パン屋日記 #3 年下の先輩

パン屋の同僚に、
「坂下さん」という年下の先輩がいます。

私よりも３つ年下の女の子なのですが

最大の敬意を込めて
「坂下先生」と呼んでいます。

坂下先生は、とてもお美しい。

姿勢が良く、目はパッチリと大きく
髪はかぐや姫のように黒くてまっすぐです。

坂下先生は若くして、
この店で一番キャリアの長い社員です。

私が大きなミスをして落ち込んでいると

「iccaさん、大丈夫です。
　過去、何度もあります！」

と言って励ましてくださいます。

自らの対応の不備に落ち込んでいると、

どうかお気になさらぬように、
と声をかけてくださいます。

自分でも
気にしないようにしてはいるのですが

頭の中に何度もよみがえってきて、
どうしても気分が落ち込んでしまいます。

「iccaさん、そういうときは」

坂下先生が言いました。

「今日、めっちゃ気にして、
　明日からは気にしないことです」

坂下先生は、いつも正しい。

そしてシンプルでいらっしゃいます。
なによりお優しい。

長年頼りにしていた
男性の店長が退職し

私はすっかり、
店の「怒り役」になっていました。

うまくいかない時もあります。

『坂下先生、すみません。選手交代、
　持ち場を変わっていただけませんか』

「どうしました？」

『私が先ほど怒ったせいで、
　アルバイトの山田さんが泣いています』

坂下先生は肩にポンと手を置き

「iccaさん、大丈夫ですか？」

と、先にわたしに言いました。

坂下先生は、優しい年下の先輩です。

叱った方の心も痛んでいることを
知っておられるのです。