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小説

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2024年1月の記事一覧

学食へ行こう 3

 恥ずかしそうに両手で顔を覆う伊吹先輩。
 精一杯取り繕った理由を看破され、それを俺に知られたのが恥ずかしいのだろう。
 部長の方を見る。
 部長はそれ以上何も言わずにパソコンへ向き直り、作業に戻っていた。
 あとはお前がやれ、ということだろう。
 相変わらず「うー……」と唸っている伊吹先輩は非常に可愛らしいのでこのまま眺めていたい気持ちもあるのだが、このままだと可哀想だという気持ちの方が強い。

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学食へ行こう 2

 「はー、なるほど……。……?」
 思わず伊吹先輩の言説に一瞬、納得しそうになったが、思い直した。
 いや、どういうことだろう?
 生徒会長であることと、学食に行くことにいったいどんな関連があるのだろう。
 軽く頭を捻ってみるが全く分からない。
 目の前の伊吹先輩の顔を見る。
 目が合う。
 ふわり、と微笑まれる。
 可愛い。
 ……いや、違う。そうではない。
 頭を振って伊吹先輩の美貌に囚われそ

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学食へ行こう 1

 「周くん、私とも学食へ行きましょう!」
 バン、と机に手を付く音が部室に響き、校内一、いや俺が今まで会った人の中でいた一番の美人の顔が近づいた。
 あぁ、今日も伊吹先輩は美人だなぁ、なんて呑気に思えたのも一瞬で、すぐに正気に戻り、思わず仰け反った。
 伊吹先輩はちょっと美少女過ぎるので圧も強いし、緊張してしまう。
 「ど、どうしたんですか、急に」
 当然の疑問を口にすると、伊吹先輩は机から手を離

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ド年末のAnother World Stranger

 「お疲れー」
 間の抜けた挨拶をしながら、男ーー八代陸人(やつしろ りくと)は重い扉をくぐって室内に入った。
 だらだらと歩いて常設のギターアンプの前に立つと、アンプのパワースイッチを押してからのろのろと左手に持ったエフェクターボードと右手に持ったギターケースを床に降ろす。
 そこまで来て、陸人はこの貸しスタジオの同じ部屋にいるはずの仲間から返事がないことに気付いて、顔を上げた。
 陸人の所属す

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白澤優人の人となり 5

 「月瀬氏によれば桐間氏もかなり『出来る』方だと聞いているでござるが」
 先輩の縁の厚い眼鏡がギラリと光った気がした。
 あの人はいったい何を言ったんだ。
 傍若無人の塊なので、俺については有る事無い事言っていそうで怖い。
 たしかに、俺はたぶん普通の人に比べれば『出来る』方だとは思う。
 元々、運動神経は良い方だった自覚があるし、身体も昔から頑丈だった。
 その上、この顔面のせいで散々喧嘩に巻き

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