【随想】免罪符となった価格の同調的引上げの報告徴収の末路#6(6/6)

 寡占企業による安易な価格引上げを国民の目や社会的な批判に晒すことで自制を求めると同時に、このような価格引き上げの契機を的確に捕捉することを通じて今後の審査活動に活かすことを狙いとしていた「価格の同調的引上げに対する報告徴収」の規定は、残念ながらその期待された役割を果たすことなく、平成17年の独占禁止法改正によって廃止された。
 その理由は、寡占企業への自制を促すはずのこの規定が、その後の運用のプロセスの中で、こうした期待とは逆の方向に作用したからである。
 この規定は、企業が価格引き上げを行う際、その理由の報告を公正取引委員会に対して行うものであるが、この手続きを踏めば、(「同調的な」行為であって、「合意」を伴ったカルテルではないのだから)価格引上げはそもそも違法ではないし認められることになる。この動きを公正取引委員会の審査を担当する部署も事件の端緒として捉えないかぎり、動かない。つまり、寡占企業にとって、この手続きは、価格引上げのいわば「免罪符」として理解され利用されることになったのである。
 一定の規制が、一旦このような性格をもつようになると、規制としての意義をみるみる失っていく。この規制が始まった昭和52年(1977年)改正以降廃止までに、この規定にもとづき理由を報告しつつ価格引き上げを5回にもわたって行った業種の一つが、新聞業なのである。他にも、ガラス、農作機械やインスタントコーヒーなども価格引上げの常連と言っていい業種がなかったわけではないが、新聞業は突出していた。しかも、首位企業とはおおよそ言えない企業が価格引き上げを先導していた事例もあった。
 こうして、折りからのデフレと、構造改革推進の呼び声が高まるなか、談合・横並び体質からの脱却を図るための、課徴金制度の見直し、課徴金減免制度の導入を内容とする法改正(平成17年法律35号)において、規定の狙いも実効性も失った価格の同調的引上げに対する報告徴収は姿を消すことになる。法の規制はより実効性のある方向へとシフトしていくことになる(2023年12月5日記)。

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