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就活ガール#105 録画面接の特徴と攻略法

これはある日のこと、ゼミ室でアリス先輩と話していた時のことだ。このたび俺は初めての録画面接に挑むことになり、その対策やコツを聞きに来た。録画面接とは、企業が用意したテーマに沿って学生が動画を撮影し、それを企業に対し送信するという形式の面接のことである。こちらの回答に対し企業から深掘りなどがなく一問一答式で進むことが多いことから、面接というよりもエントリーシートに近いような気もする。オンライン面接が普及するにつられるように、録画面接も徐々に一般的に取り入れられるようになってきた。

「録画面接は初めて?」

そう言いながらアリス先輩がくるりと椅子を回転させて、こちらを向く。

「はい。」

「じゃあまずは録画面接の特徴を考える必要があるわね。そうしないと対策が決められないもの。」

「はい、いくつか考えてきました。」

「聞かせてちょうだい。」

「まず、面接官は全部見ないと思います。最初の数分、いやもしかしたら数秒だけ見てダメだなと思ったら即不合格じゃないでしょうか。対人面接だとダメだなと思っても30分くらいは喋らないといけないので、その分だけ面接官の人件費をカットできるというのも企業側にとって録画面接を導入するメリットだと思います。」

「そうね。その通り。見るとしてもスキップしながら見たりとか、2倍速で見たりとか、とにかく対人面接ほどしっかりとみられることは少ないと思うわ。」

「ありがとうございます。そうすると、最初の印象が重要になってくると思いました。」

「うーん。それは微妙。」

「え、違いますか? 第一印象が悪いとその後挽回できないと思うんですが。」

「それはそうなんだけど、対人面接でも第一印象が悪いと挽回はかなり難しいのよね。今は録画面接の特徴を聞いているんだから、対人面接と比較して異なる点を見つけなきゃ。」

「なるほど、確かにそうですね。」

特徴を聞かれたら比較対象を想定して差別化を図るというのは、論理的な説明をするうえで重要なテクニックだ。今回の件に限らず、自分の強味やガクチカなどでも特徴的な話の内容とか、個性が伝わる言い方ができれば合格がぐっと近づくだろう。俺が黙っていると、アリス先輩が話を続けた。

「例えば、さっき面接官の人件費をカットできるって言ってくれたわよね。ということは、対人面接と同じ人件費でよりたくさんの録画された動画をチェックできるってことなのよ。」

「なるほど。そうも言いかえられますね。」

「ええ。実際は業務量が少なくなったから『人事担当者を半分クビにしました』なんてことはできないの。雇用が守られてるからね。だから、新しい仕事を増やすっていう発想になるのよ。録画面接だと、対人面接の5倍から10倍くらいの人数はチェックできるんじゃないかしら。」

「10倍は多いですね……。」

「ええ。で、ここからが問題なんだけど、録画面接を合格した人は対人面接をしないとダメでしょう?」

「そうですね。最後まで録画面接ってことはないと思います。」

「そして、対人面接できる定員は決まっている。」

「あ、わかりました。ということは、録画面接の方が突破するのが難しいということですね。録画面接自体はたくさんの数の人を選考に参加させられるけれど、結局その後の選考に進ませることができる人数は限られてるから、録画面接を通して人数を大幅に絞るしかないっていうか。」

「そういうことよ。」

俺の言葉に、アリス先輩が満足そうに頷いた。

「録画面接が苦手だっていう声を就活生仲間からよく聞くんですけど、そもそも対人面接に比べて通過率が低いのだから当たり前だったってことですね。」

「ええ。そういう意味でもエントリーシートや適性検査に近いものと思っていた方がいいかもしれないわね。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「他に録画面接の特徴はあるかしら?」

「うーん。何度も見返せることでしょうか。例えば次の面接の前に前の面接で何を言っていたかとかを見返すとかはありそうです。とはいえ、忙しいならあまりそんなことはしないと思いますが。」

