💤『スリーパーズ・ハイ』|第0部 インソムニアはサンタの夢を見る|愛夢ラノベP【短編小説/ライトノベル】
第0部 インソムニアはサンタの夢を見る
なんか右腕が重い……そう思い、夜中に目が覚める。だが、サンタクロースに腕枕をしていたから、まだ夢の中だと間違える。
こんな始まりは、ライトノベルでも考えられない。でも、事実は小説より奇なり。いきなり腕が痛い。
俺のベッドでは、サンタコスをした少女がスヤスヤ寝息を立てていた。軽い長髪に反して、頭はスイカばりに重い。そのため、右腕はピリピリ痺れる。
「……って、起きろ! お前は誰だ?」
「ムニャムニャ、あと5分だけ」
「ダメだ、今すぐ起きろ」
掛け布団をめくり、ベッドから蹴り出す。すると、サンタはアクロバティックな後ろ回りをして、そのまま本棚にぶつかる。
ぼたん雪のように、ひらひらとページがめくれながら、ドサドサと本が降る。サンタは本の下敷きになり、カマクラみたいな純白のパンツを披露する。
中学3年生には刺激が強い。ただ、二度とないチャンスなので、目は離せない。
――12月24日の午前0時、性の6時間。
今宵は誰もがショートスリーパー、でも中学生は夜ふかしすら校則違反。
親だって寝静まる深夜、都内なのに外は珍しく雪。真冬の室温は、肌を指すほど冷たく、吐息は雲のように白い。そんな物寂しい室内を、月光のスポットライトが照らす。
暗闇には、サンタだけが浮かび上がる。
「イテテテテ、酷いじゃない。なんて事をするの!」
「それは俺のセリフだ。どうやって家に入った?」
「煙突からよ」
「この家に煙突はない。というか、お前は誰だ?」
「見ての通り、サンタクロースよ」
一泊置く、どこがサンタクロース?
侮られた俺の観察力、彼女の発言は真っ赤な嘘だ。七つ道具もないし、やっぱ黒い。ただ苦労する俺を尻目に、彼女は怪しいまま動く。
「サンタなんて、この世にいない」と立ち上がる。
「可愛そうな童貞ね。ロマンチストじゃなきゃ、女子にはモテないわ」
「俺は童貞じゃない。いや、話を逸らすな。正体を言わないなら、警察を呼ぶぞ」とスマホを手に取る。
「それだけは待って……はあぁーー、分かったわ。私は眠り姫よ」
眠り姫――同い年くらいの女子、背丈は推定164センチでCカップ。
亜麻色の長髪をポニーテールにしている。アイアンオパールみたいな瞳は、遊色効果で見る角度によって七色に光る。
そんな彼女は、トンキで売っているようなサンタコスを着ている。白髭はないが、赤い帽子に、赤いワンピースに、赤いマントと赤一色。そのどれもが白いレースを端に置く。
「冗談はよせ。サンタの次は眠り姫だと……童話が好きなのか?」
「その眠り姫じゃないわ。私は人の夢に入れるの」
「嘘は止めろ。新手の泥棒か?」
「泥棒でもないし、嘘も言っていないわ」
「全く信用できない」
「なら、証拠を見せるわ。あなた、溺れる悪夢を見ていたでしょ」
眠り姫の言葉で背筋が凍った。そう、俺は不眠症だ。毎晩、夢の中では海を漂った。月光に照らされる大海で、海の藻屑になると思った。
「たしかに、俺は半年前から海で溺死する夢を見ている」
「その溺れる夢は、不安や心配事の表れよ」
「もしかしたら受験のプレッシャーかもな。俺の親は開西高校の卒業生で、俺も高校受験を強いられた。だが、なぜ俺の悪夢を知っている」
「だから、私は眠り姫で、他人の夢に入り、悪夢を食べられるの」
「まるで獏みたいだな。悪夢を食べられた人は、どうなる?」
「ぐっすり寝るわ。本来はバレないけど、あなたは特別な力があるのかもね」
「もし君が本当に眠り姫なら、もう俺は悪夢を見ないのか?」
「まだ完璧に夢魔を倒せていないから、悪夢は見るわ。でも、もし……いえ、警察を呼ぶのでしょ。私は帰るわ」
「待ってくれ。本当に悪夢を見ないなら、君を信じる」
「ふーん、じゃ、もう少し添い寝させて」と眠り姫は布団に潜り込む。
「はぁ?」
「ボケっと立っていないで、はやく布団に入って」
「なぜ? 他に方法はないのか?」
「あのね、夢魔を倒して悪夢を解くには、添い寝するしかないの」
「……本当に他に手段はないのか?」
「ないわ、私が隣で寝て、あなたの夢を幸せにしてあ・げ・る」
正直、俺は眠り姫の話を半信半疑で聞いていた。だが、もし本当に添い寝するだけで悪夢から解放されるなら、彼女と寝ようと考えていた。
常軌を逸していると思うだろうが、それほど悪夢に苦しめられていた。
眠り姫のめくる布団に、サッと滑り込む。
もちろん、イヤらしい気持ちは……ないと言えばない。だが、あると言えば、少しある。
だって、眠り姫の肌は豆腐みたいに柔らかく、その髪は猫みたいにフカフカで、寝返りを打つたびにフレグランスな香りが立ち込め、その胸は抱き枕みたいに俺を包み込んだ。
「なんかドキドキして眠れない」
「うふふっ、じゃ、子守唄を歌ってあげる。ねーむれー、ねーむれー、姫の胸にー」
眠り姫の存在で気持ちが高揚した。ただ、理由はわからないが、彼女に頭を撫でられると、その歌声を聞くと、エロい事を考える暇もなく、俺は半年ぶりに深い眠りに落ちた。
それはまるで深海に沈むように。
もちろん、眠り姫の言うとおり、その夜は悪夢を見なかった。
これが眠り姫との最初の出会いなのだが……不思議な事に、その日以来、眠り姫の姿を見ていなかった――彼女の存在すらも幸福な夢みたいに。
こうして俺は平穏な日常を取り戻したかに思えたが、桜が咲く頃に、今度は他人の悪夢に魘されるようになった。
そして、時期を同じくして、俺と眠り姫は再会するのだが、彼女はインソムニアになってしまっていた。
一体、眠り姫に何が起きたのだろうか?
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