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映画レビュー『花束みたいな恋をした』(2021)こんな恋もあったのかなぁなんて

二人の出会いは衝撃的だった

私は恋愛で倦怠期というものを
感じたことがありません。

というか、これまでに
付き合ったことのあるは、
今の妻だけで、

「別れたこと」すらないんです。

恋愛経験が極端に乏しい
私にとって、本作は、

もしかしたら、何かが違えば、
自分が経験していたかもしれない
物語なのかもしれません。

本作に登場する麦(菅田将暉)、
絹(有村架純)は、
2015年、大学生の頃に
ひょんなきっかけで知り合いました。

二人はある時、終電に乗り損ね、
他の二人の男女と四人で
深夜のカフェに入ります。

年齢が近い若者同士でしたが、
4人とも見ず知らずの関係です。

おしゃべりな男女二人が
どうでもいい話題で盛り上がる中、
麦と絹は、話題に付いていけず、
黙りこくっていました。

その時、
麦は店内の他の席にいる
「神」を見つけて、
大興奮してしまいます。

その「神」とは、
アニメ界の巨匠・押井守でした。
(代表作『GHOST IN THE SHELL/
 攻殻機動隊』など)

ところが、その男女は、
押井守のことなど知らず、
相変わらず、麦とは会話が
成立していません。

店を出て、麦が絹に
さきほどの「神」のことを
話すと、

絹も押井守のことを
しっかりと知っていたのです。

押井守のことを
「もっと知られるべき存在」
とまで言い放ちました。

その後、麦と絹は、
二人で居酒屋に行くことになり、
そこで文学、映画、音楽などの
趣味の話で、
盛り上がることになります。

とにかく、この麦と絹の趣味が
とてもマニアックで、

お互いの趣味が合ったのが、
奇跡的なことのようにすら
感じられました。

徐々にすれ違う二人

お互いに意気投合し、
すぐに付き合うことになった二人は、

相変わらず趣味がとても合うので、
一緒にそれらを楽しむ生活を
続けていくことになります。

時には、麦が自主制作した
ガスタンクの映像を集めた映画を
観せられて、麦が爆睡したり、

絹が『ミイラ展』なる展示会に
一人で大盛り上がりしたり、

あきらかにお互いが
合わせる部分もあるのですが、

そんなちょっとした趣味の違いも、
もはや関係ありませんでした。

二人はとても相性のいい
カップルになるのです。

ところが、そういう日々も
大学の卒業と同時に、

就職、結婚というステージへの
以降によって、
徐々に変化していきます。

麦は絹とずっと一緒にいるために、
立派な企業に就職しました。

残業や出張も多く、休日も
仕事が頭から離れません。

一方、絹の方はというと、
相変わらず学生時代と同じように、
趣味の世界に没頭していました。

好きな作家の新作が発表されれば、
すぐに買って読みますし、
スイッチで『ゼルダの伝説』が出れば、
それも楽しみます。

麦は、それをうらやましい
という思いで、
眺めることしかできません。

かつては、お互いに好きな本を
交換しながら、ワクワクして
読んでいたのに、

今では、麦の机の上は
仕事の資料とパソコンが
占領しており、

絹から勧められた本が、
読めずに積み重なっていくばかりです。

悲しいことですが、
こうして、麦と絹は
徐々にすれ違うように
なっていきます。

変化が激しい時期の恋

記事冒頭の私の話に
戻りますが、

私にはこの二人が
とても羨ましく感じられました。

なにせ、私も若い頃から、
趣味が周りと合わずに、
ずっと一人で過ごしていたんですよね。

あの時代に、
こんなに趣味がピッタリな
異性と知り合うことができていたら、

こんな風になっていたかもしれません。

一方で、私には今の状態が、
ベストだったのかもしれないなぁ
という気もしました。

私は趣味が変わっている方だと
思いますが、妻の方も、
ちょっと変わっていて、

お互いの趣味が共有できる場合も
多いんですよね。

私たち二人は趣味が
ピッタリ合い過ぎず、
ほどほどに合っている程度なので、

長続きしているのかもしれません。

また、この作品に出てくる
麦と絹は、お互いが
大学生だった頃からの付き合いで、

その後、就職して、
社会人になったというのも、
大きかったかもしれません。

私が妻と出会ったのは、
社会人になってからだったので、
このような変化を
経験したことがありません。

ある程度、自分で生計を立てられる
状態からのスタートだったので、

こういう経験はしたことがないんです。

お互いが好きになって、
付き合い始めたのだから、
ずっと添い遂げられるのが、
ハッピーエンドという感じもしますが、

若い頃のこういう経験も
これはこれで、
素敵な思い出になるのでは、
という気もしました。

ラブストーリーというと、
浮き沈みの激しい派手なものが
注目されがちですが、

地味ながら、こういう作品も
おもしろいなぁと、
改めて感じましたね。

そう思えるのも、
二人の設定の微妙な部分が
よくできていたり、

坂元裕二が手掛けた脚本の
セリフがおもしろかったのも、
大きかったです。

(脚本家を知らずに観ていたが、
 セリフの感じから途中で気づいた)

内容的には今っぽいものですが、
映像の質感がとても落ち着いた感じで、
見やすい映像に感じました。

若者が主人公ですが、
大人でも落ち着いて
観られる上質な作品です。


【作品情報】
2021年公開
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
出演:菅田将暉
   有村架純
   清原果耶
配給:東京テアトル
   リトルモア
上映時間:124分

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