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映画レビュー『HOUSE ハウス』(1977)特撮のオンパレード、贅沢なヌードの使い方

大林宣彦監督の
商業長編デビュー作

映画が好きで、
これまでにもレビューを
いろいろ書いてきましたが、

意外と王道の作品を
観たことがなかったりします。

邦画の中では、
大林宣彦監督の作品は
ほとんど観たことが
ありませんでした。

大林監督といえば、
広島の尾道を舞台にした
「尾道三部作」が有名ですね。

(『転校生』(’82)
 『時をかける少女』(’83)
 『さびしんぼう』(’85))

私はどの作品も観たことがなく、
大林監督の作品のリストを見ると、

唯一、観たことがあるのは、
『水の旅人 侍KIDS』(’93)のみで、

しかも、観たのは
小学生の頃のなので、
おぼろげな記憶しかありません。

確か、山崎努演じる
一寸法師のような侍が
出てくる特撮だった気がします。

大林監督に関して、
それくらいの知識しかない私ですが、

以前から気になっていたのが
今回ご紹介する本作です。

大林監督は、
’40年代から自主制作で
短編映画を作っていましたが、

映画の配給会社がついた
商業作品を手掛けたのは、
本作がはじめてのことでした。

女子高生が、とある家に行き、
そこで惨劇が起こるホラー作品
というのは知っていて、

DVD の一風変わったイラストも
気になっていました。

一部ではカルト的な人気を誇る作品
というのも有名な話で、
そういった部分も
気になるところでした。

特撮のオンパレード、
贅沢なヌードの使い方

ストーリーは、前述したように
「女子高生が、とある家に行き、
 そこで惨劇が起こる」
というものです。

こう書くと、ミステリーっぽい
印象を与えてしまいますが、
犯人探しや謎解きのような要素は、
ほぼありません。

作品を貶めるつもりはありませんが、

とにかく
「ただただ気持ちが悪い」作品です(笑)

「気持ちが悪い」
というのもいろいろ種類がありますが、

本作の場合は、
ありとあらゆる気持ち悪さが
詰まっていると言いましょうか、

一言では言い表せない
独特な風合いがあります。

手足がバラバラになったり、

見た目のグロテスクさも
あることはあるんですが、

当時の特撮の稚拙さも
相まって、

本当に独特な気持ち悪さに
なっているんですよね。

私はゲームも好きで、
’90年代に流行った
『クロックタワー』という
ホラーゲームがあるんですが、

あの頃の拙いグラフィックで、
ホラーを描くと、
実写とは違った気持ち悪さが
すごくありました。

本作の映像の質感は、
その感じとすごく似ています。

なんせ、大林監督の
商業デビュー作といってもいい
大事な作品ですから、

映像の加工が
これでもかというほど、
ふんだんに取り入れられています。

ワイプ処理、
(画面を切り抜いて窓のようにする、
 または、ワイパーのように
 画面を切り替える)

高速度撮影・低速度撮影、
(映像のコマの数を増減させて、
 映像の速度を変える)

オプティカル合成、
(フィルムを合成する手法)
などなど、

当時、特撮で使うことが
可能だった手法を
全部入れてしまったのではないか、

というほどに、
あらゆる見せ方が出てきます。

当時から前例がないほど、
変わった作品でしたから、
映画界の中では、
批判もあったようです。

「悪趣味である」
「おもちゃ箱をひっくり返したみたい」
などなど、

一方で、本作の対象年齢であった
10代の人たちが、
リアルタイムで観た感想として

「衝撃的で忘れられない作品」
と語られることもあります。
(もちろん、トラウマ的な意味でも)

中でも、当時から売れていた
池上季実子のヌードは
かなり衝撃的だったようですね。
(特に、男子学生からすれば)

他の女優さんも含め、
そういうシーンが何度か
登場するんですが、

そのヌードに必然性がないというか、
無駄使い感がハンパありません(笑)

しかし、そういった素材の
贅沢な使い方も含めて、

本作は伝説として
語り継がれているところも
あるようです。
(そして、池上季実子は、
 本作がきっかけで、
 本格派の女優に成長したという話も)

シュールな CM の
源流でもある

先日レビューで紹介した
『未来世紀ブラジル』もそうですが、

こういう作品は、
ストーリーがどうこう
という作品じゃないんですよね。

むしろ、そんなことに
拘泥するのがもったいないくらい、
映像に独特な個性があります。

本作を観て、思い出したのは、
私が好きな’90年代の
日本の名作 CM の数々です。

当時のテレビ CM は、
今とは違って、シュールな
かっこいい映像が多くありました。

例えば、私が思春期の頃に
もっとも影響を受けたのは、
ソニーの初代プレイステーションの
CM 群なんですが、

これらはかなり変わったタイプの
映像でした。

そういうものを観て、
「気持ち悪い」
という方もいるんですが、

その感覚も
わからないんでもないんですよね。

映像として、
平坦じゃないというか、
ものすごく違和感のある
映像でもあるんです。

ゆえに、
そこにとてつもない魅力が
生じるのもまた事実なんです。

そういった映像の違和感のような
源流を辿っていくと、

本作に辿り着くのだなぁ
と思いました。

なお、観終わってから、
調べてみたところ、
大林監督は映画だけでなく、

CM の映像も多く
手掛けていることがわかりました。
(’70年代に一世を風靡した
 「んー、マンダム」とか)

本作は視覚的な要素が
濃い作品ですが、

音楽の使い方も、
ものすごく特徴のある作品です。
(音楽は小林亜星、ゴダイゴが担当)

特に、映像の組み合わせと
音楽のおもしろさで、
特筆したいのは、

神保美嘉が演じる
「クンフー」の
唐突なアクションシーンですね。

B級感たっぷりの旋律に、
急に差し込まれる
画面の切り替えがたまりません。

何度も出てくるところが、
また病みつきになるところです。


【作品情報】
1977年公開
監督:大林宣彦
脚本:林千穂
原案:大林千茱萸
出演:池上季実子
   大場久美子
   松原愛
配給:東宝
上映時間:88分

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