石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いて…

石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いていくものをまとめ、整理することを目的にnoteを使ってみようと思い立ちました。

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最近の記事

【独占禁止法叙説】景品表示法#1:「景表法」ってどんな法律?

一、「ケイヒョウホウ」って何?  とても長い法律の名称や、それほど長いものでなくとも、しばしば話題に上る著名な法律の名前を、わたしたちは時として元々のかたちを想像不可能なまでに省略してしまい、第三者から見て、とても珍妙な呼び方をしてしまっている場合があります。たとえば、「ドッキン法」。これは、かなり一般化しているので珍妙とまではいかないかもしれません。ご存じのとおり、「独占禁止法」の略称です。でも、これは正式名称ではありません。正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関す

    • 【随想】郵便料金のあり方#4(4/4)

       今回の郵便料金をめぐる一連の経過を見ていて、ふと郵便料金や郵便事業の意義に関して争われたかつての裁判を思い出した。  これは、当時の郵政省が販売していた官製ハガキにつき、独占禁止法にいう「不当廉売」(不当に安い価格で販売すること)に当たるとして私製ハガキを製造・販売している企業が、郵政省を相手に損害賠償を請求した事件である。  郵政省が発行する官製ハガキは、郵便ハガキそれ自体にすでに信書送達サービスの対価を表章する証紙が印刷されており、官製ハガキを購入すれば、別に切手を貼付

      • 【随想】郵便料金引上げ案の審議会了承#3(3/4)

         報道によると、総務省により昨年末に示された郵便料金の値上げの方針案(葉書については63円→85円、25グラム以下の定型の郵便封書については84円→110円等)が、パブリックコメント(意見募集による提出意見)の手続きを経て、このほど総務大臣の諮問機関である情報通信行政・郵政行政審議会で了承されたという。  これを受け、日本郵便は今年の10月にも値上げを予定しているという。この値上げが実現されれば消費税増税に伴う措置を除くと1994年(平成6年)以来、30年ぶりの改定になるとい

        • 【随想】郵便料金の設定と変更#2(2/4)

           郵便料金について、郵便法(昭和 22 年法律 165 号)は「郵便に関する料金は、郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものでなければならない」と定め(法3条)、その設定ないし変更にあっては、あらかじめ総務大臣に届け出なければならないとしている(法67条1項)。  その際、総務大臣は、その料金について「郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」(法67条2項1号)、また、いわゆる定形郵便物の

        【独占禁止法叙説】景品表示法#1:「景表法」ってどんな法律?

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        • 【独占禁止法叙説】
          20本
        • 【菓子探求】
          3本

        記事

          【随想】郵便料金の値上げ#1(1/4)

           年始、ここ数年、送り届けられる年賀状の枚数が目に見えて少なくなってきている。世代にもよるかもしれない。年齢が増すにつれ、付き合いの幅はそれなりに広がるはずなのだが、賀状をやりとりする人は年々減り限られてくるのが今風で興味深い。  連絡を取り合う方法が格段に増えたことは確かだろう。電話が各世帯に一回線だったものが、いまでは各人に一端末となっている。eメールだけではなく、SNSのメッセージやチャット機能など、出会いのきっかけや用途、連絡の頻度などに応じていつの間にかお互いにとっ

          【随想】郵便料金の値上げ#1(1/4)

          【随想】免罪符となった価格の同調的引上げの報告徴収の末路#6(6/6)

           寡占企業による安易な価格引上げを国民の目や社会的な批判に晒すことで自制を求めると同時に、このような価格引き上げの契機を的確に捕捉することを通じて今後の審査活動に活かすことを狙いとしていた「価格の同調的引上げに対する報告徴収」の規定は、残念ながらその期待された役割を果たすことなく、平成17年の独占禁止法改正によって廃止された。  その理由は、寡占企業への自制を促すはずのこの規定が、その後の運用のプロセスの中で、こうした期待とは逆の方向に作用したからである。  この規定は、企業

          【随想】免罪符となった価格の同調的引上げの報告徴収の末路#6(6/6)

          【独占禁止法叙説】6-4 「持株会社」(パート2)

          (三)ベンチャー・キャピタル・ガイドライン  本条に関する実務・運用の一つの画期は、一九九四年八月二十三日に公表された「ベンチャー・キャピタルに対する独占禁止法第九条の規定の運用についての考え方」(以下、「平成六年ガイドライン」という。)である(本ガイドラインは、公正取引五二七号(一九九四年九月)二十四頁〔資料1〕参照)。ベンチャー・キャピタルとは、ベンチャー・ビジネスに対する資金提供と経営活動の助言とを業務とする会社をいう。一般に、ベンチャー・ビジネスは、そのリスクが大きく

          【独占禁止法叙説】6-4 「持株会社」(パート2)

          価格の同調的引上げに対する報告徴収の狙い#5(5/6)

           1977年(昭和52年)の独占禁止法改正によって導入された「価格の同調的引上げに関する報告徴収」(旧18条の2)は、一定の寡占市場(市場規模600億円超かつ上位3社の市場占拠率の合計が70%超)において、同種の財ないしサービスの価格について、首位事業者を含む2以上の事業者が「3か月以内に、同一または近似の額または率の引上げをしたとき」に公正取引委員会がその理由について報告を求めるものである。  公正取引委員会は、当該報告徴収のあと、その内容を年に一度刊行される公正取引委員会

          価格の同調的引上げに対する報告徴収の狙い#5(5/6)

          【随想】いまはなき価格の同調的引上げに対する報告徴収の規定#4(4/6)

