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小説

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2023年5月の記事一覧

時のないホテル(短編小説)

時のないホテル(短編小説)

春霞に煙る渋谷を背に、午前五時の冷たく湿った国道三号線を歩いている。
幾度となく朝まで眠れず、それにも慣れてしまったように思える。
それは、喪失、と似ている。
この東京での喪失は埋まることはなく、ただその喪失に慣れてしまったように思え、それが喪失を意味している。
六本木が見えてくる。この街では高層ビルを背に歩くことは高層ビルを目指して歩くことを意味している。夕方にも見える。今日が昨日なのか明日なの

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黄金の月(短編小説試し読み版)

黄金の月(短編小説試し読み版)

どうしようもないほどの夏の午後、僕は日課のダイビングを終えてコーヒーを飲みながら、換気扇をつけて両切り煙草を吸っていた。
確かにどうしようもない夏の午後だな、と思った。開け放した窓から熱風が入り込み潮の匂いが鼻腔をくすぐる。
先にシャワーを浴びて塩を取って爽やかな気分でいたのに、既にもうこの前買った白いTシャツは汗ばみ、塩を吹いていて、髪もべったりと額に張り付くようだった。
煙を肺に入れて吐き出し

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波を数える(短編小説試し読み版)

波を数える(短編小説試し読み版)

それはハイライトブルーのような夏だった。
その夏は僕に「薄い」という印象を思わせた。
そしてそれがどういったことなのか考えるにはあまりに暑かった。
僕はアパートに空調器具を持ち合わせていなかった。金銭もなかったし、その類の作り出す独特で近代的な空気が苦手だった。
僕は部屋中の窓を開けて、汗を吹き出させながらひたすらハイライトを吸い、十代の内に浴びるように読んだ文庫本を読み返した。昼は大抵蕎麦を茹で

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