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「自尊感情」? それとも「自己有用感」?



■ 「自尊感情」と「自己有用感」


「自尊感情」は,自己に対して肯定的な評価を抱いている状態を指すself-esteemの日本語訳である。自分に自信が持てず,人間関係に不安を感じている生徒には、「自尊感情」を高めることが必要と言われる。
 しかしながら,日本の社会では,「規範意識(きまりを進んで守ろうとする意識)」の重要性も大切にしなければならない。それらを併せて考えるならば、「自尊感情」よりも「自己有用感」の育成を目指すほうが適当だと言える。
 なぜなら,”人の役に立った”,”人から感謝された”,”人から認められた”,という「自己有用感」は,自分と他者(集団や社会)との関係を 共に肯定的に受け入れられることで生まれる,「自己に対する肯定的な評価」だからである。
 つまり,日本の生徒の場合には,他者からの評価が大きく影響する。また,「ほめて(自信を持たせて)育てる」という発想よりも「認められて(自信をもって)育つ」という発想のほうが、生徒の自信を大きく育てることができ、モチベーションも持続しやすい。
 もう少し詳しく言うと,「自尊感情」とは自分に対する自己評価が中心である。元々はself-esteemとは,自尊心,プライド,うぬぼれ・・・などの訳語になる。プラスもマイナスも含んだ中立的な語である。「自尊感情」を高めるべく大人が生徒をほめる機会を増やしても,必ずしも好ましい結果をもたらすとはいえないのも事実である。また,大人がほめることで自信をつけさせることができたとしても,実力以上の過大評価をしたり,周りの友達からの評価を得られずに再び自信を失ったり,自他の評価のギャップにストレスを感じるようになったり,ということが起こってしまう。

■ 社会性の基礎となる「自己有用感」

 それに対して,「自己有用感」は,他者の役に立った,他者に喜んでもらえた・・・など,相手の存在なしには生まれてこない点で,「自尊感情」や「自己肯定感」とは異なる。
 つまり,自分に対する他者からの評価が大きいということである。最終的には自己評価であるとしても,他者からのまなざしや評価を強く感じた上で、自分自身が感じるという点が大事なのである。単に「クラスで一番足が速い」という自信ではなく,「クラスで一番足が速いので,クラスの代表に選ばれた。みんなの期待に応えられるようにがんばりたい」という自信である。その意味では,クラスで一番かどうかは,さほど重要ではないとさえ言える。実は,「自己有用感」の獲得が「自尊感情」の獲得につながるのである。しかしながら「自尊感情」が高いことは,必ずしも「自己有用感」の高さを意味しない。そして,他者の存在を前提としない独りよがりの自己評価では,社会性に結びつかない。

 学校のような たくさんの人の集合体では,誰かの役に立つことができたという 集団の一員としての ”自信” や ”誇り” をいかに獲得させるか がポイントになる。


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