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小説

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コインランドリーと葡萄(短篇小説)

コインランドリーと葡萄(短篇小説)

夏が終わり、秋も始まらない、その九月七日の午後に、西陽が部屋に入り込み、冷房をまだつけていて窓を開けていないのに、カーテンが少し揺れる、気がする。
君は朝起きた時、季節の変わり目の雨を見ながら、僕に、「洗濯物が溜まっているのよ」とだけ言った。僕は「コインランドリーに行ってくるよ。銭湯の隣の」と言った。君は「そのまま入ってくるの?」と言った。僕は少し迷って、
「それは贅沢すぎるな」
 と言った。
 

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カリフォルニアの雪(800字小説)

カリフォルニアの雪(800字小説)

彼女のことを思う夜には、僕の夢には必ずカリフォルニアに雪が降った。白昼夢が朝まで続いた朝、結露した窓を開けると薄明かりの春の靄から埃っぽい冷たい空気が部屋に入り込んでくる。今は何時なのだろう、と思う。僕の部屋には時間がわかるものなど何一つない。僕は窓辺の椅子に座り、ハイライトにマッチで火をつけてスーツを着込む。

彼女は僕の生活に現れない。僕は彼女のことを何一つ知らない。勿論彼女は僕のことも。僕は

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