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ちょっと上級の物理学(たまに数学)

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基本事項の解説はありません。検索しても簡単に答えが出ない問題を考えた記録。
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#物理

2つのボールをぶつけると円周率が分かる―論文を読まずに自力で計算してみた―

2つのボールをぶつけると円周率が分かる―論文を読まずに自力で計算してみた―

はじめに2003年に以下のような興味を引くタイトル の論文が出ている。

G. Galperin, 2003. Playing Pool with π (The Number π from
a Billiard Point of View). Regular and Chaotic Dynamics, 8(4): 375-394.

タイトルにあるpoolとはいわゆるビリヤードのことで(この記事を

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指と指の隙間に見える干渉縞の謎―意外と難しいその発生原理―

指と指の隙間に見える干渉縞の謎―意外と難しいその発生原理―

指で簡単に干渉縞を見る方法光が波としての性質を持つ実例として、二重スリットを通した光が干渉縞を生成する現象は、高校の物理でも習う基本的な事項である。二重スリットの実験は、レーザーのようなコヒーレント光を用いれば簡単にできるのだが、太陽光や蛍光灯のような身近な光源を使う場合、干渉縞が見えるようにするには一工夫必要である(後述)。

ところが、そのような身近な光源でも、非常に簡単に干渉縞を見る方法があ

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潮干狩りはなぜ春にやる?―潮汐に年周期が現れる理由―

潮干狩りはなぜ春にやる?―潮汐に年周期が現れる理由―

はじめに上の子がハマってる野生生物捕獲料理人ホモサピ氏の動画を一緒に見ていたら、「潮干狩りが春に行われるのは、その時期に昼間に大きな引き潮になりやすいから」という解説があり、知らなかったので感心したのだが、物理的な理由が分からなかった。すぐにネットで検索してもおもしろくないので、しばらく自分で考えてみたが、そもそも、潮汐に年周期が現れる理由がなかなか思いつかない。しかも、上記潮干狩りの話は、単に春

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定常電流は電磁波を放射しない―奥が深い古典電磁気学―

定常電流は電磁波を放射しない―奥が深い古典電磁気学―

素朴な疑問大学で電磁気学を学ぶ場合、最初に、時間的に変化のない静的な電磁場について学び、次に、時間変化のある動的な電磁場について学ぶというようにステップを踏むのが普通である。静的な電磁場を生み出すのは、当然ながら時間変化のない電荷や電流の分布である。定常電流は静磁場を生み出す。このとき、電流が流れる導線の形状がどんなに屈曲していようが、周囲の電磁場には時間的な変動が一切生じないことが暗黙の前提とな

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「隠れた運動量」考―奥が深い古典電磁気学―

「隠れた運動量」考―奥が深い古典電磁気学―

はじめに互いに全く無関係な静電場と静磁場を組み合わせてできるポインティングベクトルは、電磁場のエネルギーの流れを表すか?という疑問は、古典電磁気学における神学論争的な問題である。電気回路の周囲に生じる静的な電場と磁場の場合、そのポインティングベクトルが、エネルギーの供給地である電源から消費地である抵抗に向かう電磁場のエネルギーの流れを確かに表していることについては、以下の記事で解説した通りである。

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電気回路のエネルギーは周辺の空間を伝わる??―奥が深い古典電磁気学―

電気回路のエネルギーは周辺の空間を伝わる??―奥が深い古典電磁気学―

はじめに話は大学時代の1998年1月12日に遡る。在籍していた物理学科の電磁気学の授業で、教官(坪野公夫教授(当時))が「電気回路のエネルギーは導線を伝わるわけではなく、周囲の空間を伝わる」とか言って煙に巻いたことがあった(下図は当時のノートの抜粋)。

当時は、まさかと思って深く考えなかったが、ふと思い出して2021年から改めて考えるようになり、なかなか奥が深い問題であることを知ることとなった。

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