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就活ガール#69 隣の人についてどう思うか聞かれたら

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェで美柑に就活相談をしていた時のことだ。今日はこの前のグループ面接で聞かれた内容について相談をしようと思っている。その質問とは、「隣の人の回答を聞いてどう思いましたか?」というものだ。

「なぁ、美柑。グループ面接のことなんだけどさ。」
「グループ面接がどうかしたの?」
「基本的に、他の学生がどんな人たちなのかはあんまり関係ないだろ?」
「そうね。もちろん入退室の動きとか、回答時間の長さとか、他の人が喋ってる間の態度とか、そういう違いはあるけど、基本的には個人面接と同じよ。周りに振り回されるのは良くないわ。」
「だよな。極端な話、そのグループの全員が合格することもあるし、全員が不合格になることもある。」
「そう。結局は絶対評価でさまざまな採点項目について点数をつけて、それを全員分合わせて合否を決めるからね。まぁグループ面接の場合は隣にわかりやすい比較対象があるわけだから、無意識に相対評価っぽくなることはあるだろうけど。」
「そうだよな。だからあんまりちゃんと話を聞いてなくて、焦ったんだよ。」
「なるほどね。じゃあまず回答した内容を教えてくれる?」

設問
隣の人の回答を聞いてどう思いましたか?

俺の回答
佐藤さんは大学時代にテニス部の部長をされており、リーダーシップに優れている方なのだと思いました。私は何十人もの人を率いた経験はまだないので、早く経験を重ねて追いつけるよう頑張ります。(91字)

「どうだろ。短いかな?」
「もう少ししゃべってもいい気はするけど、グループ面接は特にテンポが大事だからこれくらいで十分だとも思うわ。」
「よかった。」
「でも、内容が問題ね。」
「はい。」
「まずは音彦の言い分を聞きたいわ。この回答はどういう点に留意して答えたの?」
「そうだな。まずは他の人を褒めることだ。いくらライバルとはいえ、露骨に他人を蹴落とすような発言をしたり、自分の方が優れてるみたいな比較対象に使うのは避けた。それから、『たしかに同意できる点もあるが、そうではない点もある』みたいな話も念のため避けたぞ。」
「それはどうして?」
「切り取り方や受け取り方によっては否定してると思われるリスクがあるからだ。個人面接と違って誤解を解くための時間が十分に与えられるとは限らないから、できるだけリスクを取らない方がいいと思ったんだよ。」
「すごいわ。ここまでは正解よ。他には?」
美柑が珍しく褒めてくれたので嬉しくなる。

「他には、自己アピールにつながることを意識した。これは他の質問でもそうだけどな。」
「そうね。グループ面接の場合、どの程度主張していいか悩むけど、その発想は大事だわ。露骨にライバル視するのは問題だけど、一方で『みんなで合格しましょう!』みたいな綺麗事のノリを持ち込みすぎるのも印象が悪い。そうすると、『一部の能力において今は負けていることもあるけれど、将来的には追い抜いてやる』ということを上品に伝えるのが良い落とし所だわ。そういう意味では、あとはこの回答はこれができている。」
「ありがとう。回答するときに気をつけたところはそれくらいだ。」
「なるほどね。」

「他にも何か気をつけるべき点があるのか?」
「ええ、あるわよ。」
「教えてくれ。」
「まずは、オウム返ししないこと。」
「ちゃんと聞いてたぞってアピールした方がいいかと思ったんだが、違う?」
「たしかに、グループ面接では他の人の発言を聞く余裕がないくらい準備不足の人とか、逆に緊張感がなさすぎて他人の話を聞いてない人はいるわ。この質問は、そういう人を弾くという目的もあると思う。」
「だよな。」
「でも、オウム返しはバカっぽく見えるのよね。できるだけ他人の話を要約したり、言い換えたりする方がいいのよ。そうすることで、自分がしっかり周りの話を聞いていたということと、言語を処理して瞬時にまとめる能力を持っているということが示せるわ。」
「なるほど。結構難しそうだけど、納得だ。」
「ええ、これが結構難しい。要約の仕方を失敗したら逆に頭の悪さを露呈することになってしまうからね。この辺は慣れるしかないわ。」
「この質問自体は珍しくても、他人の話を頭の中で整理して自分なりの言葉で語るという練習は普段からできそうだな。」
「そう。私たちの会話でも、無意識にそうしてることもあると思うわ。それと同じことを意識的にやるのよ。」
「わかった。そう考えるとできなくもない気がする。」

