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『勝手にしやがれ』はいろいろある

『勝手にしやがれ』というタイトルを聴いて
みなさんは何を思い浮かべますか。

私が真っ先に思い浮かべるのは、
1960年のフランス映画
『勝手にしやがれ』です。

本作はジャン=リュック・ゴダールが監督した
「ヌーヴェルバーグの記念碑的作品」
との呼び声が高い作品です。

「ヌーヴェルバーグ」とは、
1950年代にフランスで起こった
映画のムーブメントで、

それまでの商業的な作品とは異なる
芸術性の高い作風が特徴的でした。

スタジオでの撮影ではなく、
ロケによる撮影中心、
撮影現場で即興演出するなどの
特徴があります。

私自身はそれほど、
ヌーヴェルバーグに詳しくはありませんが、
『勝手にしやがれ』を観る限り、

明らかにストーリーを描くことを
中心にしていないタイプの映画です。

映画評論家の淀川長治氏は、
ご自身の著書で本作のことを批判していました。

淀川氏が映画の批判をするのは、
かなりレアなことです。

どうして『勝手にしやがれ』が
批判されたのかというと、
あまりにもそれまでの映画の文法とは
かけ離れた映画だったからです。

しかし、それまでにない作品だったからこそ、
本作が名作として語り継がれる
ゆえんにもなっています。


『勝手にしやがれ』には、
もう一つ有名な作品があります。

イギリスのパンク・ロックバンド、
セックス・ピストルズのアルバムです。

ちなみに、こちらのタイトルには、
「!!」がついて、
『勝手にしやがれ!!』となります。

こちらの作品は、’77年に発表された
セックス・ピストルズ唯一の
スタジオアルバムです。


なんとなくなのですが、

私は、このピストルズの
『勝手にしやがれ!!』というタイトルは、
ゴダールの『勝手にしやがれ』への
オマージュではないかと思っていたんです。

というのも、
ヌーヴェルバーグとパンク・ロックには
共通するところが多くありまして、

例えば、それは作品づくりの技法に
強く表れています。

ヌーヴェルバーグもパンクも
それまでの文法を壊して、
新しい技法を作った
ムーブメントなんですよね。

映画の世界では、
ヌーヴェルバーグが台頭するまで、
使われていなかったカメラワークが
確実にあります。

プロのカメラマンではなく、
素人が何の気なしに撮ったような
カットが挟まれたりするのです。

パンクもある意味ではそうですね。

それまでのロックとは違って、
技術を高めるとかではなく、
演奏や歌が下手でも、
それをそのまま作品にする文化です。

一体、何がこの二つのジャンルの作品を
そうさせるのかといえば、
それは政治的なスタンスにあると思います。

ヌーヴェルバーグもパンクも
右、左でいうと、
左寄りの精神を持ったカルチャーです。

保守派ではなく、革新派なのです。

だからこそ、古い伝統を壊し、
新しいことをやろうとします。

反体制的な姿勢は、
これらの作品が持つ
「商業主義への批判」にもつながっています。

とはいえ、ピストルズのメンバーが
ゴダールの影響を受けているとは、
思えません。

あまりにも二つの作品の作風が
かけ離れているからです。

ゴダールの『勝手にしやがれ』が
制作された時代に「パンク」は
存在していませんし、

ピストルズの『勝手にしやがれ!!』に
ヌーヴェルバーグに使われているような
ジャズの趣きもありません。

そして、何よりも、
ここで思い出していただきたいのは、
この二つの作品のタイトルが
日本で付けられた邦題だということです。

その昔、映画も音楽も
日本で公開される時に、
日本独自の邦題を付ける慣習がありました。

今は洋画も洋楽も
タイトルは英語のままか、
カタカナ表記にするのが主流ですよね。

ここで、それぞれの原題を見てみましょう。

ゴダールの『勝手にしやがれ』の原題は
『À bout de souffle』

日本語に直訳すると
「息切れ」「力尽きて」
といった意味になるようです。

「勝手にしやがれ」とは全然違いますね。

これは映画の中に出てくる
セリフの中からとったものだと思います。

「息切れ」や「力尽きて」では、
作品名としてインパクトにかけるので、
このようなタイトルになったのでしょう。

もう一方のピストルズの
『勝手にしやがれ!!』の原題は
『Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols』

直訳すると、
「Never Mind the Bollocks」
「睾丸なんて気にしない」

「Here's the Sex Pistols」
「これがセックス・ピストルズ」

といった感じでしょうか。

これも「勝手にしやがれ」とは
違う感じですね。

そして、ゴダールの『勝手にしやがれ』は、
その時代でいえば、
超メジャーな作品ですから、

ピストルズのアルバムに邦題を付けた方が
それを知らずに、このタイトルを
付けたわけはないでしょう。

ですから、おそらく、
ピストルズ、あるいはパンクの精神が
ヌーヴェルバーグに通じるものがあって、

なおかつ「勝手にしやがれ」
というフレーズがピッタリだったので、
引用したのではないか、
というのが私の推測です。

そんなことを考えながら、
ネット上に情報はないか
探していたら、
このような記事を見かけました。

この記事の中で、
ピストルズのアルバムに
邦題を付けた方のインタビュー記事が
引用されています。

やはり、ゴダールの『勝手にしやがれ』を
意識していたようです。


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