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【医師論文解説】妊婦の治療と子供の発達、思わぬ関係が明らかに

背景 後期早産(34-36週)のリスクがある妊婦に対し、出生前のステロイド投与を行うと、新生児の呼吸器合併症リスクが低下することが過去の研究で示されていた。しかし一方で、ステロイド投与後に新生児低血糖症のリスクが高まることも報告されていた。このため、出生前ステロイド投与が長期的な小児期の神経発達に影響を及ぼす可能性が危惧されていた。

方法 2011年から2016年にかけて、米国の複数施設で実施された無作為化比較試験に参加した妊婦から生まれた6歳以上の児童を対象に前向き追跡調査が行われた。妊婦は当初、ベタメタゾンまたはプラセボに無作為に割り付けられていた。本追跡調査では、これらの児童の神経発達アウトカムが評価された。主要評価項目は、知能検査(DAS-II)における全般的概念化能力スコアが85点未満(平均より1標準偏差低い)である割合とされた。副次評価項目には、言語能力や運動能力、社会的応答性、行動チェックリストなどが含まれた。

結果 949人の児童(ベタメタゾン群479人、プラセボ群470人)が解析された。主要評価項目である知能指数85点未満の割合は、ベタメタゾン群で17.1%、プラセボ群で18.5%と、ほぼ同等であった(調整済み相対リスク0.94、95%信頼区間0.73-1.22)。副次評価項目についても、両群間で差は認められなかった。追跡不能例を含めた感度分析でも、結果は同様であった。

論点 本研究結果から、後期早産リスクのある妊婦に対する出生前ステロイド投与が、6歳以上の児童期における神経発達に悪影響を及ぼすことはないと考えられた。一方で、新生児期の低血糖リスク増加については確認されており、その点については引き続き注意が必要である。

結論 後期早産リスクがある妊婦に対する出生前ステロイド投与は、短期的には新生児呼吸器合併症リスクを低下させる一方で低血糖リスクを高めるが、6歳以降の小児期の神経発達には悪影響を及ぼさないことが示された。

所感 この研究結果は、後期早産のリスクがある妊婦さんへのステロイド投与を検討する際に、参考になるものと思われます。呼吸器合併症リスクは下がる一方で、新生児低血糖のリスクが上がることは従来から指摘されていました。長期的な発達への影響については不明確な部分がありましたが、今回の知見で少なくとも6歳までの影響はないことが示唆されています

参考文献 Gyamfi-Bannerman, Cynthia et al. “Neurodevelopmental Outcomes After Late Preterm Antenatal Corticosteroids: The ALPS Follow-Up Study.” JAMA, e244303. 24 Apr. 2024, doi:10.1001/jama.2024.4303

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