「そうね。あまりしないと思う。でも、いい観点だと思うわ。要するに、データとして記録に残しやすいのよね。」

「はい。」

「だから、データとして統計的に分析しやすいというのが特徴なのよ。」

「なるほど。AIとかですか。」

「そういうこと。録画面接とAI分析はセットで考えた方がいいわね。この辺もエントリーシートと同じと言っていいかもしれないわ。」

ここまで録画面接の特徴を聞いたところで、以前から疑問に思っていたことを聞くことにした。

「AI分析って具体的に何をするんですか? なんとなく雰囲気でAIとか言ってるけど、正直よくわかってないんですよね。」

「素直ねぇ。」

アリス先輩が少しあきれたような顔をする。

「すみません。」

「ううん、いいのよ。実際、AI分析がどういう物なのかちゃんと理解していない学生がほとんどだから。そこまでちゃんと考えられると対策法は自然と見えてくるわ。」

そういって、アリス先輩がパソコンを操作して、画面を見せてくれた。

「まずは録画面接ソフトを提供している会社のホームページを見てみましょう。そうすると、録画面接では発言内容、表情、声などを分析しているということが分かるわね。」

「はい。それらの分析データをもとに、何万種類もの特徴を分類してるんですね。例えば話す速度が速い、やや早い、普通、やや遅い、遅いみたいな。」

「ええ、そうね。そしてそれらをもとに、求職者のデータを作り上げる。そうして、企業側があらかじめ設定した『合格者の特徴』データに近い人が合格となるわけ。実際は、どの程度合格者データと一致するかということが数値で出たりして、企業の人が足切りの点数を決めていることが多いと思うわ。」

「全部自動で決められてしまうんですね……。」

「全部ではないんじゃない? たぶん、足切りラインを超えた動画を人手でチェックしてると思うわ。あるいは、何らかの事情でうまく分析できなかったデータとかも人手でチェックするしかないだろうし。」

「なるほど。まずAIで判定した後に人手チェックというのはエントリーシートに近いですかね。」

「そうね。考えれば考えるほど、録画面接は面接というよりエントリーシートに近いんじゃないかと思うわ。」

「で、AIによる分析方法が主に発言内容、表情、声ということでしたが、これって対人面接と何が違うんでしょうか。」

結局対人面接とみられているのは同じではないかと思ったので、聞いてみる。

「まず発言内容。これはシステム内部でテキストデータにされて分析されるわ。だから、まず活舌が悪いのは論外。それから、同じ言葉を繰り返したり、子供っぽい言葉を使ったりとか、そういう語彙力のなさも露骨に数値化されてしまうわね。」

「なるほど。」

「それから表情とか声。人間よりもAIのほうが正確に感情を読み取れるから、不自然な笑顔とかはバレると思ったほうがいいわ。微妙な口元の動きや目の瞳孔なんかで判断されるらしいけど、自分ではどうしようもないもの。」

「自然な笑顔ってやつですか。」

「そうね。とはいえAIを騙すのはかなり難しいから、そもそも緊張しないレベルまで面接慣れする以外の方法はないと思うわね。」

「な、なるほど……。」

なかなかハードルが高いが、確かに仰る内容はもっともである。

「声色とかも同じよ。」

「はい。」

「この辺が録画面接の特徴かしら。活舌の悪さや語彙力、表情の微細な動きは対人面接だと比較的大目に見てくれることが多いところだけど、録画面接だと特に注意が必要ってことね。

「なんか録画面接って対人面接よりもシビアですね。選考の初期から中期段階で行われるにもかかわらず、結構な準備が必要というか……。」

「そうね。でも、逆にコミュニケーション力とかはあまり求められないわよ。一問一答だから、準備していることなどを淡々と回答すればいいだけ。変に深掘りされたりもしないから、その点も安心ね。」

「それはそうですね。聞かれる内容もガクチカとか志望動機のような王道な質問が多いですし、臨機応変な対応というよりも、しっかり準備しているかということが見られているのかなとは思います。」

「ええ、あくまでも対人面接の前段階として実施しているものだからね。しっかり準備さえできればいろんな企業でどんどん通るようになると思うわ。」

そこまで話したところで、席を立つ。今日は録画面接の特徴や対策について勉強することができた。録画面接は対人面接と異なり、コミュニケーション能力や臨機応変な対応が求められることが少ない。その一方で、録画面接ならではの独自の判定基準があるのも事実だ。なんとなく理解した気分になっていたAIの中身について少しでも調べることで、対策方法が見えてきた気がする。これからも気になったことは積極的に調べる必要があると実感し、一日を終えるのだった。

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