【独占禁止法叙説】6-4 「持株会社」(パート1)

(一)法律上の「持株会社」
 法律上「持株会社」とは、「子会社の株式の取得価額…….の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が百分の五十を超える会社」と定義され、会社の総資産のうち子会社の株式取得価額の占める割合が五十パーセントを超えるものに限定している(法九条四項一号)。したがって、ある会社が他の会社の株式を保有していても、その取得価額が五十パーセントに満たない場合は単なる事業会社(法律上は「会社」)に過ぎず、それが「銀行業又は保険業」(法十一条)に該当しないかぎり、その株式保有は基本的に法十条の問題となる。こうした法九条四項一号に見られる基準の設定は、他の会社の株式保有について、「自己の資本に相当する額又は純資産の額に相当する額のいずれか多い額」を基準に、これを超える株式保有を資本金百億円以上ないし純資産三百億円以上の会社について禁じたいわゆる「大規模会社の株式保有総額制限」(旧法九条の二)に見られたところである(本条は、総合商社等の大規模会社の株式保有を一律・形式的に制限するものであったが、企業集団の中核となるような大規模会社の経済的地位の相対的低下、経済のグローバル化や時価会計の導入等株式保有リスクに由来する株式持合いの減少傾向を受けて、二〇〇二年の法改正によって廃止された。ただし、事業支配力の過度の集中を防止する観点から持株会社以外の会社にも法九条の規制を妥当させることとし、若干の修正が加えられている。なお、改正法の詳細については、菅久修一・小林渉編著『平成十四年改正独占禁止法の解説』(商事法務、二〇〇二年)四-五頁を参照。)。
 法律上、「持株会社」の該当性を会社総資産中における子会社株式の取得価額の過半をもって判断する形式的ないし数量的手法は、「持株会社」を解禁した一九九七年改正(平成九年法八十七号)の際に導入されたものである(平成九年法九条六項)。しかし、もともとは「持株会社」を「株式……を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社」としており、必ずしも形式的・数量的にその概念を確定できるものとはなっていなかった(旧法九条三項)。

(二)旧法九条三項
 旧法九条三項は、「持株会社」概念の確定につき、会社に関する二つの要件(ないし属性)の検討を求めている。ひとつは、会社が「国内の会社の事業活動を支配すること」をその事業としていることであり、いまひとつは当該事業がその会社にとって「主たる」事業であるということである。
(1)「国内の会社の事業活動を支配すること」
 まず、「会社の事業活動の支配」とは、かの野田醤油事件東京高裁判決が述べているように、一般には「……原則としてなんらかの意味において他の事業者に制約を加え、その事業活動における自由なる決定を奪うことをいう」(野田醤油事件、昭和三十一年(ナ)第一号審決取消請求事件、東京高等裁判所昭和三十二年十二月二十五日判決、高民集十巻十二号七百四十三頁又は審決集九巻五十七頁。)。ただ、本条における「会社の事業活動の支配」は、専ら「他の国内の会社の株式(社員の持分を含む。……)を(取得し、又は)所有すること」(旧法九条一項・二項)を手段とする場合に限られているから、ここではむしろ東洋製罐事件勧告審決において示されたように「他の事業者に制約を加え、その事業活動を自己の意向に従わせること」(東洋製罐事件、昭和四十七年(勧)第十一号東洋製罐株式会社に対する件、公正取引委員会昭和四十七年九月十八日勧告審決、審決集十九巻八十七頁。)と若干の限定を付して解するのが妥当と思われる。またその際、「事業支配力の過度の集中を防止する」ことを規制の趣旨としている法九条の予防的性格に鑑みれば、私的独占にいう「支配」(法二条五項)とは異なり、支配することを業務の内容とし、それを実施しようとしていることのみをもって足りるものと解される(正田彬『全訂独占禁止法〔Ⅱ〕』(日本評論社、一九八一年)十八頁。)。したがって、相手方会社の発行済株式総数の過半を取得・所有(保有)している場合はもちろんのこと、それ以下であっても、当該株式発行会社の株主総会等における議決権行使の状況、役員の派遣ないし役員・従業員の兼任関係、融資関係等、各般の事情を総合的に考慮した結果、ここでいう「支配」に該当する場合も当然出てくる。もちろん、他の会社の株式を保有する会社であっても、事業の性質上「事業活動の支配」とはならない株式投資会社、証券引受会社や単に財産の保全だけを目的とする会社は、ここにいう「支配」には該当しないことはいうまでもない。
(2)「主たる事業」
 次に、「主たる事業」の該当性が問題となる。「主たる」という文言の理解には少なくとも二つの考え方があり得る。ひとつは字義どおり解する考え方で、いくつかの事業を行う中にあって最も比重の大きい事業のことを意味し、かかる事業が「国内の会社の事業活動の支配をすること」であれば、本条の適用があるものとされる。いまひとつは「主たる事業」を「主要な」ないし「重要な」の意味で捉え、主たる事業が一つに限られず、客観的に主要なあるいは重要な事業が複数認められる場合であっても、そのいずれかが株式保有によって他の会社の事業活動を支配しているとなれば、本条の適用を可とするものである。
 従来(もちろん、「主たる事業」という要件が法律上の意義を有していた一九九七年改正法施行前においてであるが)、実務・通説は、基本的に前者の考え方に従っていた。
 実は、「純粋持株会社」ないし「事業持株会社」というしばしばなされる事実上の区別も、かかる理解と関係して成り立っていた。これによれば、「他に主たる事業目的を有する会社が、他の会社の株式を保有して、その事業活動を支配する」場合には、旧法九条三項で禁止される「持株会社」には該当しないとし、しかしながら、「株式を保有して他の会社を支配するその実質においては、持株会社たることに変りはないから」、これを「事業持株会社」といい、逆に本条に該当する持株会社を「純粋持株会社」とするのである。つまり、法で禁じる持株会社は「純粋持株会社」に限られ、「事業持株会社」は「会社」である以上、その株式保有は法十条(場合によっては法三条前段)の規定に抵触しない限り自由であるということになる(ただ、かかる理解に立つと、法九条の実効性はきわめて薄いものとなり、象徴的な意義を有するにすぎないものとなるだろう)。独占禁止法の制定当初は、法十条において会社の株式保有は原則として禁止されていたため、その限りで「持株会社」は生じ得ず、法九条は専ら財閥本社のようなものの設立を認めない旨を宣示する意味を持っているに過ぎなかった。
 他方、後者の考え方によれば、「他の会社の株式を保有して、その事業活動を支配する」ものの「他に主たる事業目的を有する会社」(いわゆる「事業持株会社」)にも法九条の規制を及ぼすことが可能となる。かかる理解は、もともと旧法九条の二の規制が未だ存在しない状況下において、旧法九条を企業集団の経済的支配力を規制する一手段たることを企図して主張されたものである。
 いずれの見解を採るにせよ、旧法の下において、「主たる事業」の判断は、何らかの実質的な判断を伴わざるを得ない。しかし、いかなる程度に至れば「主たる事業」と認められるかは、もとより一律に論じることは出来ない性質のものである。この点、これまで指摘されてきた指標としては、例えば、会社の営業種目、事業活動全般の状況、会社の総資産に占める所有株式の価額の割合、会社の総収入のうち所有株式による配当収入の占める割合等が認められるが、これらを多方面から総合的に判断されるものとされていた。

(2024年5月27日記)

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