春畑優花

試される大地、北海道で生まれ育ち生き暮らすひと。美味しいものとか好きな曲とか気に入った…

春畑優花

試される大地、北海道で生まれ育ち生き暮らすひと。美味しいものとか好きな曲とか気に入った風景とか読んだ本とか実家の家族の話とかをします。

最近の記事

神様のいない世界のはしっこで

迂遠な自傷行為をやめた。 端的に言うと、救いのない物語を書くことをやめた。 物心ついた時から、物語を作ることが好きだった。 最初はチラシの裏。そして100均で買ったノート。脳内に思い浮かんだ光景を、出来事を、徒然なるままに書きなぐっていった。そうすることが、私の救いだった。私以外誰も知らない世界が、人間が、人生が、私にとって唯一無二の救済だった。 神様を信じていなかった。今でこそ、神様を信じる人のためには神様がいてほしいと願っているけれど、それでもやっぱり、私の世界には神

    • 自己紹介

      ここ数日、普段は優しい人たちからさえも信頼を急速に失っている気がするけど、まぁもともとあってなかったようなものでは?という話なんだよなこれが。 どうしてこんなに仕事のやる気がなくなったんだろうな。最初のうちは楽しかったし、まあわけわかんなかったけど、ダメになったのは入社して半年過ぎたあたりだったかな、あの頃めっちゃ頑張ってたよな、確か早番でさ。毎日半日くらい仕事してた気がする。 なんでって、なんでだろうね。嫌なのかな。嫌ではないんだよな。好きかっていわれるとそれも頷けない

      • 睦月某日、松山にて

         お元気ですか、と訊ねたいひとがいる。  去年の一月。夕暮れ、というよりは夜に近い松山市、勝山町。一週間の海外旅行に赴くのかというような、おおきなおおきな黒いキャリーバッグをガタガタと引きながら歩く私に声をかけてくれた、お年を召したご婦人がいた。道後温泉は早起きしていくといいと教えてくださった。五分足らずのやりとりだったけれど、愛媛の訛りが端々ににじむ語りからは、ご婦人が自分の住む街をとても愛していることが伝わってきた。  翌朝、朝が猛烈に苦手な私はがんばって起きた。昨日

        • 夏を見送る日

          子どもの頃、漫画やドラマの中だけの創作だと信じて疑っていなかったことがある。 たとえば卒業式や入学式の時期に咲く桜の花。 ロマンチックなホワイトクリスマス。 臨海学校。 これらすべてを空想と考えていたのはひとえに『北海道生まれ北海道育ち』ゆえで、確かに北海道にはそういった類のものは無かった。桜が咲くのはGW頃、雪が降ってもロマンチックな気分にはならず「積もるかなこれ……」と夜間or翌朝の雪かきに思いをはせ、臨海学校未経験、これは内陸部出身だというのもあるけど(沿岸部で

        神様のいない世界のはしっこで

          100年の旅路、1000人の友、そして無限の物語

          私は100年を何回も繰り返している。 同じ土地、同じ空気、同じ顔。 けれどそこには違う歴史がある。 私だけが知る物語が、ある。 周回プレイとは縁のない人生を過ごしていた。中学二年生の、あの日まで。 誕生日のお小遣い(我が家は誕生日もクリスマスも現金支給制だ)を握り締めて訪れた家電量販店のゲームコーナー、シルバニアファミリーのゲームやら星のカービィやらで育ってきた自分の目に飛び込んできた、ファンタジー系の好みの絵柄。 なんとなく手に取って、裏を見たら、こんな文言が書

          100年の旅路、1000人の友、そして無限の物語

          海の記憶

          私は、間近で海を見たことがあまりない。多分、両手の指で足りるくらい。しかもそのすべてが旅先での出来事だった。当たり前だ、私が生まれたのは北海道の内陸部。もっとも近い海までは一時間弱だが、我が家には海水浴とか海釣りの文化はなかった。 私にとって海は異郷の象徴だ。 最初に海を見たのは小学校五年生の頃。親戚の葬式に向かう最中の車中。見たのは曇り空の下の太平洋だった。 鈍色の水がどこまでも広がっている風景を、両脇を眠りこけている従兄弟たちにはさまれながら、ずっと見ていた。不思議

          海の記憶

          海の向こうの、声も知らない愛娘へ

          私には海の向こうに、七つになる娘がいる。 ちなみに私は今年で27だ。結婚はしていない。 そして私と娘の間に血縁関係はない。 あるのは年に数度の手紙とプレゼントのやり取りと、毎月3000円の送金だけだ。 こう書くとなんてひどい親だと思われそうだけれど、いま、私が“娘”にできることがこれしかないのだから仕方がない。 いつかは彼女の住む国、フィリピンまで行って、彼女がどんな声で笑うのか、好きなことは何か、将来の夢は何かを直接聞きたいと願ってはいるけれど、なにせこのご時世だ

          海の向こうの、声も知らない愛娘へ

          此岸の先へ、サッポロビールの瓶を片手に

          私には二人の祖父がいる。 正しくは過去形だが。 父方の祖父は、私が小学校二年生の冬に亡くなった。 母方の祖父は、私の母が結婚するより前に亡くなった。 だから父方の祖父については記憶が薄れてきているし、母方の祖父については思い出せる記憶がまるでない。 それでも書き留めておこうと思う。 私の、二人の祖父について。 500円玉とサッポロビール 父方の祖父は、開拓二世だ。 徳川幕府が倒れ、江戸時代が終わって明治になってから。国は北方の土地を開拓しようと意気込んだ。職

          此岸の先へ、サッポロビールの瓶を片手に

          牛乳が嫌いな兄と、鍵をかけ忘れる妹の話

          私には兄が一人いる。 三歳年上の、7月7日七夕生まれ。生まれた時間は午後7時37分。おしい。 そんな兄は私とは真逆だ。 妹である私が三回に一回くらいは「あれ、玄関のカギ閉めてきたっけな?」と出かけてから思い至るようなうっかりさんなら、兄は必ず鍵を閉めてドアノブを回して確認する。なので家族で出かけるとき、私は兄より先に外に出る。そうすると鍵のかけ忘れがない。これぞ我が家流ライフハック。 そしてよく家のカギをなくしていた幼少期、その節に関しましてはお母さんホントごめん。

          牛乳が嫌いな兄と、鍵をかけ忘れる妹の話