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「日本型」ジョブ型人事制度の可能性

Last Updated on 2022/03/11

 こちらの記事を拝読し、決して欧米型の直輸入ではない、我が国独自の「ジョブ型」を実現して世界に発信していく可能性を考えた。

 ①プロフェッショナル集団を目指して、②個々の成長を支援し、そのためにも③適正な評価を実現する。
 この①から③のどれをやるためにもジョブ定義が不可欠である。ここでいうジョブ定義は、まさに記事中で紹介されている「スキル定義表」に記載されたような行動特性ベースの表現を含んだものになる。

 この点に関しては、こちらの記事も参考にしてほしい。

 しかし残念ながら、日本の人事コンサルタントの方々がこれまでこの辺りのコンサルティングをしっかりとやってきたとは到底言い難い。私からすれば、これをすっ飛ばして「ピープル・アナリティクス」の提案の余地などあり得ない。この点に関しての私の「想い」については、こちらを併せて読んで頂きたい。

 ところで、人事コンサル界隈の方々と「ジョブ型」について議論すると、必ずと言っていいほど「ジョブ型人事制度への(完全なる)移行」というやや大袈裟なことに飛躍しがちである。彼らからすれば、「そんなに単純に、簡単にはいかないよ」ということになるのであろう。しかし話を複雑にすればするほど(しかもコンサル業の人からロジカルに詰められると)、クライアント企業は、「やっぱり大変そうだよね。やらなくていいよね。じゃあまずはピープル・アナリティクスでもやってみる?データさえあればすぐに始められそうだし。」となるのである。
 ここでは、将来的な「ジョブ型」への移行を視野に入れつつ、そのための準備作業としての「ジョブ定義」について検討する、くらいの入り方で十分なのではないか。結果的に人事制度の移行まではいかなかったとしても、「ジョブ定義」自体は無駄になることはないのだから。ここで、「人的資本開示」を本格的に行う上でも「ジョブ定義」の情報は必要不可欠であることも付け加えておこう。

 また、「欧米型の輸入をしても根付くわけがない」という反論も聞き飽きた。聞き飽きたので、「日本型」というワードを入れることにした。ちなみに、「ピープル・アナリティクス」のほうがよっぽどアメリカの理論・手法の直輸入だと思われるのだが。。。。 (「輸入」されてきたものはやりたくない、というのなら、「人的資本開示」の流れも欧米発のものであるから同様に「根付くわけがない」と拒絶されてもよさそうなものであるが、不思議と今のところそうはなっていない。)

 本題に戻ろう。
 成長支援のためには、タイムリーなフィードバックとしての1on1(の適切な運用)が不可欠になる。そしてこの1on1における話のベースこそが、ジョブ定義スキル定義の情報であり、そこで明確に定義された「共通言語」「共通のものさし」を用いて会話をする必要があるのである。

 冒頭に紹介した記事の中で、個人的に最も注目すべきと感じたのが「能力ではなく、各人の業務成果への期待でグレード(等級)を決める」という点である。
 これこそ、私が運営する株式会社SP総研の支援サービス(特に、「セルフジョブ定義」サービス)においても実現したいことであり、徐々に蓄積されつつあるその事例を日本中に展開したいと考えている。「期待役割グレード制度」という言葉も非常にしっくりくるものであり、当社としても今後も参考にしていきたい。


 ジョブ定義、スキル・コンピテンシー定義をかっちりやろうとしたときにいつも頭を悩ませるのが、定義された通りのスキルを持っていない(少なくとも自分でそう思ってしまう)人たちを委縮させる、あるいは自信を失わせるのではないか、ということだったが、「期待」ということであればある意味ハードルは下がるし、上記の「セルフジョブ定義」の手法を用いれば本人のWillCanもバッチリ反映できる。その上ストレッチを利かせることができるのでより成長を促進させて野心的にさせることが出来るのである。よって、OKR的なものとも相性が良いといえる。

