chaco@独学術

読書術や独学術を発信するひと。遍歴 : 実務系英日翻訳、ライティング。これまでに読んだ…

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読書術や独学術を発信するひと。遍歴 : 実務系英日翻訳、ライティング。これまでに読んだ本はのべ2900冊ぐらい(洋書は300冊ちょい)。英語学習はこっち→ https://note.com/english_master38/ アマゾンアソシエイト参加中

マガジン

  • 哲学が最弱の学問である

    ゲームに勝つことではなくゲーム盤を壊すことが哲学の仕事。哲学者たちの考えたことを超ざっくりと解説します。

最近の記事

リアリズムの古典 モーゲンソー『国際政治』

国際政治学には、ユートピアニズム(理想主義)とリアリズム(現実主義)の二つの潮流があります。 そのうちリアリズムを代表する古典的作品がモーゲンソーの『国際政治 権力と平和』(岩波文庫)。原著の出版は1948年。 1920~1930年代前半のユートピアニズムの時代が終わり、1930年代後半以降はリアリズムの時代でした。本書はその流れを受け継いだ集大成的な作品です。 ちなみにモーゲンソーはドイツ人ですが、後年には国務省顧問や国防省顧問としてアメリカの対外政策にも影響を与えた

    • デカルトの哲学をざっくり解説【そして近代へ】

      ルネ・デカルト(1596-1650)は近世哲学の大ボス。 近代以降の学問全体に多大な影響を与えた人物です。 数学者としても超重要人物で、物理学者ニュートンも彼から影響を受けていました。 哲学者としてのデカルトの魅力は、中世スコラ哲学と近世数学&科学の融合にあります。 この融合が、後にも先にもない独特な魅力を生み出すんですよね。中世までの哲学とも違う。近代以降の哲学や自然科学とも違う。どこか未来的な力をも予感させます。 以下、デカルト哲学をざっくり解説してみようと思い

      • 佐藤優・橋爪大三郎『世界史の分岐点』

        2022年発売の、佐藤優と橋爪大三郎による対談本。 対談は当たり外れの大きいジャンルですが、本書は当たりに属するような気がする。 ・日本の外交は2001年の小泉政権以降、対アメリカ従属を強めていった。 ・安倍政権の2015年ごろに流れが変わった。対米従属を緩め、ロシアや中国に接近する流れを強めていった。 ・アメリカは当初これに気づいていなかった。アメリカがこれに気づいたら日米間でなんらかの摩擦があるかもしれないと本書時点での言及。 ひょっとして安倍氏の最後や、今の岸

        • 空気読みよりもルール設計 菅野仁『友だち幻想』

          なぜ友人関係は疲れるのか?どんな距離感覚で人と接するのが適切なのか? こうした問いかけに一つの指針を与えたロングセラーが『友だち幻想』(ちくまプリマー新書)。 発売からだいぶ経ってから火がつきベストセラーになった珍しい作品。読んでみたら確かに面白い。 著者は社会学者の菅野仁。ジンメル(ウェーバーやデュルケムとならぶ社会学の始祖)の研究者でもあります。 本書のコアとなる主張、それは同質性から並存性へということ。 昭和あたりまでの日本社会に特徴的だった性質が、同質性でし

        リアリズムの古典 モーゲンソー『国際政治』

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        • 哲学が最弱の学問である
          10本
          ¥500

        記事

          今の社会学がわかる本『社会学はどこから来てどこへ行くのか』

          『社会学はどこから来てどこへ行くのか』。岸政彦と北田暁大のふたりを中心に、4人の社会学者たちが対談を繰り広げる本です。 おもに社会学のアイデンティティについて話が盛り上がります。 社会学がなんなのか、いまいちよくわからないところがありますが、それは本人たちにしても同じ感想らしい。「うちらって何やってるんだろう?」などの赤裸々な問いかけが、随所に炸裂します。 本書の結論を一言でいえば、「地味な調査を軸にする地味な学問に戻ろう」ということになります。 社会学はどこから来た

          今の社会学がわかる本『社会学はどこから来てどこへ行くのか』

          樺沢紫苑『インプット大全』

          ベストセラーになった『アウトプット大全』の続編。 前書ではインプットとアウトプットの理想的な比率が3:7であると説かれていました。 本書はそのインプットのほうの質をいかに上げるかに焦点を当てた内容。いくらアウトプットを多くすべきといっても、その元となるインプットがしっかりしていなくては始まらないので。 前作同様に有益な内容、そして読み物としてもかなり面白い。 著者のアウトプット重視については個人的には半信半疑なとこもあります。 たとえば10代~20代の若い人間ならイ

          樺沢紫苑『インプット大全』

          ナポレオン戦争とはなんだったのか 岡義武『国際政治史』

          ナポレオンといえばフランス革命時代のフランスに現れた軍人。 だれもが知る存在ですが、なぜ彼がここまで世界史の重要人物として扱われているのか、僕にはいまいちピンときません。 とくに謎なのが、フランス革命後のナポレオン戦争。ナポレオンはヨーロッパ大陸各地を荒らしまわり、戦争に次ぐ戦争で波乱を巻き起こします。 あれはいったいなんだったのか? ずっと疑問に思っていたのですが、岡義武の名著『国際政治史』(岩波現代文庫)を読んでその謎が一部氷解したので、メモっておきます。 イギ

          ナポレオン戦争とはなんだったのか 岡義武『国際政治史』

          フランシス・フクヤマ『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』

          『歴史の終わり』で有名なフランシス・フクヤマによる名著です。邦訳が出たのは2013年。 「自由民主主義システムが人類の最終ステージなのであり、ここから先は大幅な革命や変化などなく、その意味で歴史は完了したのだ」というようなことを、そこそこの確信で語ったのが『歴史の終わり』でした。 しかし21世紀に入ると様相がおかしくなります。自由化や民主化の流れがストップし、それどころか逆行する国まで次々と現れはじめたのです。 これはどういうことなのか? このような状況と対峙してフク

