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史料6 (続)楽譜に凝縮されたガリカニスム
前回に引き続き
「ヴェルサイユ宮殿の王室礼拝堂で使用するためのグラドゥアーレとアンティフォナ集」(1684-1686年) (※拙訳)
より
IN FESTO S. LUDOVICI REGRIS FRANCIÆ AD VESPERAS ANT. (P. 213-221)
晩課でのフランス王ルイの祭典 (※拙訳)
から214ページを扱う。
1.歌詞
213ページの最後に青字で "Psal." とあり、214ページの冒頭は "Dixit Dñs." と続く。
![](https://assets.st-note.com/img/1643491922932-NdWjLR61nS.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1643491857268-LMZzoMmdRA.png)
"Psal."はPsalm、すなわち詩篇のことである。"ñ" はスペイン語でエニェと呼ばれる文字で、nの上に~(ティルデ)を伴う。大文字だとÑ。現代ではスペイン語他いくつかの周辺地域の言語で使われるが、中世ラテン語では二重のn(=nn)を省略するために使われた。
しかし、中世の楽譜では紙面の関係上から更に大胆な省略を行うために使われる。何が省略されているか、元の歌詞が何かは、当時流布し一般的だった聖歌から推測される。よってこのDixit Dñsはほぼ100% "Dixit Dominus"のことを指すと推測され、則ちウルガタ聖書の詩篇第109編(通常の聖書の詩篇第110編)第1節だとわかる。ウルガタ聖書とは、カトリック教会の標準ラテン語訳聖書のことである。
Psalmi 109 Biblia Sacra Vulgata
109 Psalmus David. Dixit Dominus Domino meo: Sede a dextris meis, do
nec ponam inimicos tuos scabellum pedum tuorum.
https://www.biblegateway.com/passage/?search=Psalm%20109&version=CEV;VULGATE
1:詩編/ 110編 001節(旧約聖書、聖書協会共同訳)
ダビデの詩。賛歌。/主は、私の主に言われた。/「私の右に座れ/私があなたの敵をあなたの足台とするときまで。」
https://www.bible.or.jp/read/vers_search/titlechapter.html
Dixit Dominus は晩課で使用される聖書箇所であり、ヘンデル、ヴィヴァルディ、スカルラッティ、モーツァルトなど様々な音楽家も作曲している。
続くのは 6. "Aña." 、これはAntiphonaの省略形で、アンティフォナ(交唱)のことである。
![](https://assets.st-note.com/img/1643499321222-BsKafFK7UP.png)
Sedens in sólio judicii, omne malum dissipà vit intú itu suo.
聖書に完全に該当する箇所は無く、他のローマカトリックの公式聖歌集にも類似聖歌が無かった(個人調べ:Graduale romanum 1974, Antiphonale 1912, Liber Usualis 1962の三冊。)"6." が何を意味するのか、恐らく何かの6節だが何の6節なのか残念ながらわからなかった。
Google機械翻訳では
裁きの王座に座り、すべての悪はその道に散らばっています。
となった。
続くのは
![](https://assets.st-note.com/img/1643508292348-kcwHGTrzHJ.png?width=800)
Psal. Confitébor.
ConfitéborはConfessionと同義語で、カトリックの儀式で「告解」のことであり、「懺悔」の意味である。
さらに3. Aña.が続く。
Misericóedia & véritas custodierunt illum, roborátus est cleméntia thrónus ejus.
Misericóedia & véritas custodierunt illumの部分は該当する他の文献がひとつ見つかった(↓)が、詳細は不勉強により不明。全く見当違いの文献なような気はしている。聖書に完全に該当する箇所は無かった。
後半のroborátus est cleméntia thrónus ejus.についても聖書には見当たらず、他にも手掛かりは見つけられなかった。
このページの最後はPs. Beátus vir.で、さらに4.~と続く。
![](https://assets.st-note.com/img/1643509869078-yGbLEx1pFd.png)
Ps.はPsalm(詩編)の略で、Beatus vitはウルガタ聖書の詩篇第1編の冒頭と第111編第1節の文中に該当し、ヴィヴァルディ、モーツァルト、シャルパンティエなども作曲している。
詩篇第1編:
Psalmi 1 Biblia Sacra Vulgata
1 Beatus vir qui non abiit in consilio impiorum, et in via peccatorum non stetit, et in cathedra pestilentiae non sedit;
https://www.biblegateway.com/passage/?search=Psalmi+1&version=VULGATE
1:詩編/ 001編 001節(旧約聖書、新共同訳)
1. いかに幸いなことか/神に逆らう者の計らいに従って歩まず/罪ある者の道にとどまらず/傲慢な者と共に座らず
https://www.bible.or.jp/read/vers_search/titlechapter.html
詩篇第111編:
Psalmi 111:1 Biblia Sacra Vulgata
111 Alleluja, reversionis Aggaei et Zachariae. Beatus vir qui timet Dominum: in mandatis ejus volet nimis.
https://www.biblegateway.com/passage/?search=Psalmi+111&version=VULGATE
1:詩編/ 111編 001節(旧約聖書、新共同訳)
ハレルヤ。わたしは心を尽くして主に感謝をささげる/正しい人々の集い、会衆の中で。
https://www.bible.or.jp/read/vers_search/titlechapter.html
今回はここまで。
※無断転載を固く禁じます。
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