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Fictional Diary

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in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
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#旅写真

fictional diary#24 ガラス越しの炎

fictional diary#24 ガラス越しの炎



その町でいちばん大きな交差点のところにある、巨大なガラス窓のショーウィンドーを覗いてみても、見えるのは向こう側にぽつりぽつりと浮かびあがるオレンジ色の電球だけだった。その店がなんの店なのか、通りで立ち話をしている人たちに聞いてみたけれど、みんな揃って、わからない、と答えた。窓にそって店のまわりをぐるりと歩いてみても、店の名前は見つからなかった。ひとつの窓の、目線の高さより頭ふたつぶん上のところ

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fictional diary#27 街灯に咲く

fictional diary#27 街灯に咲く



その通りに並ぶ街灯には、春のある日になると、花の入ったカゴがぶらさげられる。その日がいつになるのかは、誰も知らない。その日の朝、通りに出てみて、初めて気がつくのだ。小さな花が窮屈そうに植えられた鉢植えが、カゴの中にすっぽりおさまっている。はしごを使って街灯に登った作業員が、小さいがずっしり重たいカゴを持ち上げて、そのために専用に作られた、街灯の横の出っ張りに据え付ける。カゴのなかに入っているの

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fictional diary#28 名前のない色

fictional diary#28 名前のない色



赤に近いような濃いピンク色、それとも、薄紅色、といったほうがいいのだろうか、見たことのない色の壁を、路地裏の奥でみつけた。建物はすこし古ぼけていて、中には人の気配がなかった。誰も住んでいないみたいだった。壁は所々にひびが入って、水の滴っている箇所もあった。そこかしこに、遠目で見ればわからないくらいの小さなほころび。狭い路地裏の奥、こんなに明るい色をした建物に住んでいた人は、一体どんな人だったん

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fictional diary#29 流行りの葉っぱ

fictional diary#29 流行りの葉っぱ



その町の市民病院の中庭には、大きな木が何本か生えていたけど、どの木にも葉っぱはひとつもついてなかった。緑の季節、公園の木や道路沿いの街路樹もみんな青々と葉っぱを茂らせている時なのに、どうしてだろうと思って、病院の門のまえでじっと立っている門番のおじさんに聞いてみた。薄い色の短い髪と、水色の瞳。ブロンドの髪のひとはまゆげやまつげまでブロンドなのは何度みても不思議にみえる。濃い紺色の制服はこの季節

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