 記事著者の林氏は、謙遜してこう述べる。

普通にこういうコンサルティングサービスは巷に溢れてると思ってました。
僕はメイン領域が「働き方改革」で、そのための通過点としてやらないといけないので、それなりにパワーがかかるけど取り組んでいました。

 溢れているべきであるしそうなっていて欲しいところではあるが、最も重要ですべてのスタートであるはずのジョブ定義、スキル・コンピテンシー定義のところを、実際には皆すっ飛ばしている、というのが実情であろう。しかも、「人事のヒト」特有の「やらない理由」を並べるだけ並べて。そして人事コンサルタントの方々もその後ろ向き姿勢を逆利用しているといわざるとえない。「ほら、面倒くさいことはいいからすぐに始められることからやりましょ」という悪魔のささやきである。その結果、本来なら「Step 10」くらいに来るはずの「ピープル・アナリティクス」をいきなり始めさせるか、workdayやらSuccessFactorsの導入を進める(勧める)か、という状況になっている。

 林氏は、こう続ける。

でも、複数企業でやればやるほど、根深さを感じつつも、これは本質的な課題だと思っており、ここをさらに深化させなければならないと思っています。

 このようなマインドを持ち、深い知見も併せ持った人事コンサルタントが多数派にならなければならない。コンサルタントだけではなく、HRテクノロジー関連のベンダーサイドの人間もクライアントに対してもっと「本当のこと」を誠実に語っていくようになる必要があるだろう。
 「本当のこと」とは、
①HRテクノロジーの本質は、「真の適材適所の実現」と「個人起点の成長支援」である。
②上記①の機能をフルに活用するためには、「ジョブ定義」「スキル・コンピテンシー定義」の情報が不可欠である。
③上記②が欠けている状態では、ほとんどのHRテクノロジーは機能しない。
という事実である。
 ちなみに、①から③のことは「HRテクノロジー」を「ピープル・アナリティクス」という言葉に置き換えても全く同じである。


 最後に、「日本型」ジョブ型人事制度の可能性について私見をまとめる。

 「個人起点」であるとか、パーソナライズ(個別化)という考え方はもともと日本企業が得意とすることであったはずである。また、「1on1」という名前で逆輸入された感があるが、場所こそ昔は「夜の居酒屋」であったかもしれないが数字(営業成績)をドライに詰めるだけではなくプライベートのことや仕事を進めるうえでの障害になっている様々な悩み事を、その人に寄り添ってじっくり聞いてあげるという姿勢ももともと日本のサラリーマンが大切にしてきたことだ。
 しかし、現在は価値観についての世代間ギャップのこともあり、場所が夜の居酒屋だと不適切であるし、悩みごとの引き出し方などは個人の力量にも左右されるため、これまでのやり方に問題もあり限界もあることも確かである。
 ここで、幸いなことに現在は「テクノロジー」の支援を受けられるようになった。このメリットを最大限享受しながら、上記の日本的なやり方のうち良い部分だけ残して人間技も併用すれば、世界に輸出できる「日本型」を確立できるはずである。

 ジョブの定義やスキル・コンピテンシー定義そのものは、前述のとおりHRテクノロジーを機能させるためには不可欠である。カーナビを活用するためには中に地図情報が入っていなければならないのと同じだ。
 ただし、定義内容をガチガチにしてしまうよりは日本的な良さとしての「曖昧さ」もあえて残した表現にする。そして、「今できることのみ」(Canのみ)をリスト化というよりは、これから先の未来に期待することを「未来予想図」(ここがWill)として若干「盛った」表現にする。もともと「盛っている」のだから、達成できなくても咎めない。努力そのものを認め、人間がアナログ的に褒めてあげる。

 そんな評価制度って、思いっきり日本的ではないか!

 最後の最後に、もう一度林氏の記事に触れておこう。

 冒頭紹介の記事中の最後にあるとおり、「評価制度はあくまでマネジメント推進の手段で、メンバーの成長の加速、難易度の高い取り組みに挑戦するための仕組み」という基本方針がもっとも重要である。

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