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2020年10月の記事一覧

『大怪盗』2

3/
 「どうも」
 大荷物を載せた馬を従えた別の行商人が洞窟の前に立っていた見張りの男に短く声を掛けた。
 「ん、今日もご苦労」
 見張りの男が横柄な態度で応えた。
 行商人の男が証明用の書類を符牒を混ぜながら渡す。
 「最近、俺等の事を嗅ぎまわってる小物がいるらしくてな。頭領に適当にやるなって文句言われてて面倒なんだよな」
 文句を言いながら見張りの男が面倒そうにそれらを一つずつ確認していく。

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『大怪盗』1

 行商人の男が見えた。
 洞窟の中から見張りらしき男が出てきた。
 行商人と幾つか言葉を交わした様子が見えた。
 見張りの男は納得したように頷き、キョロキョロと辺りを確認したあと行商人の男を連れて洞窟の中に消えていった。
 数秒してドアの開閉音が辺りに響いた。

♪ ♪ ♪

 「いやぁ、相変らず凄いですね」
 行商人は洞窟の内部に広がる人工物の通路を見回した。
 洞窟の内部は岩の壁ではなく、綺麗

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『オーケストラを観に行こう』3

4/
 日曜日当日。

 二人は最寄りの駅前を集合場所に決めていた。
 特に深い理由があったわけではなかったが、どうせデートなら、その方が雰囲気が出ると考えた言海が提案したことだった。
 理由は口にしなかった言海の提案にも大した反論もなく清景は頷いたため、そう決まったのだが、前日の晩になって言海は提案したことを少し後悔した。
 デートだと意識すると、妙に緊張したからだ。
 ソワソワして珍しくあまり

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『オーケストラを観に行こう』2

2/
 「アイス食べたい」
 何の脈絡もなく唐突にその言葉が呟かれた。
 言海は机の上の参考書に固定されていた視線を言葉を発した人物の方に動かした。
 ふと口から出た言葉だったのだろう、呟いた本人――宇野耕輔は相変わらず机の上に視点を合わせたままであった。
 
この日も言海は宇野耕輔と共に風島清景の家を訪れていた。
 いつも通り、3人で勉強する為だ。
 
 言海が真緒からチケットを譲り受けてから数

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