「それから、他に気をつける事として、自分を卑下しないこと。音彦の回答だと、『私はそういう経験はない』みたいなことを言ってたと思うけど、それは余計よね。」
「どこを切り取られても大丈夫なようにとは思ってたけど、まだダメだったか……。」
「そうね。謙虚さは大事だけど、必要以上に自信を失ったり、自分を蔑む必要はないわ。そもそも音彦のアピールポイントはコミュニケーション力であってリーダーシップではないでしょう?」
「たしかに。」

「と、いうことをふまえて私なりの回答を作ってみるわね。」
「お願いします。」

美柑の回答
佐藤さんは部活動を通してリーダーシップを発揮されていて、とても頼もしいと思いました。同僚に恵まれることもパフォーマンスを上げるためには重要なポイントだと考えているので、ますます御社で働きたいという気持ちが強くなりました。(110字)

「どうかしら。」
「リーダーシップに優れてるというのは佐藤さんの言ったことそのままだけど、頼もしいと感じたというのは完全に美柑の感想だな。」
「そうなの。相手が言ったことを繰り返すだけでなく、自分なりの評価を入れることで、周囲の人の特徴をちゃんと分析することができると伝わるわ。頼もしいと思ったというのは上から目線になってないし、否定することにもなっていない。かつ、自分を下げることにもならない。この手の質問ではおすすめの言い回しのひとつよ。」
「たしかに。汎用性は高そうだ。」

「あとは、後半で自分が成果を上げることを意識しているというアピールをする。」
「そのために良い同僚に恵まれたいってところだな。」
「そう。何度も言ってるけど企業はとにかく成果を上げられる人を求めてるからね。楽しいとか成長できるとかそういう話ではなく、とにかく数字を取りたい。そういう人を嫌がる企業は存在しないわ。」
「で、最後に志望度が高いことをアピールして締める。」
「その流れも自然だよなぁ。」
「そうね。この手の質問は、咄嗟の質問にどう反応するかも見ているの。だから、自然と志望度の高さをアピールできればいいわよね。」
「自然と出てくるという事は、本音という感じがするもんな。」
「ええ。まぁ自然と出てくるようにするためには、日頃から意識しておかないとダメだけどね。」
「質問自体は珍しくてびっくりしたとしても、『珍しい質問でも志望度が高いことに繋げる』と覚えてるだけでも役に立つかもしれないな。」

「そうね。ちなみに他に類似の質問として、『この中で一人合格にするとしたら誰を選びますか』というものがあるわ。」
「それはさらに難しい気がする。まず自分を選ぶか、他の人を選ぶかが難しいだろ。」
「この答えは、まず他人の名前をあげる。そして『可能であれば私も合格にして欲しい。次回面接までには彼に追いつけるように準備する。』という回答がいいと思うわ。」
「なるほど。謙虚さとやる気がアピールできそうだ。」
「ええ。客観的な意見を装った謙遜と、個人的な意見としてどうしても合格したいということ。その両輪で攻めましょう。」
「わかった。」

「それ以外だと、『他の候補者に何か質問をしてみてください』というようなものもあるわ。この場合は、まず他人の話を要約して褒める。そして、他人が答えやすくアピールにつなげやすそうなアシスト質問をするのよ。」
「例えば?」
「さっきの例だと、『リーダーシップを発揮していて素晴らしいと思った。後輩をまとめるコツなどがあれば教えてほしい。』と言ったように、教えを請うような質問をするのが無難だと思うわね。」
「なるほど。さすが上手いな。」
「当然よ。音彦もこれくらいのことはスラスラ言えるようにならないとダメよ。」
「わかった。ありがとう。」

グループ面接においては、他人が解答をしている時間に、比較的自由にできる時間がある。そのときに自分の解答を考えることができるのは大きなメリットであるが、その一方で、他人の回答を全く聞いていないと思わぬところでピンチに陥る可能性がある。聞きながら、考える。難しいことではあるが、同時に複数のことをこなすというのも社会人に必要な能力だと思う。そんなことを考えながら美柑と別れ、一人で帰宅するのだった。


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