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年月が紡ぐ世界観。後編 Bar RR 代表 大山 暁 さん

トム・クルーズ主演の映画「カクテル」の華やかな世界観に憧れて、バーの世界に入った大山さん。その世界に入ってみると厳しい世界で想像とは違ったが、その独特の世界観に引き込まれていきました。そんな大山さんに、もう少しお話を聞いてみました。

前編はこちら

自分が生まれ育った街にこの世界観を、作りたかった。

──独立してお店を始めた時、どんな気持ちで始めたのですか。

 19歳でバーテンダーとして働き始めた時に、30歳までに、どんな状況であっても、お店を出すと決めていたんです。それまでに人、知識、お金など必要なものを身につけようと。なので、29歳でお店を開くことは思っていた通り、描いていた通りになりました。

 僕は、東京北区が地元でして。今でこそ、赤羽という街の知名度は上がって、お洒落なお店も増えてきました。ですが開業当時は、まだセンベロの街という印象が強く、ちゃんとしたオーセンティックなバーがなかったのです。生まれ育った街にバーを作って、赤羽周辺に住んでいる方たちにも、こういう世界観を楽しんでいただきたかった。赤羽で開くと決めた時に周りには「赤羽でそんなお店求めている人、いないよ」と散々言われましたね。ですが、おかげさまでお客様に恵まれて、オープンして12周年を迎え、13年目になります。

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鮮明にあった、お店のイメージ。

──なかなか飲食店で12年間、続けることは難しいことですよね。お店の雰囲気、すごく素敵です。世界観を感じます。

 bar RRは一度、引っ越しをしています。開業当時は、駅前の商業ビルの中でやっていました。ですが、途中でオーナーさんの意向でその物件をマンションにするとのことで、物件を探さないといけなくなりました。今の物件は、自分で歩いて探して見つけましたね。元々、建築事務所のモデルルーム兼オフィスだったんです。実は、内観は図面なしで作ったんですよ。僕の頭の中で鮮明なイメージができていたので、お付き合いのある職人さんたちにお伝えして、作ってもらいました。

──図面なしで!すごいですね。

 図面に起こす作業をすっ飛ばして、お客様にこの世界観をダイレクトに伝えたかったんです。笑。でも、職人さんは困りますよね。「大山さんは、頭の中でイメージができているかもしれないんですけど、図面がないと、僕たちには分からないですよ」と言われて…。本当に自分の感覚で、カウンターの厚さや電気の配線の引き方などを決めました。照明は自分でアンティークショップで調達して…。元々、建築事務所さんが作った素敵な土台があったのも大きかったですね。窓や階段などは一切いじってないんです。職人さんたちは全体像が分からない状態で作り始めたので、全てが出来上がった時に、「あーこういう感じになったのね」と驚いていました。時間がとにかくかかりましたね。本当に職人さんたちには、感謝しています。

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ショートカットはできない。

──すごいですね。作っている工場の人たちがレシピを全く知らない中、シャルトリューズの修道士が遠隔で指示して製造を行う形と、なんだか似ていますね。笑。

 確かにそうですね。笑。お酒を扱う職業に20年近く就いていて思うのは、「この世界では近道、ショートカットはできない」ということなんです。
歴史があり、高級と言われるウィスキー、ワインの作り手たちがよく言うのは、今日、自分たちが作ったお酒を樽に詰めたものは、すぐには商品にならない。10年、20年と熟成した後に、未来のスタッフがボトル詰めをして、消費者に提供される。その未来のために、今日、お酒づくりをしているんだ、と。その継承の文化ってすごいなと。目の前で自分が作ったものを、味わう姿は見られない。だけども、未来のために今の仕事をする…。そして、その熟成という年月、時間はショートカットができない。

 今、中国やシンガポールといったアジアの新興国が、ウィスキーの熟成に必要な10年、12年の間に何が起きているかを科学的に研究しています。味や出ているエキス分を数値化して、熟成を1年程度にショートカットできないかを試みているんですけど…。近いものはできても、いまだに再現は不可能なのです。やはり自然の力って、すごいなと思うんですよ。ウィスキーは木の樽で熟成させることで、味がついて、色がついて…。まさしく、自然の恵みじゃないですか。その恵みは科学の力を持っても、再現ができない。

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伝い手としての、バーテンダー。

 バーテンダーも、ショートカットができないと思うんです。年月でしか自分に身につかない世界観がある。僕たちが扱うお酒たちは作り手の元で、静かに年月を重ねてきている。その世界観をお客様に伝えるには、自分も年月の積み重ねを経て、熟成されないといけない。

 自分はバーテンダーとして、ウィスキーをお客様のグラスに注ぐ時、お客様と作り手の間に立つじゃないですか。その両者の間に立つ者として、作り手の意見、想いをお客様に代弁者として、伝えていく。結果、お客様の生活が豊かになって、作り手たちもお客様に想いを理解してもらった上で、飲んでもらえる…。そういったことができるバーテンダーが、良いバーテンダーだと言えると、僕は考えます。

飲食を通じて、お客様の世界を広げていきたい。

──大山さんは、これからどのように、バーテンダーとして生きていきたいですか。

 人間が生きるためには食べたり飲んだりは必要なので、一生していくことですよね。どうせすることだから、そこを最大限楽しんだ方が、人生絶対楽しい。楽しくなってきたら、その歴史背景や産地のことにも、興味が湧いてくると思うんです。深く知りたい、もっと味わいたいという気持ち。これが生きる原動力になると思うんです。加えて、うちのお店のように、オーセンティクなバーに置いてあるお酒はほとんどが輸入品で、様々な国からはるばるやって来ています。お酒を通して、様々な国の文化、風に触れて欲しいです。お客様に飲食を通して、価値観を広げるきっかけを提供し続けていきたいと思います。

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最新のものが良い、スピード感が早いものが良い…。
効率が高いものが正義。といった価値観は、当たり前のように私たちの中に根付いています。

ですが、本当にそうなのでしょうか。
私たちは、年月を重ねて、さまざまなことを経験していく中で、色んなことに気づき、成長していきます。その積み重ねにより、時を重ねることでしか作れない感覚、価値観が醸成される。そういったことを、忘れずに生きていきたい、そう感じたインタビューでした。

大山さん、お話ありがとうございました。

取材・文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿 (MSPG Studio)

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