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100年の旅路、1000人の友、そして無限の物語


私は100年を何回も繰り返している。

同じ土地、同じ空気、同じ顔。

けれどそこには違う歴史がある。

私だけが知る物語が、ある。



周回プレイとは縁のない人生を過ごしていた。中学二年生の、あの日まで。

誕生日のお小遣い(我が家は誕生日もクリスマスも現金支給制だ)を握り締めて訪れた家電量販店のゲームコーナー、シルバニアファミリーのゲームやら星のカービィやらで育ってきた自分の目に飛び込んできた、ファンタジー系の好みの絵柄。

なんとなく手に取って、裏を見たら、こんな文言が書いてあった。

『100年の歴史、1000の勇者、あなたに預けます』

壮大かよ

幻想水滸伝でも仲間は108人だぞ

表をもう一度見る。男と、翼の生えた女性と、魔女と思しきもう一人の女性。その他メインキャラクターが脇を固め、さらにその背後にずらりと並ぶ無数の人。人。ひと。

え、本気で1000人なの???

よくよく見ると武具継承やら世代交代やら、自分の好きそうな要素ばかりだ。そして安い。(bestシリーズだったので安かった)

これは買いだ、と思った。

それが私がこよなく愛する、何度も繰り返す100年のはじまりだった。




このゲーム、もとい物語、もっと格好良くいえば歴史の主人公はブラッド・ボアル。不死身の男だ。この『不死身』という要素がかなりいいスパイスになっている。ゲームを進めれば進めるほどじわじわと効いてくる。あと単純にビジュアルがいい。全身にタトゥーを刻んだ青白い肌の剣士。ゲーム上の職業は騎士だ。私は昔から騎士という生き方に弱い。

そしてもう一人の重要人物が女神アリア。表紙絵の白い服の女性だ。彼女はまさしく『女神』である。この世の倫理・善悪・情緒とは無関係の位置から公平に、正義を持って世界を見て、世界のために動こうとする。正直言って最初は好きじゃなかった。最初は。最後は? 皆まで言わせないでくれ大好きです。

あと、忘れてはいけないのが魔女のヴィヴィ。彼女はなんというか、こう、ずるい。最後の最後までずるい。お願いだから最後までやってみて、私がずるいと言った真意を悟ってほしい。合言葉はこれ。「ヴィヴィちゃん最高!」

この三人が、このゲームで展開されていく歴史の軸だ。

3人しかおらんやん、1000人はどうした1000人はという話だが、いる。

ブラッドが率いる軍団のメンバーとして、何人もの主要メンバーがいて、さらには職業ごとの顔グラをあてがわれた、名前とステータスが違う無数のモブキャラが出てくる。それはもうわんさと出てくる。

彼らの命は有限だ。

どういうことか。

死ぬのである。モブキャラが。

これが他のRPGなら、戦闘でHPがゼロになっても、復活アイテムを使ったり教会に行ったりすれば元通りになる。だがこのゲームはそうではない。死んだら終わり。そのキャラは生き返らない。運よく戦闘で死ぬことは無かったとしても、戦場から退いて数年後、あるいはすぐに、天寿を全うして死ぬ。

死ぬのである。仲間が。

正直に言う。とんでもねぇゲームだと思った。

戦闘の采配や計算を間違えば仲間が死ぬ。コントローラーを握る自分の手に、彼らの命が託されている。そんな重い話があるか。あるんですここに。

彼らはモブキャラであり、そしてモブキャラではなくなっていく。彼らは友情をはぐくみ、あるいは恋をして、時には次世代を残す。モブキャラが死んで、墓が立つ。その数年後、彼らの子供が入団を希望してやってくる。彼らは生き、そして死ぬ。連綿と命がつながれていく。

不死身の主人公を置き去りにして。

ブラッドと100年を生きながら、私は何人もの仲間を見送り、彼らの子や孫と戦場に立った。初めて戦った高レベルモンスターに力及ばず命を落としたあの子の孫娘が、同じ高レベルモンスターにとどめを刺す。母から息子へ、長く戦場を共にしてきた武具が託される。そんな光景を目の当たりにする。

ブラッドの軍勢に参加するメンバーはランダムだ。何度やっても、同じタイミングで同じモブキャラがやってくることはない。

唯一無二の歴史が、私だけが知る物語が紡がれていく。

100年を、最初は長すぎるんじゃないかと思った。

けれど隣町に行くだけでも一カ月以上かかるような世界で、100年はとてつもなく長く、そしてあっという間だった。

ゲームが終盤に差し掛かると、仲間たちの墓標も増えていく。

途中から行けるようになる墓地内は自由に歩けるようになっている。配偶者や親友から供えられた花が風に吹かれている墓地を、ブラッドをゆっくりと操作して歩く。墓標に刻まれた言葉をひとつひとつ読んでいくうちに、だんだんとブラッドと自分がシンクロしていく。

不死身のキャラクターの寂しさや痛みを、実感として味わったのは、この時が初めてだ。

ああ、なんて途方もない寂寞だろうと思った。

そうして本拠地に戻ると、そこには仲間がいる。ついさっき目にした墓標に刻まれた名と、同じ姓を持った若者たちがいる。

これは歴史だ。人々の、戦いの歴史だ。大河ドラマだ。

100年を、確かに、私と彼らは生きたのだ。




日々は積み重なっていく。

世界は少しずつ変わっていく。

手放したものがある。

手に入れたものがある。

100年の先に何が待っているのかは、ぜひあなたの目で確かめてみてほしい。

『群像ドラマチックファンタジー』の名に恥じぬ物語が、千の勇者たちが、あなたを待っている。


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