伝えるために、インタビューで大事だと思うこと
たとえば、仕事や就活などで「インタビュー」をしなきゃいけないとして、
「あなたのターニングポイントは?」
と聞いても、なかなか良い答えは出てきません。
どう聞けばよいのか、というお話です。
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10年くらいテレビ番組のディレクターをやってきましたが、ふり返ると、もっとも時間を費やしているのは「撮る」でも「編集」でもなく、「聞く」ではないかと思います。
制作時間の半分以上は聞いているかもしれません。そう考えると「聞く」ことでお金をもらえる不思議な仕事です。まるで、教会の懺悔室に座る神父みたい。
最近、人事の方や学生から「質問の仕方」「聞き方」について聞かれることが重なり、自分でも整理したくなりました。
■「伝える」の根っこは「聞く」
書く。口頭で伝える。映像にする。伝える方法には様々ありますが、ひとりでも人間が登場するかぎり「伝える」の根っこを支えるのは「聞く」だと感じています。
就職活動のエントリーシートのような文章も、見方を変えれば「自分自身を取材して書く、ノンフィクション」と言えるかもしれません。
インタビューには「その人しか知らない事実」を聞くものと、「感情や価値観」を聞くものがありますが、今回は特に「感情や価値観」について考えたいと思います。
■インタビューは「終わり」が大事
私がインタビューで大事だと思うのは「質問項目」でも「質問の順番」でも「聞き方」でもありません。「何が聞ければ終われるか」を聞き手が分かっていることです。
終わりの目安がないと、事前に作った「質問リスト」を上から順番に聞いていくことになります。そして、一番下までいくと「えっと…聞きたいことは以上です」と、今ひとつ自信が持てないまま終わってしまいます。
その後、「さぁ原稿にまとめるぞ!」とパソコンに向かうも、まったく筆が進まない。そんな苦い経験が私にも数え切れないほどあります。書けない理由は明白で、要は「聞けてない」のです。
■できあがりをイメージしてみる
どこまで届けば質問を終われるか、私が意識しているのはできあがりを物語としてイメージすることです。
たとえば、Aさんに「ターニングポイント」を聞くなら、頭に置いているのはこんな物語構造です。
<ターニングポイント の物語構造>
Aさんには、忘れられない瞬間がある。
それは20XX年の■■だ。
それまで、●●だと考えていたAさん。
しかし、あの瞬間、▲▲だと痛感したのだ。
以来、見える世界が変わった。
たとえるなら、それは ★★ のような体験だった。
「物語の枠組み」を作っておくと言ってもよいかもしれません。
これは、
<質問リスト>
・ターニングポイントはいつですか?
・そこでどんな変化がありましたか?
・それを、例えると?
という「質問リスト」だけを用意しておくことと、似ているけどまったく違います。
誤解してほしくないのですが、「物語」を台本のように相手に押し付け、埋めてもらうというのとも少し違います。■■ や ●● に入るような言葉を一緒に探す。「聞く」というよりも「見つける」というイメージです。
(ちょっと感覚的ですみません)
「忘れられない瞬間」とか「痛感」とか「世界が変わった」とか、”強め”の言葉を選んでいますが、これもあえてです。インタビューでもっとも気をつけたいのは、分かったつもりになること。強めの言葉を選ぶことで、自分自身の「分かった」のハードルが上がります。
なんとなく核心に近づいてるような気がする。そんな時こそ、物語の型にいれてみることで「ここまで断定して大丈夫だろうか?」と吟味することができます。また、相手にも「言いたいのは、こういうことですか?」と確認しやすくなります。
また、●●や▲▲に入れる言葉を1つに絞ることも大事です。2つ以上の候補がある場合は、どちらがより重要かを天秤にかけ、相手に尋ね、絞っていきます。
その吟味を経て、それでも言い切ることが許されるなら、そのエピソードは十分に強烈な体験だし、"真実味がある”と言ってよいのではないでしょうか。
実際には、こんな劇画チックな文章は広報誌やらエントリーシートには載せにくいでしょうから、媒体に合わせた文体へ整えていきます。 しかし、それはエピソードが固まった後の作業です。
あくまでキーとなる事実を見つけるのが優先、文体はあとです。
■「瞬間」を意識すると、シーンが浮かびあがる
「瞬間」という時間的に短い一点に絞ることにも理由があります。
たとえば、あるスポーツ選手に「印象に残った試合」について尋ねるとしましょう。
選手は「全国大会の決勝戦」と、イベントで答えるかもしれません。でも、それだけではその試合が彼の人生において、どんな「意味」を持っているのか。いまひとつ見えてきません。