           たとえば、何からの事情により、ある製品の原材料価格が上昇したとする。そのとき、寡占市場と呼ばれる少数の企業によって構成される市場では、企業が「同調的な」行動をとる。  それは、同種の製品を製造・販売していれば、競合する他社がどの程度の費用で製品を製造しているか多かれ少なかれ想像がつくというものだし、また、多くの消費者に向けた消費財を販売していれば、値上げに対抗する強い需要者からの圧力を感じることはないからである。だから容易に「あうん」の呼吸で価格が引き上げられる。  もちろ

          【随想】いまはなき価格の同調的引上げに対する報告徴収の規定#4(4/6)

          【随想】購読料引上げの理由と問題点#3(3/6)

           購読料引上げの理由はさまざまだ。値上げの理由は、どの業界もそれほど変わらない。すぐに思い浮かぶのは、原材料費や人件費の高騰であろう。  新聞においては、新聞制作に不可欠な用紙代やインク代の値上がりから、取材や編集等に関わる人々の人件費の高騰、全国の取材網を支える支局の維持、全国的に配送するための運送コストや戸別配達を維持するための販売店コストの高騰までさまざまな要因が挙げられる。  昨今の物価や賃金の高騰は、さまざまな財・サービスの値上げ因子として影響を及ぼしており、それは

          【随想】購読料引上げの理由と問題点#3(3/6)

          【随想】新聞各社の購読料金引上げ動向#2(2/6)

           今年の7月1日付で行われた日本経済新聞の購読料の引上げは、この一時点で見るのではなく、やや時間的に俯瞰してみると1社のみの行為ではないことに気づく。  日本経済新聞は7月1日から朝・夕刊セットの月ぎめ購読料を4900円から5500円に引上げたが(朝刊のみの場合は4800円)、これに先立ち、朝日新聞が5月1日付で、朝・夕刊セットの月ぎめ購読料を4300円から600円引上げ4900円とした(朝刊のみの場合は 600円引き上げ4000円に)。この翌月6月1日には、毎日新聞が朝日新

          【随想】新聞各社の購読料金引上げ動向#2(2/6)

          【随想】新聞の一部売り、躊躇の理由#1(1/6)

           経済合理性に適った行動か否かは別にして、ここ四半世紀にわたって、自宅では「東京新聞」を購読し、毎朝駅売の「日本経済新聞」を買っている。しかも電子版ではなく、アナログ(新聞紙)で。理由は単純で、全国紙の中で「東京新聞」が一番安いから。そして、「日経」は仕事上必要な経済関連記事に目を通しておくためである。  どうして「紙」かといえば、論文や講義の素材にするため、紙面を切り抜いてストックするからだ。デジタル版が出て久しいので、きっともっとよい資料の整理法があるのかもしれないが、こ

          【随想】新聞の一部売り、躊躇の理由#1(1/6)

          商品か機能か#5:悩ましい無償性(5/5)

           オペーレーション・ソフトウェアであるウィンドウズとウェブブラウザのインターネットエクスプローラとを合わせて提供するマイクロソフト社の行為は、先月取り上げたエクセルとワードの抱き合わせ販売と同様に考えることができるだろうか?先月、最後に提起した問題である。  結論からいうと、競争法ないし独占禁止法の理解ないし論理からするとこれらは異なる行為と評価される。わたしは、前者の行為を注意深く「抱き合わせ販売」と呼んでいなかったことから気づく人もおられるだろう。  では、これらの間で一

          商品か機能か#5:悩ましい無償性(5/5)

          【独占禁止法叙説】6-4 「持株会社」(パート1)

          (一)法律上の「持株会社」  法律上「持株会社」とは、「子会社の株式の取得価額…….の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が百分の五十を超える会社」と定義され、会社の総資産のうち子会社の株式取得価額の占める割合が五十パーセントを超えるものに限定している(法九条四項一号)。したがって、ある会社が他の会社の株式を保有していても、その取得価額が五十パーセントに満たない場合は単なる事業会社(法律上は「会社」)に過ぎず、それが「銀行業又は保険業」(法十一条)に該当しないかぎり、その

          【独占禁止法叙説】6-4 「持株会社」(パート1)

          【随想】商品か機能か#4:わが国の抱き合わせ販売事例(4/5)

           抱き合わせ販売やセット販売の問題性は、二つの方向性で語られてきた。ひとつは、いらない商品を買わざる得ない不要商品強要型、いま一つは、すでに人気を博している主たる商品の力に乗じてこれまで売れていなかった従たる商品の売り上げを増やすことでこの商品を提供している競争者を不利に追いやる競争者排除型である(これはしばしば「レバレッジ(てこ)の理論」と呼ばれている)。  公正取引委員会は、近年、改定公開されたいわゆる「流通・取引慣行ガイドライン」において、抱き合わせ販売が違法となる場合

          【随想】商品か機能か#4:わが国の抱き合わせ販売事例(4/5)

          商品か機能か#3:セット販売の問題性(3/5)

           抱き合わせ販売ないしはセット販売には、メリットも多い。PCにあらかじめ基本的なアプリケーションソフトがインストールされていれば、買ったその日からPCを駆使できる。旅行に出かけるのに、歯ブラシとデンタルペーストの両方が一緒になっているのもありがたい。自動車を購入する際、タイヤやホイールはちゃんとついてくるはずだ。  いずれも顧客が望んでいることだ。  しかし、セット販売で購入した商品の片方が消耗品であったらどうだろう?商品の消耗のタイミングが違っていたらどうだろう?使い終わっ

          商品か機能か#3:セット販売の問題性(3/5)