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★塾講師は生徒にあった学校を選べるか?

※冒頭で私が今ハマっているアニメの話をしていますが、固有名詞などはわからなくても十分理解できるように書いています。

まさか『ひぐらしのなく頃に』を見て受験論を書こうと思い立つとは夢にも思いませんでした。


いえ正確には、数回前からその兆候はありました。従来のシリーズでは基本的に歳を取ることのなかった梨花ちゃんが、高校受験をする、それに向けて問題集を買い、夜遅くまで勉強をし、親友の沙都子と一緒に合否を確認しにいくという描写は、今までのひぐらしと比べてもあまりに異質、あまりに現実味のあるものでしたから。

さて、梨花は住んでいた雛見沢村(ひぐらしの基本の舞台となる場所。岐阜県内の集落という設定)を離れ、全寮制の聖ルチーア学園に沙都子と晴れて入学することができた(ちなみに、梨花は沙都子をこの学校に誘い、沙都子は梨花のために苦手な勉強を頑張った)のですが、この学校はとにかくお嬢様学校。「ごきげんよう」と挨拶する世界、特定の女子生徒に取り巻きができる世界です。
沙都子は快活な性格で勉強もできない方なので、この学園には馴染まなかったわけです(最も、馴染めない最大の原因は…)。そして、時間を過去に戻すことが出来るようになった沙都子は、受験の頃までやり直し、受験をする気満々でいる梨花にこう告げます。

「一度でも背伸びをして入ってしまったら、卒業まで背伸びをし続けなければいけませんの」

一つ前の世界で聖ルチーアに入学し、後悔した沙都子が、自分はあの学園は無理だと遠回しに告げています。

さて、現実にはトラップを用いて親友もろともシャンデリアの下敷きになって自殺し、時間を過去に戻すことはできません
ですから、塾講師はもとより、教育に携わる人は須く、この沙都子の発言を心に刻んでおかなければなりません。


・塾を理解する


塾は学校と違い、民間の企業です。生徒から徴収する授業料が主な収入源です。生徒を集めるには、合格実績が必要です。合格実績を作るには、優れた授業を生徒に施し、その生徒を一つでも多くの学校に受からせることが必要です。
生徒の進学後の生活は二の次であり、塾は生徒がその学校に受かりさえすればいいのです。
もちろん、塾講師の職業倫理として、生徒の興味関心に寄り添い、進学後の生活も考えてあげるべきです。しかしそれは塾という企業の業務の範囲外の話であり、講師一個人のプラスアルファの頑張りを前提とした業務というのは無茶な話です。

塾は生徒の成績を上げることには必ず全力を注ぎます。それは塾の必要条件だからです。
ですから、希望の学校に進学するための学力が足りない、もしくは学校の授業では学習範囲が足りない、遅いという場合は、塾に通うことを強くお勧めします。
しかし、どの学校に行きたいのか、どのような勉強をしたいのかという点については、必ず自分の中で明確にしておいてください。それは塾講師の普遍的な仕事ではありません。
むしろそれは、通っている学校の先生や家族の役割です。学校の先生や家族と話し合ったり、自分自身と深く向き合うという時間も大切ですので、この役割分担は上手くできているなと私は思っています。

では、大学時代に合計4年間塾でアルバイトをしていただけの私が僭越ながら、塾を上手く使うポイント(塾リテラシーとでも申しましょうか)をお伝えします
なおこの塾リテラシーは、塾同士の比較をするものではなく、現在通われている塾、もしくは今後通うことになる塾の中でのポイントになります。


・複数受験は半分塾のため


大学受験や中学受験をされた方ならわかるかと思いますが、多くの場合は複数の学校を受験しますよね。
それはもちろん、生徒がどの学校にも受からないという“全滅”を避けるためです。全滅は生徒のメンタルに多大なダメージを与えるだけでなく、大学受験なら浪人or別の進路、中学受験なら公立中学への進学という、避けようと思った進路を取らざるをえなくなります(はなからチャレンジのみという場合は除きます)。そうならないために、塾は生徒に、複数の学校の受験をおすすめします。大抵の場合、チャレンジ校、相応校、滑り止め校とバランスよく受けさせます。

しかし、もう半分は塾のためです。

例えば、早稲田大学政治経済学部を第一志望とする生徒がいるとします。早稲田の受験は基本的に、複数学部を受けさせます。また、早稲田に行きたいだけでなく、早慶上智レベルの偏差値の大学に行きたいという志望なら、慶應や上智も併願させます。さらに、その下にMARCH、さらに下に日東駒専などを受けさせることも多いです。

もし私が塾講師としてその生徒に受験校のプランを作るなら、

早稲田ー政治経済、法、商、文
慶應・上智ー計2~3校
MARCHー明治や立教から1~2、法政や中央から1~2で計2校
日東駒専ー日大、東洋、駒澤、専修から計1~2校

もちろん、こんなに沢山受けると疲労や受験料で大変なことになりますが、では仮に、この生徒が以下のように受かったとします。

早稲田ー政治経済、商、文
慶應ー×
上智ー外国語、文
MARCHー立教:観光、中央:経済
日東駒専ー駒澤:経営

塾の合格実績には、

早慶上智ー5名
MARCHー2名
日東駒専ー1名(合格実績に出していることは少ない?)