          フランシス・フクヤマ『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』

          哲学史のおすすめ本15冊を紹介【入門~中級】

          哲学に興味をもったら、最初に哲学史のわかりやすい本を読むのがおすすめです。 哲学は対話的な営み。個々が勝手なことを言っているように見えて、実は背後には共有された文脈があって、それを前提にものを言っています。 だからその文脈を知らないと話についていけなくなるんですね。 文脈を知るとは哲学史を知ること。というわけで、最初に哲学史の本を読むと色々とスムーズにいくわけです。 できれば1冊だけじゃなくて3~5冊読むのがいいと思います。自分の専門じゃない分野で6冊以上読んでもそれ

          哲学史のおすすめ本15冊を紹介【入門~中級】

          音楽を聴きながら勉強や読書をしてはいけない理由

          勉強や読書をするときに音楽をかけるのは有効なのか? これは人によって大きく答えが分かれるところです。 しかし定量的な研究によって、すでに客観的な答えは出ています。音楽をかけながら勉強や読書をすると、成果が大幅に低下するのです。 グラスゴー・カレドニアン大学の研究は、次の4つの条件で認知テストを行い、記憶力や注意力への影響を比較しました。 ・テンポの速い曲を流す ・テンポの遅い曲を流す ・環境音を流す ・無音 結果、無音がもっともテスト結果が良く、それに比べると他の3

          音楽を聴きながら勉強や読書をしてはいけない理由

          吉川英治『親鸞』

          日本でもっとも巨大な影響力をもつ仏教者親鸞を主人公にした作品。 大まかに史実をベースにしつつ、ドラマティックな創作を盛り込んだ名作になっています。 とくに印象に残ったのは、九条兼実の邸を訪れたさいに、戯れで目隠しをされた親鸞が、玉日姫の袖をつかむシーン。 これは作品全体ないし親鸞の生涯の方向性を象徴する場面であり、異常な光彩を放っています。 終盤の平次郎の改心も感動的。 宗教小説とはいってもドストエフスキー的な深みがあるタイプではなかったのですが、この終盤に関しては

          吉川英治『親鸞』

          デカルトの名言&迷句を紹介【方法序説・哲学原理】

          近代哲学の首領ルネ・デカルトの重要な文章&面白い文章を紹介します。 まずは『哲学原理』、次に『方法序説』から。 スタート地点で方向を間違えると努力するほどに真実から遠ざかるスコラ哲学をふくむ従来のすべての哲学を打ち捨て、すべてをゼロからやり直さんとするデカルトの意志が感じられる文。 スコラは哲学のプロ集団であり、デカルトはアマチュアみたいなものだったわけです。その若者がこういうことを言っている。そう考えると、彼の自信と大胆さに驚きますよね。 特許庁で働いていたアインシ

          デカルトの名言&迷句を紹介【方法序説・哲学原理】

          ドラえもんのタイムマシンが異次元の性能をもっている件

          ドラえもんのタイムマシンは、タイムマシン界のなかでも相当すごい部類なんじゃないだろうか? なにがすごいかというと、次の2点。 ・空間移動機能が搭載されている ・亜空間に置いてある こう思ったきっかけは、広瀬正の『マイナス・ゼロ』(新潮文庫)を読んだこと。 これは日本のSFを代表する小説で、タイムマシンが登場します。 けれども、ドラえもんのタイムマシンとは次の2点で仕組みが違うんですね。 ・空間移動機能がない ・実空間に置いてある このせいで主人公はトラブルに見舞

          ドラえもんのタイムマシンが異次元の性能をもっている件

          主体の消失へ 斎藤慶典『デカルト われ思うのは誰か』

          もともとは「哲学のエッセンス」シリーズの一冊として出ていた本。 今では講談社学術文庫に収録されています。 この人の著作は理路整然としていて読みやすいです。しかも形而上学的な深みにどんどんと突き進んでいくというタイプ。ちょっと井筒俊彦ぽいのかも。 デカルトの思索の主題はただ一つのものを中心に旋回している。そしてその主題の一面が自我についての議論であり、もう一面が神についての議論である、という切り口の本。 デカルトは自我の話と神の話をよくしますが、著者はそれを同一の根源的

          主体の消失へ 斎藤慶典『デカルト われ思うのは誰か』

          自由主義とリベラリズムとリベラルって何が違う?

          「リベラリズムという言葉をよく耳にするけれども、漠然としたイメージしか湧かないし、本当の意味は実はよくわかってない…」 という人は僕だけではないはず。 盛山和夫『リベラリズムとは何か ロールズと正義の論理』を読んでみたら、だいぶ霧が晴れる思いをしました。 社会学者の著者が、現代リベラリズムについて解説した良書です。 前半はロールズ理論の解説、後半で現代リベラリズムの説明がなされます。 ロールズの解説書としても読めるし、逆にロールズ自体に興味のない人は序章の次にいきな

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          オルフェウス教とギリシア哲学

          古代ギリシアは、ふたつの精神的エンジンをもっていました。 ひとつは合理的で経験的、実証的な性格のもの。 もうひとつは神秘的で情熱的、霊的な性格のもの。 この両者が組み合わさることで発生した高度な文化が古代ギリシア哲学です。 ニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』は、ここに焦点を当てた作品でした。 古代ギリシアは明朗で合理的なだけでなく、その根底にディオニス的な非合理な情念が渦巻いていた。しかしソクラテスは理性でもってそれを抹殺し、ギリシアの全盛期を終わらせたのだ、という

          オルフェウス教とギリシア哲学