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やたら「言語化」を求められる時代に、たぶん就活にも役立つ、おもしろい本

面白くて役に立つ、そんな都合の良い本をいつも探している。そんな本があるのだろうか? それが、意外とあるのだ。

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この時期になると、就活中の学生さんと話す機会が増えた。

いま私はメディア関係で働いているけども、学生時代は理系。周囲は研究機関を目指す人ばかりで、本格的に就活する人も少なく、相談できる先輩もいなかった。

だから、「何から始めればいいのか」とか「求められる人材像」などは、正直よく分からない。「大事なことは?」と問われ、私から言えることはごくわずか。ほとんどひとつだけ、と言ってもよいかもしれない。

「世界をよく見て、感じ・考えたことを伝わる言葉で伝える」

これに尽きる。それを教えてくれたのは、本の中で出会った“憧れの先輩”達だった。

0. いま、なぜ「言語化」か

最近、やたらと「言語化」という言葉をよく聞く。その背景にあるのは、「これがいい」「これがすごい」を、分かりやすく伝える指標がなくなったからではないか。

「視聴率 20%」と言われてもイマイチすごさが分からないし、「あなたのスマホ、さらに0.5ミリ薄くなるんです!」と言われても、ときめかない。 

数字や性能よりも「ときめき」を重視するようになった、とも言えるかもしれない。「ときめき」には共感、納得、意味付け、物語みたいなことが大事で、どれも「ことば」が不可欠だ。

書物を紐解けば「伝わる言葉で伝える」プロがたくさんいる。どれも夢中になって読み返していたら、結果的に私の血肉になった。というか、私の血肉は、彼らの言葉でできている。

忙しく「意味ある本」だけ効率的に読みたいという気持ちも分かるから、なるべく読みやすいもの・学生から好評だったものを中心に選んだ。(読書家の方からは「どれも鉄板やないか!」と、厳しいツッコミを受けそうでヒヤヒヤしているけれども、そういうわけなのでご了承ください)

1. とりあえずのコレ

■佐藤可士和 『佐藤可士和の超整理術』

とにかく多くの人に「よかった!」と言ってもらった本。自己分析が進まず書けないのは、文章力がないわけでも「すごい経験」がないわけでもなく、自分自身の経験や考えを整理ができていないだけ、というのが著者の主張だ。あのユニクロ・柳井さんでさえ「うちの会社は何がしたいんだろう」と悩んだ時期があったという。その時に、一緒に悩み答え導き出し、現在のデザインの根幹を作ったのが著者の「整理する力」だった。


■古賀史健 『20歳の自分に受けさせたい文章講義』

note でも有名な古賀史健さんの本。「話せるのに、文章にできない」そんな悩みを抱えている人は少なくない。その理由はシンプルで「文章の書き方」を習ったことがないからだという。うまい文章ではなく、伝わる文書を書くにはどうすればいいか。何年も前に読んだが、今でも考えたことを言葉に落とし込む時に読み返す、私の教科書。
 一番好きなのは句読点の話。63連勝の白鵬関が負けた時のつぶやきを受けて、「これが、負けか」と書くか「これが負け、か」と書くか。「、」ひとつで印象は大きく変わる。


■水野学山口周 『世界観をつくる「感性×知性」の仕事術』

一時期、「ロジカルシンキング」が流行った。ロジックのすごいところは、誰がやっても同じ正解にたどり着くこと。でも、それなら「あなた」がやらなきゃダメな理由がない。この本によれば、これからは「物語」や「世界観」が重要になるらしい、そしてそれをどうやれば作れるのかを語った本。あ、著者のひとりは、あの「くまモン」を生み出し、ヒットさせた人。


■玉城真一郎 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』

世界観を作り、物語で誘う。その技で「ゲーム」に敵うものはない。テクノロジー・ビジネス・アート、すべてが交差し、それぞれの最先端のアイデアが流れこむのがゲーム業界。そこで培われた具体的なアイデアが惜しげもなく公開されているのだから、面白くないわけがない。「これゲーム業界の特殊技能では?」と思ったら… うーん、そんなことはないので「応用できるやん!」と納得するまで読み込んでほしい。


2. 活字が苦手なひと。息抜きしたいとき。

■寺山修司 『ポケットに名言を』

昔、ある学生に何気なく紹介したら「(就職した)今も、時々、読んでいます!」という声を聞き、ココに入れた。「自分って何が好きなんだろう」と迷ったら、この本を開き「気になった言葉」に付箋を貼りまくることをオススメしたい。最後まで読み終えたとき、きっと、「あなたはどんな人間か」を付箋を貼った言葉たちが教えてくれるはず。


■おかざき真里 『サプリ』

働いて一番おもしろかったのは、「働く理由」が十人十色なこと。自分の才能を証明するため、稼ぐため、暇つぶし、結婚相手を見つけるため。色々あるけど、みんながみんな自分の理由に本気。激務の現場で「働く意味」を見つけ出そうとする登場人物ひとりひとりの言葉が重い。働くすべての人に響く、名言の宝庫。


