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パン屋日記 #1 お客様という神様

無茶なお客さまなんて、毎日来ます。
その度に心から「辞めたいなあ」と思います。

「ちょっと細かいのええかねぇ」と言って

代金の852円を、
全て5円玉で支払おうとするお客さま。

「いいじゃない、852円くらい」と
侮ってはいけません。

全て5円玉で受け取ると

171枚です。

そんなにたくさん、数えていられませんし、
そもそもレジの中に入りません。

「同一硬貨20枚」の原則にのっとって、
丁寧にお断りしました。


パン屋に併設されているカフェレストランから

「ニャー」

という鳴き声が聞こえてきます。

お客さまの足元にくまなく目を走らせますが、
ケージらしきものが一向に見当たりません。

(赤ちゃんの泣き声か何かだったのかな)

そう思ったところへ

レストランのスタッフが、
渋い顔をしてこちらにやってきました。

「お客さまが、店内にネコを持ち込まれています」

『あ、やっぱり? でも無かったよね、ケージ』 

「はい、それが……」

スタッフが、ぐったりと答えました。


「生きたネコを、ハンドバッグの中に入れておられます」

「ニャ~」


ここまでくると
ヒト科ヒト族の行動とはとても思えないので、

こういった方々はきっと、
お客さまのふりをした
神様なのだと思うことにしました。

日を同じくして、事件は起きました。

パンを購入したお客さまが、
レストランの方でランチを召し上がっていたのですが

ランチに付帯している
「おかわり自由」の食事パンを

先ほどパン屋で購入したパンのレジ袋に、
際限なく詰め込んでいます。

ほぼ、窃盗です。

そして、何がどうこうより

めちゃくちゃ、透けています。

レジ袋に直に詰め込まれたパンが、
めちゃくちゃはっきりと透けて見えるのです。

声をかけざるを得ませんが、
どうかけていいものかわかりません。

とりあえず、

「お客さま、めちゃくちゃ透けております」
と言いたかったです。
 

本日最後の事件は、
パン屋のレジで起こりました。

「すいません、ちょっと……」
と、神様が切り出します。

そこに続くのは
「ちょっと細かいんですけど」の5円玉攻撃か、

はたまた「ちょっと大きいんですけど」の
どーんと一万円攻撃か。

もう何が起きても驚かないわよ、
とシュッとした感じで立っていると

「すみません、ちょっと……濡れてるんですけど」


そう言って、
びしょびしょの千円札を出されました。

「これ以外、涙を拭くものが無かったんです」という理由以外は

申し訳ありませんが、
いっさい受け付けられません。

とりあえず、
一刻も早くこの店を辞めたくて仕方がない

パン屋なのでした。

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