【随想】いまはなき価格の同調的引上げに対する報告徴収の規定#4(4/6)

 たとえば、何からの事情により、ある製品の原材料価格が上昇したとする。そのとき、寡占市場と呼ばれる少数の企業によって構成される市場では、企業が「同調的な」行動をとる。
 それは、同種の製品を製造・販売していれば、競合する他社がどの程度の費用で製品を製造しているか多かれ少なかれ想像がつくというものだし、また、多くの消費者に向けた消費財を販売していれば、値上げに対抗する強い需要者からの圧力を感じることはないからである。だから容易に「あうん」の呼吸で価格が引き上げられる。
 もちろん、公正取引委員会は、寡占市場におけるこうした弊害を看過していたわけではない。やや古い話だが、わが国の経済成長の歪みを是正するために行われた1977年(昭和52年)の独占禁止法改正によって、こうした寡占企業による同調的行動に対して一定の規律が加えられることになった(現在は廃止されている)。
 独占禁止法旧18条の2の「価格の同調的引上げに関する報告徴収」がそれである。この規定は、1年間の国内総供給価額が600億円を超え、かつ、上位3社の市場占拠率の合計が70%を超えるという市場構造要件を満たす市場において、同種の商品または役務につき、首位事業者を含む2以上の主要事業者(これらは市場占拠率が5%以上であって、上位5位以内である者をいう。)が,取引の基準として用いる価格について、3か月以内に、同一または近似の額または率の引上げをしたとき、公正取引委員会が当該主要事業者に、当該価格の引上げ理由について報告を求めることができるとするものである。
 残念ながら、価格引上げの合意を伴うものではないので、独占禁止法上は違法とは言えない。だから、値上げの理由を聞くというかたちをとる。果たしてこのような規制で実効性はあるのだろうか?
 公正取引委員会は、この規定の運用にあたって、その運用基準を明らかにし、市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し、公表している。たとえば、マヨネーズ・ドレッシング類、カレールウのような食品から、自動車・バイク、家庭用テレビゲーム、パーソナルコンピュータ、複写機などとともに、一般日韓全国紙も記載されている(2023年10月5日記)。

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