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ナポレオン戦争とはなんだったのか 岡義武『国際政治史』

ナポレオンといえばフランス革命時代のフランスに現れた軍人。

だれもが知る存在ですが、なぜ彼がここまで世界史の重要人物として扱われているのか、僕にはいまいちピンときません。

とくに謎なのが、フランス革命後のナポレオン戦争。ナポレオンはヨーロッパ大陸各地を荒らしまわり、戦争に次ぐ戦争で波乱を巻き起こします。

あれはいったいなんだったのか?

ずっと疑問に思っていたのですが、岡義武の名著『国際政治史』(岩波現代文庫)を読んでその謎が一部氷解したので、メモっておきます。


イギリスとの世界覇権争いに負けたフランス

15世紀後半になると、ヨーロッパは、商業資本をエネルギーとして海外への膨張をはじめます。

最初はポルトガルとスペインが、次いで17世紀にはオランダが覇権を握りました。

18世紀になると今度はイギリスが台頭。スペインを打ち破り、フランスとのあいだで次世代覇権国家の座をめぐりデッドヒートを繰り広げます。

イギリスはオーストリア継承戦争、七年戦争、アメリカ独立戦争でフランスを撃破。世界帝国としての地位を揺るぎのないものにします。

逆にフランスは度重なる敗戦で財政が火の車に。国家は財政の再建にせまられます。しかし特権階級は税の取り立てに反発。

こうして始まったのがフランス革命にほかなりません。


ナポレオンはフランス革命を収束させた

ナポレオンはその知名度に比して、何をした人なのかがいまいち理解されていません。僕も人のことは言えませんが、ほとんどの日本人はナポレオンのなにが凄いのか答えることができないでしょう。

なかには「フランス革命を起こした人でしょ?」という大胆な答えをする人もいるほどです。

しかし実際には、ナポレオンはフランス革命を終わらせた人です。

それもブルジョワジー(金持ち)に有利な形でフランス革命を収束させました。だからこそナポレオンはブルジョワジーの守護者と呼ばれるのです。

ミシュレが言うように、すべての民衆の権利を求めた革命家たちからすれば、ナポレオン体制とは墓場ようなものだったのです。


そんなナポレオンが胸に秘めた野望。それはイギリスへのリベンジにほかなりません。

フランスを散々な目にあわせて世界の覇権を手にしたイギリスに復讐し、王座から引きずりおろす。

ナポレオンの動きはすべて、この目的に沿ったものになっているのです。

たとえば東方への遠征なども、たんにアレクサンダー大王のマネをしたというわけではなく、イギリスの最重要植民地インドを陥落させようという試みでした。しかしこの遠征は、イギリスの海軍力に阻まれて挫折します。


ナポレオン vs 大英帝国

イギリスを追い詰めるためにナポレオン取った最終行動。それが有名な大陸封鎖令です。

これはイギリスをヨーロッパ大陸の経済圏から孤立させることで、食糧などの枯渇を引き起こそうという狙いをもった政策でした。

しかし当時のヨーロッパの経済システムはイギリス抜きで回るものではありませんでした。経済はすでに一国を超えた範囲で展開しており、都合よくイギリスだけにダメージをあたえることなど不可能だったのです。

その結果、ヨーロッパ大陸はイギリスよりも大きな経済ダメージを負ってしまいます。


焦ったナポレオンはスペインとポルトガルを支配下に置こうと画策。両国をイギリスから完全に切り離し、スペインの海軍力を利用することでイギリスの海軍を突破しようと考えたのです。

しかしスペインの人民は予想外の反抗を展開。フランス軍に対してゲリラ戦を展開し、ナポレオンを苦しめます。

圧倒的強者に対して弱者がゲリラ戦で勝つという、後の20世紀によく見られた戦いの先駆といえるかもしれません。


この隙をついてロシアが動きます。このまま貿易が制限されたんじゃじり貧だといって、イギリスとの取引をこっそり再開。

ところがこれがナポレオンにバレてしまいます。ナポレオンは激怒。今度はロシアへの侵攻を開始します。

そしてこれがナポレオンの運の尽きでした。やがてヒトラー率いるドイツをも打ち破る極寒の大地が、ナポレオンの軍隊を粉砕します。


岡義武は次のようにいっています。

ナポレオン戦争は一面においては、十八世紀においてイギリスと世界政治における優越的地位を争って敗れたフランスがイギリスに対して再度の挑戦を試みたものということができる。そして、ナポレオンの蹉跌・没落は、歴史的にみるならば、フランスのそのような企図を決定的に封殺したものといってよい。これらの点において、ナポレオン戦争は正に世界史的意義をもつものであった。

(岡義武『国際政治史』岩波現代文庫p.49)

これでナポレオン戦争の意味がだいぶ理解できたような気がします。

岡義武の本はほんと面白いですね。海外ならキッシンジャーの『外交』、日本なら本書がおすすめ。

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