■かっぴー 『左利きのエレン』

「天才になれなかったすべての人へ」というキャッチコピーがもう天才的。このメッセージは「第一志望に行けなかった」「志望の部署に行けなかった」に変えても完全に代替可能。戦いはいつだって「これから」が勝負。


■山口つばさ 『ブルー・ピリオド』

「自分らしさ」「自分が本当にしたいこと」ほど、現代の私たちを苦しめている言葉はないと思う。それを言葉よりももっと難しい「絵」で表現しようとする若者達の物語。「自分」を描く上で、もっとも大事なことは、文字通り“裸”になることなのかもしれない。画家がやたら裸を描く理由が少しだけわかった。


3. 見たこと・考えたことを言葉にする達人たち

■清水潔 『桶川ストーカー殺人事件 ー遺言』

一冊の本が、人生を変えることなんてあるのだろうか。それが、あるのだ。ある学生に紹介したら見事にハマりこみ、そのまま記者になってしまった。それくらいの妖力を秘めた本。事実とは何か、真実とは何か。正義とは何か、法とは何か。報道で流れてくるニュースはあくまで事実の一面で、社会の仕組みは恐ろしく複雑で重層的。それを一つ一つほどいた先にしか「真実」はない。600ページあるが、あまりの面白さに一晩で読み切ってしまった。


■山際淳司 『スローカーブをもう一球』

以前、「瞬間」と「その前後」が大事という記事を書いた。その極地がスポーツの世界だ。中でも、有名な「江夏の21球」はスポーツが好きな人には是非読んでほしい名作。わずか21球の中に勝負のかけひき、超人的な技、ここに至るまでの歴史、人間臭さ、選手の人生、すべてが書き込まれている。


■川上量生 『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』

宮崎駿さんの絵は"正確"でないという。現実にはあり得ない画角だったり、大きさのバランスがおかしかったりする。もちろん、わざとだ。伝える際には「正確であること」よりも大事ことがある。それは、作り手自身が「自分のやりたいこと」が明確かどうかだという。


■米原万里 『魔女の1ダース』

自分が何者かを知る一番の近道は、「他者」と出会うことだ。外国人という他者と話すときには、知っているつもりの言葉でさえ、その意味を問い直す必要がある。それは「忖度」の直訳がない国の人に、その意味を伝えるためには、どうすれば伝わるか考えてみれば分かる。
ロシア語の同時通訳者が書いた文化論…と書くと堅苦しいが、あまりに面白く笑いが堪えられないので、電車の中で読むのはオススメしない。つくづく、著者が早逝したのが残念でならない、


■沢木耕太郎 『チェーン・スモーキング』

「特別な体験」がなければ、誰かを魅了する物語は伝えられないのではないか。そんなことを考えていた私の凝り固まった頭を、ガツンと気持ちよく殴ってくれた1冊。一冊の古本に書かれていた落書きから、タクシードライバーの会話まで、著者にかかればどこからでも「物語」は始まる。著者の目を通して見る世界は、きっとドラマに満ちているにちがいない。


■石井光太 『世界の美しさをひとつでも多く見つけたい』

無宗教な人間、迷信など信じない人間でも、それぞれの心の中に「小さな神様」を持っている。その人だけの物語、その人の価値観の核が「小さな神様」だ。その美しさに触れ、心の底から震えた経験があるからこそ、著者は世界の貧困の現場から、児童虐待、震災の火葬場まで、極限の現場を取材し続けるという。


■辺見庸 『もの食う人びと』

すごいノンフィクションには二つの条件があると思う。書いてある事実がすごい。その事実の背後にうごめく世界が広く深い。本書はその両方を完璧に満たしている。「食」という極めて具体的、個人的な体験を通して、ある時は戦争の悲惨さや世界経済の歪みを語り、またある時は共産主義とは何だったのかという大テーマを斬る。「ハイパー・ハードボイルド・グルメリポート 20世紀版」といったところ。家を飛び出し、街をよく見て、舌で味わおう。


4. 最後は、鳥の目で俯瞰して

■ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』

すごく話題になったし、ベストセラーにもなったので紹介するかどうか迷った。今更感が拭えない。それでも「言語化」の力を語るなら外せない著作だと思う。冒頭で、現代では「言語化」が求められていると書いたけれども、それは別に現代に限った話では無かったのだ。農業の普及、ルネサンス、フランス革命、科学革命、共産主義、そして民主主義。そのすべてで、運動を支えたのは言葉であり、「物語」であったと喝破する。言葉の紡ぐ物語が、いかに人類史をドライブしてきたか見渡したい。


■ナショナル・ジオグラフィック 『ピュリツァー賞 受賞写真全記録』

どのページでもいいからパッと開き、まず写真を、写真だけを見てほしい。見るからに「決定的な瞬間」をとらえている写真もあれば、一見しては何を表現しているのか分からない写真もある。じっくり見たあとで、そこに捕捉されている説明・ストーリーを読んでみてほしい。すると、写真の見え方が大きく変わる。もう読む前の自分には二度と戻れない。言葉には誰かの「世界の見え方」を決定的に変えてしまう力がある。言葉の力、物語の力を是非あなたの目で体感してほしい。


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