がプラスされます(大学群の定義は塾・予備校によって異なります)。

極論、大学は受ければ受けるほど合格する可能性が出ますので、偏差値上位校が沢山受かれば、その塾の合格実績はそれだけ増えます。
ですから、塾としては生徒の興味関心は二の次に、“数字”として合格数が欲しいだけだったりもします。

ちなみに風の噂ですが、ある塾でその校舎の合格実績を増やすために、講師が生徒の受験料を肩代わりし、無理やり1~2つ追加で受験させようとしたとかなんとか…


・講師の情報量には限界がある


こう言ってしまっては何ですが、塾講師は万能ではありません。

塾講師のほとんどは大卒以上の学歴があると思いますが、ほとんどの講師は1つの大学しか卒業していないはずです。

では、塾講師は全ての大学の情報を持っているでしょうか?答えはNOです。もちろん正社員の方なら、会議などの場で多くの大学の情報を得ているでしょうが、塾によっては多くの講師がアルバイトの場合もあり、その情報量には差があります。私が働いていた塾もアルバイト講師が多く(なお授業の質は正社員と遜色ないか、それ以上です)、現に私も、私が受験した大学の情報しかわかりません。

私は早稲田大学と上智大学を受験していますが、慶應義塾大学は受けていないので、全然語ることができません。ましてや小論文なんて書いたことないので、慶應の指導は出来ません。国公立大も受けていないので、記述式の指導も苦手です(コンプレックスなので、塾講師に復職する際にはここを勉強してからにしたいですね)。

さらに言えば、塾講師は進学後の大学や私立中学校、高校の学生生活について、OB・OGでない限りほとんど知り得ません。
学校によって、学生や教育の雰囲気というのは全然違います。
例えば私が在学していた大学では、陽キャ蔓延る経営学部、海外経験豊富な人が多い国際系学部、授業をとにかく真面目に受ける文学部など、学部学科によって雰囲気が全く違っていました。
また中学受験に関する書籍を読むと、学校ごとに特色があるのがよくわかります。

…中学受験について話が広げられないのは、私が中学受験経験者でないからです。しかし個別指導塾で、ヘルプではありますが中学受験の小学生を数回指導していたりします。

塾は人手不足であったりブラック企業であったりすることも多いため、講師はなかなか情報をアップデートする余裕もないです。ですから塾講師にできることは、生徒の学力をつけること、勉強法を教えること、有名校の過去問指導をすることくらいなのです。

こんなエピソードがあります。

同志社大学の文学部に行きたいという生徒と、その生徒に「お前は早稲田に行け」と言った講師とで言い合いになった塾があるそうです。

こんなエピソードもあります。

ある塾で、ある女子生徒が志望する大学の学問分野に悩んでいました。教室の職員や講師が面談をするうちに、その女子生徒は動物が好きなので、獣医学部を目指すことになりました。
その女子生徒は優秀だったので、見事獣医学部に合格することができました。

その後どうなったかというと、その女子生徒は動物が好きであるがゆえに、大学で行われる動物の解剖などが全くできず、大学生活が送れなくなったそうです。

その生徒の大学生活を考えると、こうした塾の指導の仕方には問題があるように思えますよね?しかし、塾は生徒の進学後の生活まで気にすることはしません。前者の例は本当に問題ですが、生徒は塾以外の場所であらかじめ志望校をきちんと明確にしておいた方が良いでしょう。


・塾は、学校を好きにならせることはできない。


オープンキャンパスや学校説明会などで、受けようと思っている学校を訪問することも多いと思います。そして、「この学校に行きたい!」と強く思うことができれば、それだけ受験勉強も頑張ることができます。
雰囲気については先に少し述べましたが、大学には、上品でおしゃれな学校、リベラルな気質と国際色豊かな学校、バンカラな空気が漂う学校、野暮ったいが気張らずに落ち着いて生活できそうな学校など、大学名や学部名ではわからない雰囲気というものがあります。
塾で生徒に提示するのは学校名や学部学科名、入試の特徴や若干の噂話程度ですが、そのような量的な情報だけでなく、肌で感じられる質的な情報というものを多く入れなければなりません。

受験というのは、その学校の偏差値や進路実績ばかり注目されますが、学生生活というのは多感な時期の多くを占めるものであり、大学であれば人間関係と行動の自由度が無限大です。
その子にあった学校を選ぶことで、その子は多くの経験を積み、大切な仲間と共に大きく成長できるでしょう。しかしその子に合わない学校に進学してしまうと、ストレスや虚無感ばかりが募り、大切な時期を無駄にしてしまいます。最悪の場合は、精神的に病んでしまいます。

塾は、その子の志望をかなえることはできますが、その子の学校生活まで保証することはできません。忘れてはいけないのは、偏差値の高い学校、有名校に進学すれば薔薇色の学校生活を送れるわけではないということです。
学力は学校の選択肢を増やすだけであり、学校生活の保証をするものではありません。

もしこの記事を読まれた方に受験を控えたお子さんがいたら、参考にしていただけると幸いです。
もしこの記事を読まれた方が受験を控えている場合は、何か響いたものがあれば嬉しいです。

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