天ぷら120円と讃岐の国
うどんに天ぷらをトッピングするか否か。
讃岐の国に引っ越してきた私にとって、この問答は日本経済の行く末よりもよっぽど由々しき問題である。
「人生は選択の連続だ」と敏腕IT社長は声高に叫ぶ。ただうどん屋がもはやインフラと化した香川県では、県民は彼よりもよっぽど日々選択に迫られているように思う。
その選択は天ぷらをトッピングするか否かという先の根源的な問いでもあるし、トッピングをすると決めた後に「どの天ぷらをトッピングするか」という新たなる選択も含んでいる。
もっとも讃岐の国でうどんは驚くほど安い。シンプルなかけうどんならせいぜい230円~250円程度だ。
ともすると、「とりあえず朝はうどん」「昼もうどん」なんてことは多々ある。それでも概ね500円で二食を賄えるのだ。
話は少しそれるが、香川県にラーメン屋が少ないのはうどん屋のせいだと私は思っている。つまり、ラーメン一杯700円で、うどんが2杯、あげく天ぷらまでトッピングできる。
さてやはり話を戻して、天ぷらをトッピングするか否か。
懐が寒々しい私にとって、これは非常に大きな問題だ。なにせ天ぷらが120円だとすると、天ぷら2つはかけうどんと一杯と金額が相当するからだ。
とはいっても香川のうどん屋は、私を常に誘惑している。何かと天ぷらの種類が多い。ナス、かぼちゃといった野菜に、いかげそ、イイダコ、鶏天と言ったメインディッシュ感を覚える天ぷらもある。
それにコロッケやアジフライと、天ぷらどころの騒ぎではない揚げ物もいるのだ。もちろんおにぎりや稲荷寿司も捨てがたい。結局、炭水化物には炭水化物が一番合うのだ。そしてなぜか香川のうどん屋には、年がら年中おでんがある。
この国のGDPは上がっているのか、下がっているのか?そんなことは、もう知らない。それよりも昨今の穀物価格の上昇で、天ぷらが130円に値上がりするかもしれないことの方が大きな懸案事項だ。
なにせうどんは小麦、天ぷらも小麦からできている。各国の物価を捉える指標としてそれぞれのビッグマックの値段比べる、いわゆる「ビックマック指数」があるが、同様に昨今の穀物価格の情勢を語るうえでは、「うどん・天ぷら指数」が重要なのではなかろうか?
と長々書いてきたが、うどん屋でこんなに長々と思考を巡らせている暇はない。実際、香川のうどん屋では驚くほどのスピードで注文したうどんが提供される。そのため、万が一自分の後ろに他の客が居ようものなら、早く歩を進めろという圧を背中にヒシヒシと感じるのだ。
結局圧に負け、そして誘惑にも負けた私のうどんの横には、いつも120円の天ぷらが鎮座ましましている。
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