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映画レビュー『HOKUSAI』(2021)北斎はいかにして「北斎」になったか


浮世絵はすごいよ!

この映画は
すごく良かったのですが、

観終わったあとに、
他の方の感想を見ると、
あまり芳しくない印象です。

でも、私は大好きです。

普段からいろんな映像作品を
観ていますが、

映像のおもしろさだけで、
ここまで唸らせるものは、
なかなかありません。

もっとたくさんの人に
観てほしいのですが、

こういう作品こそ、
紹介するのが難しく感じます。

まず、この記事を読んでいる方は
浮世絵について、
どの程度、関心があるでしょうか。

そこが私には、測りかねる
ところなのですが……。

私が浮世絵に興味を持ったのは、
高校生の頃でした。

日本で生まれた浮世絵が、
ヨーロッパの美術にも
大きな影響を及ぼしたことを知り、
興味を持ちました。

ところが、私自身、
今でも浮世絵に
それほど詳しいわけでもなく、

機会があったら、
もっと知りたいと思う程度では
あったんです。

そして、昨年公開された
『HOKUSAI』は、
葛飾北斎を題材にした
作品だったので、

「これは絶対に観たい!」
と強く思いました。

本当は劇場で観たかったのですが、
タイミングが合わず、
その願いは叶わなかったんですね。

この度、ようやく配信で
観ることができたのですが、
これがとんでもない傑作だったので、

今では
「やっぱり劇場で観たかったなぁ」
と後悔しています。

北斎はいかにして
「北斎」となったか

本作の主人公、
葛飾北斎は江戸後期を
代表する浮世絵師です。
(1760~1849)

北斎はこの時代にしては
長命な方で、90歳まで生きました。

手掛けた作品数も膨大で、
その数は3万点を超えるほどです。

北斎の有名な作品といえば、

さまざまな地点から見える
富士山を描いた
『富嶽三十六景』ですね。
(1831~1834)

このダイナミックな
躍動感あふれる波の描き方は、
北斎特有のもので、
他の多くの作品にも見られるものです。

北斎は浮世絵だけでなく、
本の挿絵も手掛けました。

自身も『北斎漫画』(1814~1878)
といった「絵手本」も残しており、

(絵手本:絵本の一種。
 絵の描き方を学ぶための
 手本が書かれた本)

これは江戸時代の
ベストセラーになりました。

こう書くと、北斎は
「次々にヒット作を送り出した」
単なる
「環境や才能に恵まれた人」
と思われるかもしれませんね。

たしかに、現代でも
芸術で身を立てていける人は
ごくわずかですし、

特別に恵まれた人だけが
できることに感じます。

しかし、本作を観ると、
北斎が決して、
環境に恵まれていたわけでは
なかったのが、
よくわかると思います。

若くても葛藤、老いても葛藤

北斎こと「川村時太郎」は、
(のちに「鉄蔵」に改名)

1760(宝永10)年に、
武蔵国葛飾郡本所に
生まれました。
(現在の東京都墨田区の一角)

1764(明和元)年に、
他家の養子となります。

その後、実子に家督を譲り、
自身は家を出て、
貸本屋の丁稚(でっち)、
木版彫刻師の徒弟になりました。

北斎が絵に興味を持ったのは、
この仕事に就いたのが
きっかけです。

1778(安永7)年に、
浮世絵師・勝川春章に
弟子入りします。

春章のもとで北斎は、
中国の唐絵、西洋画などから
さまざまな技法を学びつつ、

風景画、役者絵、本の挿絵を
手掛けたとされています。
(当時の雅号は「春朗」)

入門当初から
周囲に実力が認められ、
頭角を表した北斎でしたが、

1794(寛政6)年には、
勝川派を破門になっています。

破門の理由については諸説あり、
兄弟子との不仲、
他流派への出入りなどが
あったようです。

本作の序盤で描かれているのは、
北斎が「北斎」と名乗る前、
勝川派を破門に
なった後の話でした。

当時の人気の絵師といえば、
妖艶な美人画が得意だった
喜多川歌麿です。

また、歌舞伎役者の容姿を
極端に誇張して描いた
東洲斎写楽も新星のごとく現れた
大型新人でした。

この二人の絵師の画を
世に送り出したのは、
蔦屋重三郎(阿部寛)です。

重三郎は、有名な版元でした。
(今でいうところの「出版社」)

方々で才能のある者を発掘し、
おもしろい企画を提案する
目利きでした。

北斎も重三郎に見出された
一人であり、

劇中でも重三郎が、
北斎(柳楽優弥)の住み家を
訪ねるシーンがあります。

北斎は、生涯、
お金に無頓着な人だったようで、
駆け出しの時代は
特に貧乏でした。

暗く狭いボロ屋で、
画を描くスペースが
あるだけという感じの部屋です。

通りで、ござを引き、
自分の描いた絵を
売って生計を立てていました。

実際にこんなことがあったかは
定かではありませんが、

劇中では、重三郎に呼ばれ、
歌麿と北斎が
出会うシーンがあります。

そこで北斎は自身の画を
歌麿のボロクソに
酷評されるんですね。

そして、前述したように、
写楽のような変わった画風の
若い新人も活躍しはじめます。

北斎は、自身の「貧困」と
「画力」にコンプレックスを抱え、
思うように絵が
描けなくなりました。

ついには、重三郎にも
愛想をつかされてしまいます。

そこから北斎がどのようにして、
這い上がり、自身のスタイルを
確立させていくかが、
本作のみどころの一つです。

ここまで書いてきて、
私が本当に書きたかった
「映像」のことが
まったく書けていません(^^;

その話については、
別に書くとしましょう。

本作の評価を
悪くしている点の一つとして、
「わかりにくさ」があると思います。

本作は北斎の90年にわたる
長い生涯を、
たった2時間程度の長さに
まとめているんですよね。

その点において、
違和感を抱く方も多いようです。

特に、本作は
4章立てになっており、

1~2章が青年期、
3~4章が老年期
とわかれています。

この境目で、
「?」となる方が多いようです。

しかし、その違和感を
あまり気にせずに、

「時代が過ぎたんだなぁ」程度に
やり過ごすことができれば、
違和感なく楽しめるはずです。

そして、本作を楽しむうえで、
この時代の日本には、
「表現の自由」がなかった
というのを理解するのも

大きなポイントの一つです。

この時代の表現者が
命がけで創作活動をしていたのが、
よくわかるでしょう。


【作品情報】
2021年公開
監督:橋本一
脚本:河原れん
出演:柳楽優弥
   田中泯
   玉木宏
配給:S・D・P
上映時間:129分

【同じ監督の作品】

【葛飾北斎に関する文献】

※画像は Wikipedia より
 引用しました。

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