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映画レビュー『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』(2018)生きることはアート

70年代に世界へ飛び立った日本人カメラマン

写真家・鋤田正義のドキュメンタリー映画です。

鋤田正義は、1938年生まれ、
80代になった現在も
現役のカメラマンとして活躍しています。

彼のもっとも有名な作品といえば、
デヴィッド・ボウイの名作
『ヒーローズ』のジャケット写真です。

この写真が撮影されたのは、
‘70年のことでした。

すでにフリーのカメラマンとして、
独立していた彼は、
イギリスのロックバンド、
T・レックスに関心を持ち、
単身でイギリスに渡りました。

そこで偶然知り合ったのが、
デヴィッド・ボウイだったのです。

二人は急速に親密な関係となり、
鋤田が撮りためていた、
デヴィッド・ボウイの写真が、
新作である『ヒーローズ』のジャケットに
採用されることになりました。

常に自然体の人

私自身が鋤田正義の名前を知ったのは、
YMOにハマったのがきっかけでした。

YMOのもっとも有名な作品
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の
ジャケット写真も鋤田が撮影したものです。

この映画にもYMOの三人が出演しており、
その中の一人、細野晴臣は、
鋤田のことを
「刀を持たないお侍さん」
と評しています。

この言葉は、特に鋤田正義という
写真家をうまく表現した言葉です。

普通はカメラを向けられると、
緊張感が出て、誰もが身構えてしまいます。

細野晴臣がそのように評したのは、
カメラを意識させない写真家だからです。

映画の中で、過去に撮影された、
多くのアーティストが語っていますが、
鋤田正義の撮影の仕方は、
「いつこんな写真を撮ったんだ」
と思わせるくらい自然なものだと言います。

鋤田正義の写真家としての名前は、
世界的なもので、
あまりにも大きいものです。

その名前の大きさに反して、
この映画で見られる鋤田の姿は、
ごく自然な人です。

言い方が悪いですが、
その辺にいる優しそうなおじさんと
なんら変わりません。

喋る言葉も全然、アーティストっぽくありません。

この普通でいることが、
彼の写真家としての活動に
与えている影響は、
決して小さくないでしょう。

自然体の人だから、
どんな人とも仲良くなれて、
他の写真家には引き出せない表情を
捉えることができるのです。

類稀なる情熱と才能

そんな自然体の鋤田の人柄に合わせたように、
本作のドキュメンタリーとしての
あり方もごく自然なものになっています。

というのも、本作には、
ナレーションやテロップによる
難しい説明は一切ありません。

あくまでも、鋤田自身や
そこに関わった人物の語りによって、
すべてが伝えられています。

登場する人物は有名な方ばかりです。

布袋寅泰、ジム・ジャームッシュ監督、
山本寛斎、永瀬正敏、糸井重里など、
錚々たるメンバーが、
鋤田正義のことを語っています。

その語り手に共通するのは、
笑顔です。

鋤田正義について語る時には、
どんな人も楽しそうに、
振り返ります。

こんなところにも
写真家としての鋤田正義の
人柄が垣間見えるのです。

そして、この映画を観れば、
鋤田正義の写真家としての
類稀なる情熱と才能も
感じることができます。

彼が子どもの頃に撮った
母親の写真も登場するのですが、
その写真はお祭りに行くために
みの傘を被り、着物を着た姿でした。

これは彼がはじめて持った
カメラで撮った何げない写真でありながら、
なんとも言えない魅力が溢れています。

彼は今でもこの時のことを
鮮明に覚えているのです。

今でも写真のことが、
生活の中心にあり、
日常生活のちょっとした風景でも、
彼が切り取ると、
素晴らしいアートになります。

これからも鋤田正義は、
その情熱と感性で
アートを切り取り続けていくのでしょう。

そんな力強さが感じられる作品でした。


【作品情報】
2018年公開
監督:相原裕美
出演:鋤田正義
   布袋寅泰
   ジム・ジャームッシュ
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
制作国:日本
上映時間:115分

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