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生きる意味

2浪目の時、「目標」を書くことがとても嫌いだった。
目標なんてものを書いたとて、合格する人は合格するし、不合格になる人は不合格になる。
その過程そのものがどんなに正しくあろうと、結局は結果のみで人は判断され、価値づけられる。
そのように思っていきていた。

今もほとんど変わらない生き方である。
夢を失ってからは、何か夢をもっているわけではなく、それでもいいやと思って生きてはいるが、しかし、外部の圧力から日々「目標をもって生きていくこと」を強制させられる毎日である。
しかし夢を追っていたときもまた、何かを目標に生きていたわけではなく、日々目の前のことに一生懸命取り組んでいた覚えがある。

二浪目のときから、目標を持つことよりも、気にしていたことがある。それが「目の前の問題にとことん付き合う」ということであった。
多くの問題をこなして量を積むよりも、目の前のたった一問の問題を真剣に考察することで、量をも凌駕する知恵を得られると考えていた。

これは、入れ知恵である。予備校の数学の教師が言っていたのである。
思えば、最も量を重視されるイメージにある数学において、私の通っていた予備校の教師たちはたった一度も「量の大切さ」を問うていなかった。彼らはほぼすべて「目の前の問題を懸命に解くこと」をわたしたちに教え、その問題を「何度も繰り返すこと」を日々語っていた。

『夜と霧』にこんな一説がある。

生きることは日々、そして時々刻々、問いかけてくる。わたしたちはその問いに答えを迫られている。考え込んだり言辞を弄することによってではなく、ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない。

V•E•フランク,『夜と霧』,2002:129-130 

強制収容所という、最も過酷な場であっても、そこで問われるのは、「どう生きるのか」という一点に集約され、その問いに対して常に真っ向から答えようとする姿勢そのものが、生きる糧であったのだといえる。

収容所生活の外面的困難を内面にとっての試練とする代わりに、目下の自分のありようを真摯に受けとめず、これは非本来的ななにかなのだと高をくくり、こういうことの前では過去の生活にしがみついて心を閉ざしていたほうが得策だと考えるのだ。このような人間に成長は望めない。被収容者として過ごす時間がもたらす苛酷さのもとで高いレベルへと飛躍することはないのだ。……もちろん、そんなことができるのは、ごくかぎられた人びとだった。しかし彼らは、外面的には破綻し、死すらも避けられない状況にあってなお、人間としての崇高さにたっしたのだ。ごくふつうのありようをしていた以前なら、彼らにしても可能ではなかったかもしれない崇高さに。……人間の真価は収容所生活でこそ発揮されたのだ。おびただしい被収容者のように無気力にその日をやり過ごしたか、あるいは、ごく少数の人びとのように内面的な勝利をかちえたか、ということに。

V•E•フランク,『夜と霧』,2002:121-123 

生きること、そのものへの問いの行為こそが、わたしたちのエネルギーなのであるとすれば、現在と未来に生きることの不安から過去にしがみつくことのみならず、過去から解放された錯覚をもって現在を生きること、すなわち現実逃避もまた、生きるということの壮大な問いからの逃走だといえる。
現実逃避とはすなわち、テレビを見て時間を過ごし、SNSをみて暇な時間をもてあそび、話したくもない内容のお話を喋って何となく過ごすような、そうしたあり方ではないだろうか。
そうした生き方では崇高な生き方に行き着くことは、もはや不可能なのである。
いや、一概にそう言えるわけではないのだろうか。ある意味、どんな事柄であっても、ぶつかり、砕けることが、崇高な領域への足掛かりになるのではないだろうか。
すなわち、どのような行動をとるかという具体的内容によって、生き方の崇高さは決定されるのではなく、目の前の対象を前にして、それにどのように向き合うのか、それが発するであろう多くの問いに対してどのように向き合っていこうとするのか、そのエネルギーをださなければ何も得られないのである。
意味のないものはこの世には存在しない。
意味を見いだせないということしか存在しない。
「世界は意味にあふれている」といったのは、予備校の講師であった。空と地と水とをみて、何も見えないものの中に、何か関係性を見出すことを教えてくれたのは、ヴェネツィアでの講師だった。
「意味が無い」ではなく、「意味を見いだせない」状態を少しでも見つけてしまったら、そこに意味を見出すような取り組みをすることが、今を生き、未来を作り出すということなのであろう。

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