「トロフィーの重さを両手に感じた瞬間」なのか、「優勝が決まるホイッスルがなった瞬間」なのかによっても微妙に言いたいことが違ってきそうです。
話していく中で「優勝した瞬間、私はピッチにいなかった」という話が出てくれば、それは重大な意味が隠されているにおいがしてきます。
また、「イベント」ではなく「瞬間」を意識することで、その時の匂いや息づかい、空気感も知りたくなってきます。
そんな生き生きとしたシーンは、文章にせよ映像にせよ、誰かに伝える際の重要な材料。料理でいえばメインディッシュの食材になります。
■瞬間を定めると、ビフォー・アフターが生まれる
キモとなる「瞬間」を見つけると、自然と「その前」と「その後」が生まれます。このビフォー・アフターが大事です。ともすると、「瞬間」そのものよりも大事かもしれません。
『劇的ビフォーアフター』という番組がありましたが、アフターの美しい家だけ見せられても感動しないですよね。作業中の匠の真剣な表情だけ見ても、ありがたみが見えてきません。前後があって初めて、匠の凄さが分かります。
『もののけ姫』の「生きろ、そなたは美しい」という台詞が印象的なのは、そこをターニングポイントとして、サンのアシタカを見る目が決定的に変わるからです。
ソチ五輪で浅田真央さんのフリー演技終了後の涙に感動するのは、前日のショートプログラムがあるからです。
「物語」とは、ビフォー・アフターのことである。そう言いきってもよいかもしれません。なので、とにかく丁寧に「前と後で何が変わったのか」を聞きます。
ビフォー・アフターがあって初めて、その話を聞いた第三者が泣いたり笑ったり、共感したり学びとなるような疑似体験ができる。つまり「伝わる」のではないでしょうか。
ジョセフ・キャンベルという人が、世界にある「神話」を研究し気づいたことの一つに、多くのストーリーが【日常】⇒【非日常】⇒【日常】という構造を持っていることがあります。
「非日常」という旅を終えて日常に戻ってきた旅人、しかし、かつての日常とは見える景色や感じ方がちがっています。その変化こそが、「非日常」の旅が主人公にもたらした意味と言えるのではないでしょうか。
余談ですが、キャンベルの授業を大学で受けたジョージ・ルーカスが感銘を受け、その「神話の構造」をそのまま映画にしたのが、あの「スター・ウォーズ」だそうです。
■「聞く」 は共同作業
インタビューには、「その人が考えたこともなかったこと」について語ってもらう側面もあります。
そういう時は質問の後、沈黙が訪れます。この時間は相手が、記憶と日本語の海を泳ぎながら、宝石のようなひとつの言葉を探している神聖な時間です。この沈黙の間、私は何が出てくるのだろうと期待感で一杯になります。
それでも言葉が出てこない場合、こちらの「仮説」をあててみます。
それに対して「言われてみれば、そうかもしれない」と返していただける場合がありますが、これこそ質問者冥利に尽きる瞬間です。
その人が自分の人生を理解し納得するお手伝いできたような、そんな感覚になるからでしょうか。それが「聞く」の醍醐味なのかもしれません。
ひとりで言葉を見つけることは、本当に難しい。それは超一流の表現者でも同じようです。
作家・沢木耕太郎さんが『象が空を』というエッセイ集の中で、山田洋次監督にインタビューした時のことを書いています。
山田監督は「無個性という個性」の難しさについて、文楽の人形師の話にたとえて説明します。これは山田監督にとっても初めて用いた説明だったようです。
以来、山田洋次監督は気に入ったのか、その表現を色んなところで使うようになったそうです。しまいには、沢木さんのインタビューが原典にも関わらず、沢木さんは自らが書いた山田洋次論に対し、「山田洋次の人形の話は自分も聞いた。使い古された評だ」という批判まで受けてしまったことがあるそうです。
山田洋次監督は沢木さんのインタビューを通して初めて、「若い頃、個性がなかった」という悩みに対する、自分なりの納得した答えを見つけられたのだと思います。
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今、ネット上ではいつも”議論”が起きていますが、議論しても議論しても解決するどころか、対立が鮮明になっていくように感じます。
それは、みんなが自らの正しさや主張を「伝える」ことばかりに執着し、「聞く」ことが少ないために見えてなりません。
ストーリーを押し付けるのでなく、相手のストーリーを読むように聞く。こちらの正しさを押し付けるのではなく、相手が正しいと信じているものに寄り添う。
聞くこと、これからもっと大事になっていくような気がする、今日この頃です。
(今後も聞くことについて考えたこと、書き加えたいと思います)
【参考】と【オススメ】
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