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小説

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#現代ファンタジー

『学園祭』3

4/
 「あ、有村会長!! どうでしたか?」
 お化け屋敷を出るとすぐに受付をしていた女子生徒に声を掛けられた。
 どうやら夕夏と耕輔が出てくるのを待っていたらしい。
 「随分作り込んであって見事だったわ」
 女子生徒の言葉に耕輔は引き攣った笑顔を返すのが精一杯であったが、夕夏はいつもと変わらぬ笑顔と調子で応えた。
 応えてから、夕夏はポケットから手帳のようなものとペンを取り出して、何かをメモした

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『学園祭』2

3/
 「ちょ、ちょっと!! 会長!!」
 夕夏に手を引かれ、学校祭で賑わう校内を猛スピードで走り抜ける。
 いったい何の用事なのか、いったい何処へ向かっているのかわからないまま連れまわされる。
 時折、校内で知らない者の居ない夕夏に生徒たちが男女問わず声を掛けてくるが、夕夏は器用に、速度を落とさないまま微笑んで手を振っていた。
 
 耕輔の制止に一向に応えないまま、夕夏は走る。
 廊下を行き、階

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『学園祭』1

 いつも以上に活気づいている教室内で琴占言海は忙しく荷物を運んでいた。
 いつもの制服姿ではなく、上はTシャツに下は制服のスカートという、少しラフな格好であった。
 「ん?」
 そんな言海は喧騒の中で自分のスマートフォンが振動していることに気付いた。
立ち止まり、荷物を抱えた状態で器用にバランスを取り、スマートフォンを取り出して画面を確認する。
 短くはないメッセージであった。
 「……なるほど」

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『人工勇者計画』

 かつて裏の世界は二分されていた
 最も多くの勢力をまとめていた『理事長』と呼ばれる男を筆頭にした【理事長派】と、理事長派に反発した勢力である【反理事長派】の2つ。
 裏の世界は数10年この均衡保ち、時は流れていた。
 が、ほんの数年前、理事長の『企み』に気付いた者たちが、それまで姿さえ掴ませなかった理事長を打倒した事で、裏の世界は大きな変貌を余儀なくされた。
 勢力は3つに分断された。
 未だ大

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『落ちてきた男』

1/
 「あっちぃ~……」
 右手に持った一個65円のソーダ味アイスが溶け始めている。
 無地の白いTシャツの首元をパタパタと引っ張って風を送るが気休めにもならなかった。
 夏。
 紛れもなく夏だった。
  
 雲一つない晴天で気温は35℃を越えている。
 そんな中を木元鬼丸はあてどなく歩いていた。
 簡単に言えば、家を追い出された。
 お盆時期のために、木元宗家である鬼丸の家で分家筋の人間との会

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『楽園の戦士』

 「で、あんた達なんなのよ」
 人通りのない路地はただでさえ薄暗かったが、空に今にも降り出しそうなどす黒い雲が停滞しているせいでいつも以上に暗くジメジメした雰囲気を強調しているようだった。
 「……【楽園の戦士】」
 目の前に立つ黒ずくめの男が低い声でぼそりと呟いた。
 「聞いたことないわね。それで私に何か用事かしら?」
 吐き捨てるような言葉に、男は手を前に出した。
 制止する様な仕草。
 「…

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『密室殺人』

 昼の学食は大いに賑わっていた。
 「あー……」
 裏の世界では『闇丸』と呼ばれる青年はきつねうどん(380円)の乗ったお盆を両手で持ったまま、喧騒の中で立ち尽くしていた。
 学食が盛況なのはいい事なのだが、いかんせん座るところがない。
 こうなると困ってしまうもので、知り合いがいないかどうかを探す羽目になる。
 残念ながら、学内に知り合いはそう多くのないのだが……。
 うーん、唸りながらも誰かい

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『借金5000万の男3』

4/
 「クソッ!! どこもアイツ等が張ってやがる!!」
 街外れの廃工場。
 そこに借金男は身を隠していた。
 手にはスマートフォンが握られ、情報を集めているようだった。
 しかし、既にこの街は能犯の人員によって捜索されており、ここから動けば確実に見つかることになるだろう。
 処理班程度が相手であれば蹴散らせるが、戦闘員が相手では最低でもこちらは深手を負うことになる。
 あれだけ大きな爆発を起こ

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『借金5000万の男2』

 『能犯』
 正式には『能力犯罪対策機関』。
 世界最大の能力者派閥である。
 特殊能力や異界の存在を一般に秘匿にする事、それらを破ろうとする者を裁く事、能力者や異界の関係者と関係各所の連絡を行う事、能力を応用し犯罪を犯す者を裁く事。
 能力者や異界に関するあらゆる物事に対応し、処理するのが仕事である。
 設立はほんの20年程度前で、その創立者はまだ20歳にもなっていない若者であった。
 名を木元

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『借金5000万の男1』

1/
 「借金抱えた男が逃げたって?」
 疲れた顔をした40代後半の男が咥えたままの煙草が煙をくゆらせる。
 「よくある話っすねぇ」
 男の隣には若い男が立っており、手元のスマートフォンを弄りながら軽い口調で返した。
 上司は人気のない路地裏を見つめる。
 「よくある話つったってよぉ……。これはねぇだろ、これは」
 見つめている先は行き止まり――だったはずの路地裏。
 今は瓦礫まみれで、路地裏なの

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