みんなで、新しい時代へ。フリーランス教師 木野 雄介さん 後編
非常勤講師として学校で教鞭をとりながら、民間会社の教育関係事業にも携わるフリーランス複業教師の木野雄介さん。
昨年、10年勤めた学校を辞めることを決断した木野さん。教育への想いを、さらにお聞きしてみました。
前編はこちら
「君は、この攻略本でいきなよ」とは言えない。
──一人一人がイキイキと社会を生きていくために、学ぶモチベーションを生徒が自分で見つける。という教育観を持ったきっかけを教えてください。
5年くらい前かな。中学校1年生を担任した時です。目の前にいる12歳の子たちが、高校を卒業する6年後がどんな社会になっているのか。そして、どんなことを生徒が身に付けたらいいのかを考えたんです。でも、こんな僕みたいなおじさんがね、昭和の知識で「これからは英語だ!ICTだ!」と偉そうに言うことは、ちゃんちゃらおかしいなと。体験的なことを通して、社会をもっとみんなで一緒に見て、それぞれが感じる。そして、興味のあるものを見つける。それは、アニメとか音楽とか、なんでもいいと思う。それを教師が「アニメや音楽は先がないぞ」って言うのはおかしいと思うんです。教師は予言者じゃないんで…。
自分の人生は自分のものなんです。親のものではないんです。自己決定し、最終的には自分で責任取らなきゃいけないと思っています。それくらい真剣に生きてほしい。そこを、教師としてどうやってサポートすることがベストなのかと考えたのです。一人一人に対して「君はこうだよ。この攻略本でいきな」と押し付けることはできない。だから、一人一人が色んな体験、実践をして、学校は安心して失敗できる環境を作っておく必要があると思います。僕は、教師としてお手伝いはします。ですが、生徒自身が感じて、思考し、決断して、行動することの邪魔はしないと決めたんです。
学校では、生徒たちを子供扱いしている。
この資料を見てもらえますか。これは、「18歳意識調査」いって、下記9カ国の17~19歳各1,000人を対象に国や社会に対する意識を調査したものです。日本の若者の意識レベルが著しく低いことがわかります。
引用:日本財団.“日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)”. 日本財団ホームページ.
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20191130-38555.html, (2021/02/05)
学校では生徒たちをお子さま扱いし、自分たちでは何も決めさせないようにしている。実は、係や委員会の種類、つまり存在そのものは先生が、先に決めちゃっている。クラスや部活では担任や顧問が王様のごとく、独自のルールを勝手に作っています。修学旅行だって、先生が決めた通りに生徒たちは行動するだけ。そのため、学校に通えば通うほど、無意識に思考停止する癖が身についてしまいます。そして、最終的には誰かのせいにしてしまう…。このような非民主的な学校教育の現状が「18歳意識調査」に如実に現れてしまったんだと、僕は考察しています。
東大の石壁に一つだけポツンとある穴を見つけ、歴史に想いを馳せながら、興奮している木野さん。さすが歴史の先生です。
生徒が自分で選ぶことが、自律の第一歩。
──「生徒たちを、子供扱い」しないためにはどんなことが必要だと思いますか。
教育の最終的な目標は、子どもが自分でなんでもできるようになること、つまり「自律」だと考えています。例えば、赤ちゃんのオムツの履き替え。赤ちゃんの時は、親がやってあげているけど練習していく内に、自分でできるようになる。つまり、自立には練習が必要なんです。
だけど、「まだできないよね。子供だから」と全部、保護者や先生が先に手を出しちゃう。授業でも、ノートをとる、とらないは生徒が自分で決めればいいんだけど「プリント作りました」と言うと、生徒はすっごい喜ぶ。生徒としては、全部ノート取ってくださいと言う先生よりも、プリントを作ってくれる先生の方が良いとなる。ノートやプリントを提出させる先生もいます。だけど、そうすると生徒はそれらを一生懸命作るために、授業を受けるようになってしまう。目的が変わってきてしまうのです。このように、教師が手をかければかけるほど、生徒って自律しないんです。学校の先生は勇気を持って、手を離して自律の練習をさせてあげないといけない。もちろん、先生が全く手を貸さないという意味では、ありません。そのタイミングとかバランス、駆け引きみたいなものが大事かなと思っています。
──例えば親子だと、1対1の話ですが、先生と生徒だと1対30。どのように、自律させるポイントを判断するんですか。
毎回やっているわけではないのですが…。例えば、プリントだったら欲しい人だけ、どうぞ、と。あとはノートも出したい人だけ、出していいよと。出したら加点するのではなくて、ノートの作り方などについて、先生からアドバイスが欲しい人は出してもいいよと。基本的には、子供が選ぶということが、自律の第一歩だと思うんです。それは、失敗してもいいよというメッセージでもあると考えています。
僕、教室も好きなようにデザインしていいよと生徒に言うんです。机の並べ方、黒板や備品はどうするのか。自分たちが効率が良いように、快適な環境にしていいよと。例えば、掃除をしてピカピカにして、自分たちの教室だけ土禁ルールにしたっていいよと。その代わり、それをするには何かしらの手続きが必要だから、調べて、話し合って、メリットデメリットを考えて、みんなで決める。そういうことを練習しないと、自律性が身につかない。
それだと、ずっと奈良時代のままなの。
──木野さんは、最近の世の中を見ていて、気になることはありますか?
僕は日本史の先生だから、そういう観点で見ると、縄文時代から弥生時代へ、大和時代から奈良時代へ…。時代が変わっていく時に、政治的、文化的に社会を最適化しようと頑張ってきた人たちがいたから、時代が変わってきたんです。今の時代は、とびぬけてすごい人が出てきて、急に、様々なことが変わってはいかない。だけど、じわじわっと、ゆっくり、大きく色んなことが変わっていく。その流れについていけない、ついていかない人が存在している。今のままでいいんじゃないかという保守的な人は、気づかないまま取り残されていく。そういった人々との間で、分断が起きていることが気になります。
──保守的な人と、革新的な人の二極化が進んでいますよね。
そうですよね。人々が分断されたままだと、新たな世界は作れない。それだと、ずっと奈良時代なの。笑。「奈良から平安京に行こう!」という革新的な人がいて、その人たちが社会、文化を醸成して、みんなに新たな価値観を浸透させた。そうやって新しい時代に変わっていったという歴史がある。私たちも、新しいことに恐れずチャレンジをして、「新しい時代を作ろう!」と旗を揚げていかないといけない。
そのために、自己肯定感の強い人間を増やしたい。そうすることで、自分のことと同じように他者、そして、みんなが作ってきた社会を大切にすることができる。自分は、社会の一員なんだ。だから自分の幸せも、他人の幸せも大切にしようと思う人が増えて、より社会が最適化されていく。自分が「教育」に携わることで、そんな新しい時代を作る一端を担いたいと思っています。
自分が、自分の人生を生きる。
当たり前のようでいて、実は難しいことなのかもしれません。
誰のものでもない、自分の人生を、自分の意思で歩んでいくこと。
その積み重ねが、社会を良くしていく。新しい時代をつくる。
みんなで、自分の人生を生きて、新しい時代へ行こう!
そのために社会の一員として、わたしに何ができるだろうか…。考えて、行動していきたいと思います。木野さん、ありがとうございました。
取材・文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿 (MSPG Studio)
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