「オールシーズン対応」の私とナスのトマト煮
今年だけは、最初で最後の夏が鍋の中にいる。そう思えた。
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今年は暑い。昼も夜も暑い。
夏が来たなんていうことよりも、暑いを先に感じてしまって、今が夏であることを忘れそうなほどである。
そういえば、最後に夏を感じたのはゴールデンウイークの頃だったかもしれない。いやきっとそうだ、何せまだウチの畑に、春野菜の生き残りであるカブやダイコンが鎮座していたのだから。
なんて口にした春の終わり。このとき、夏を忘れるくらいの猛暑がやってくるなんて、誰が予想しただろうか?
カブやダイコンは畑からいなくなってしまったけれど、いま、畑を見渡すとトマトやらナスやらが干からびそうになりながら日光浴をしている。
そんな憐れなトマトとナスを畑から家に持ち帰り、ひき肉と一緒に鍋で煮ることにする。クーラーの効いたキッチンはもはや春らしさすら感じるほどに涼やかだ。
現在室温27度のキッチンには、春夏秋冬、同じ景色が広がる。
電子レンジはいつもあの棚の上にあるし、冷蔵庫は右隅で佇んでいる。また皿を季節によって変えるほど、マメな私ではない。無難な木のプレートと青みがかった茶碗はオールシーズン対応というわけだ。
ナスを切る。干からびそうだった割には、内部から水分が漏れ出てきた。トマトは無論言わずもがなだ。
ナスはせっかくなので油通しをしておきたい。油で下揚げすると、ナスの皮は紫色が際立つからだ。
鍋でひき肉を炒め、刻んだトマトを入れる。そして揚げたナスも。そのとき、なぜか思った。
よくよく考えれば、私の人生で季節感があるのは料理をするときくらいだ。冬の大定番こたつは結局春先まで働いてくれていたし、「ジャンパー着たら、おしゃれもへったくれもない」という理由で秋でも冬でも夏用のポロシャツを着用する。「夏はビールに限るよね」「冬はまずビールだよね」なんて言う私は、季節に関係なく単にビールが好きなだけなのだ。
私もあの茶碗と同じく、きっと「オールシーズン対応」なのだろう。そんな私にとって、季節などあってないようなものなのかもしれない。春にサクラ、夏にひまわり、秋にコスモスを見ても出てくる言葉は「わぁ、キレイ」。それぞれに適切な褒め言葉を与えられるほど、季節に敏感ではない。
今年も私は「オールシーズン対応」で生きていくのだろうか。まぁ、おそらくそうだろう。だって、毎年そうなのだから。
それでも今年だけは、最初で最後の夏が鍋の中にいる。そう思えた。
(終)
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そのままはもちろんですが、パスタやラザニアなどにもアレンジしても美味しいです。
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