、全てではないし、日本のいいところももちろんたくさんある。

だけど、こんなふうに互いを牽制し合う世の中では、窮屈だし、心地良くないし、自由で伸びやかな発想は生まれにくいし、生きづらい。

そんなことを考えながら、スヤスヤ寝入った息子を抱えて席に戻り、iPhoneを開くと、充電が残り僅かになっていた。充電器を取り出そうとカバンを覗くと。。ない!忘れたー!!

直前に、私をナンパをしなかった彼の荷物番をして、「こんな風に周りに頼ってもいいんだ」、と、心が少し大らかになっていた私は、思い切って左隣でiPhoneを使っていた人に、

「すみません、充電器を持っていたら貸してもらえますか?忘れてしまって」

と言ってみた。
すると、あいにくその方は充電器を持っていなかったのだが、相席していたその方の連れが

「持ってるよ!使いなよ!」

と申し出てくれた。
自分が話しかけられたわけでもないのに、自ら名乗り出てくれるなんて、温かいなぁと思いつつ、お礼を言い、充電器を足元の電源に差そうとかがんで気が付いた。おっと、私は息子を抱っこ紐で抱っこしたままだった!差しづらいなぁ、そう思っていたら、今度は右隣の人が、

「やろうか?」

と名乗り出てくれた。

ここまできて、私はもうインドを好きになっていた。

文化や慣習、国民性の違いから、インドで生活していて大変だなぁと思うことも、それは違うでしょ!と声を荒げたくなることもたくさんあるけど、こうして助け合えるインドは明らかに素敵だ。もちろん日本でも、数え切れないほど多くの優しさに触れて来たけれど、いわゆる赤の他人、知らない第三者に対する優しさやオープンさというのは、インドを始めとする諸外国のほうが上回っているんじゃないかと感じる。

日本では、子連れで公共の場に行き、子どもが泣き出しでもしたら、少し白い目で見られることもあるし、何より本人たちが申し訳なさでいっぱいになるけど、インドでは行く先々で、周りの皆が率先してあやしてくれ、あぁ自分はここにいてもいいんだと思える。

日本では、特に都会を中心として、あまりご近所さん同士で挨拶をするケースが無いように感じるけれど、インドでは、同じマンションに住んでいれば、顔見知りで無くとも当然のように”Hi!” ”Hello!”と声を掛け合う。これはインド以外の外国でも大抵同様。

同じコミュニティの仲間として、お互い気持ち良く生活してくための、ほんの少しの思いやりや他者への関心を持てたら、日本はさらに素敵な国になるのかなと思う。そういう国でありたいし、まずは自分が、「荷物を見ていて!」と日本で日本人に頼まれても、快くOKできる自分でいようと思う。

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