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Fictional Diary

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in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
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#連載

fictional diary#15 かわいい魔女

fictional diary#15 かわいい魔女



その家にはアロマセラピーの偉い先生が住んでいて、近所の子供たちからは「お菓子の家」と呼ばれていた。お菓子でできているからじゃなく、ハーブの調合に日々精を出しているおばあちゃんが魔女のように見えるからなのだそうだ。童話に出てくる、鷲鼻で鉤爪の人食い魔女とはまったく似ても似つかない小柄な白髪のおばあちゃん。指には小さな緑の石のついた指輪をはめていて、服は真っ黒の長いワンピースを着ていた。彼女は、ア

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fictional diary#16 消えていく色

fictional diary#16 消えていく色



その海岸から海をみると、なぜだか波打際がピンクに染まって見えるんだ、ガイドブックには載ってない隠れた名所だ、と泊まっているユースホステルの従業員の男の子が教えてくれたので、朝ごはんを食べたあとさっそく海へ向かった。空は灰色でもくもくした雲が浮かんでいる。10分くらい歩いて辿り着いた海は、たしかにほんのり赤っぽく染まってみえた。近くで見てみたくて、海岸まで走っておりていった。すると海の赤みは幻の

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fictional diary#17 空の窓まじない

fictional diary#17 空の窓まじない



その町に昔から伝わる、晴れ乞いのためのおまじないを教えてもらった。そのあと、二日続けて雨の降った日、ほんとうに、町の通りのどの家でもそのおまじないをやっているのを見かけて驚いた。よくあるてるてる坊主なんかじゃなくて、それよりもっとロマンチックな感じのするおまじない。まず最初にすることは、家のなかで、いちばんきれいで、欠けたり傷がついたりしていない窓をひとつ選ぶことだ。古い家で、どの窓もぜんぶ傷

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