松林豊斎

朝日焼十六世窯元。茶どころ宇治にて400年にわたってお茶の器を作り続ける朝日焼の当代窯…

松林豊斎

朝日焼十六世窯元。茶どころ宇治にて400年にわたってお茶の器を作り続ける朝日焼の当代窯元。綺麗寂びという美意識をもとに作家として制作するとともに、国内外のデザイナー、アーティスト、ブランド等とのコラボレーションなども行う。

最近の記事

安川新一郎さんの著者『BRAIN WORKOUT ブレイン·ワークアウト』を読みました。

春光院の川上全龍さんにご縁を頂いた安川新一郎さんの著者『BRAIN WORKOUT ブレイン·ワークアウト』を読みました。 窯焚の制作期間中だったので、ほぼ昼休みと移動時間で一ヶ月ほどかけて、ゆっくりと読ませて貰いました。 非常に共感することも多く、学びがあり また今後の行動指針になる本だと感じました。 人間の脳のモードを『運動』『睡眠』『瞑想』『対話』『読書』『デジタル』6つにわけて それぞれの働きを意識することによって、自分の人間としてパフォーマンスを最大限に引

    • ホテルオークラ京都岡崎別邸オープンに寄せて

      ホテルオークラの名を冠した新しいホテルが、京都岡崎の東本願寺さんの岡崎別院と同敷地にオープンしました。 このホテルに、三つの作品を納めさせて頂きました。 私が一緒に活動させてもらっている伝統工芸を革新するGO ONの6人全てが揃った初のホテルプロジェクトであるということと共に、とても個人的に思い入れの強い仕事となりました。 それは何といっても、ホテルオークラだから。 祖父、祖母との思い出が、ホテルオークラを特別な存在にしています。 小さい頃、両親とは別で、祖父母と私たち孫

      • 瀬戸内寂聴さんのご冥福をお祈りして

        瀬戸内寂聴さんの訃報をニュースで知りました。 瀬戸内さんは40年程前、晴美さん時代からよく朝日焼を訪ねて頂き、祖母が親しくさせて頂いてとてもお世話になりました。 祖母の執筆した『朝日焼 土は生きている』という著書にも序文を寄せて頂いた。久々に読み返してみると、生き生きとした素敵な文章のなかに源氏物語や宇治という土地、そして人への瀬戸内さんの愛情を深く感じ、感嘆します。  宇治が好きでよく訪れる。殊に私は平等院の向こう岸が好きで、そちらの方に足が向く。  源氏物語の宇治十帖の

        • 心静かな時間を愉しむ 『今宵も湖のほとりで』という特別なプロジェクト

          『今宵も湖のほとりで』は、コロナ禍という時間がなければ生まれなかったプロジェクトです。非日常的な時間が日常となってしまった日々を過ごすこの1年半。この時間に作り手として向き合うことで生まれたプロジェクトが『今宵も湖のほとりで』です。 このプロジェクトはアートディレクター関戸貴美子さん、コピーライター有元沙矢香さん、という二人のクリエイターの想いから始まりました。 彼女たち二人を突き動かしたのは、コロナ禍という時間と向き合い感じたこと。それを作り手として何か形したい、しなければ

        安川新一郎さんの著者『BRAIN WORKOUT ブレイン·ワークアウト』を読みました。

          人生を豊かにする茶籠という遊び

          茶籠、或いは茶箱と呼ばれるものが有ります。 お茶を点てたり、淹れたり出来る道具を纏めて籠、或いは箱に入れたものです。持ち運びを前提にしたもので、籠に入れることで安全に手軽に道具を持ち出して、お茶を楽しめます。 近年、様々な婦人誌などでも特集されることがあり、様々なセットが組まれて販売されています 私も茶籠を持ち出して、お茶を楽しむ時があります。 私の場合は、どこかを訪問する時に迎えて頂いた方へのお礼の意味でお茶を点てたりすることが多いです。ロンドンのお宅に招いてお食事をご

          人生を豊かにする茶籠という遊び

          柴舟 香盒 ~宇治川と柴舟

          朝日焼は宇治川の畔、世界遺産平等院と宇治川を挟んで向かい合うような位置にあり、宇治川、平等院、朝日焼はとても深いつながりがあります。 宇治川は朝日焼の陶土を古来、運んでくれた川であり、水、薪も宇治川の恵みによって容易に手に入れることができました。 平等院の浄土院には、朝日焼初代の作と伝えられる柴舟の香炉が所蔵されています。 柴舟は、柳や水車、宇治橋とともに宇治川をあらわす情景に描かれたものです。宇治川上流の山で刈られた柴を、束ねて舟で下流へと運ぶのですが、初代の香炉では、そ

          柴舟 香盒 ~宇治川と柴舟

          作品の話 トトヤ茶盌「かすみ」 と 茶盌鹿背

          トトヤという高麗茶盌があります。 斗々屋あるい魚屋という字で書かれますがこのトトヤの茶盌が好きです。 有名な茶盌に三井記念美術館所蔵の”かすみ”という銘のトトヤ茶盌がありますがその高台にも見事な”ちりめんジワ”という表情があり、惹かれます。”ちりめんジワ”の魅力は何といっても、普通の削り方ではあらわれない陰影です。土がソバダチ、めくりあがったような状態になるのですが、茶室の中でそれを見るととても表情豊かな陰影が生まれます。 また、手触りも魅力の一つです。例え見なくても手に取り

          作品の話 トトヤ茶盌「かすみ」 と 茶盌鹿背

          「茶」を取り巻く多様性の萌芽

          2020年の終わりに、とても新鮮で期待感を持ってしまう「茶」に関わる二つの新しい取り組みに出会いました。 前回の記事「2021年の始まりに考える20年」で書きましたが https://note.com/hosai16/n/n9dc775cd484d 文化の豊かさとは、その厚みと多様性だと思っています。 サッカーや野球チームでも、一つのポジションに同じようなスター選手がいても強くなりませんよね。様々なポジションに若手からベテランまで、多種多様なタレントが揃って強いチームになる

          「茶」を取り巻く多様性の萌芽

          2021年の始まりに考える20年

          2020年は、慌てふためいた。とは言いませんが、思ってもみなかった世界的な変化の濁流に直面し、目の前の変化に自分を適応させることに精一杯だったというのが終わってみての正直な感想です。 2020年の始めにnoteを始めました。 その際に私の三つの活動領域というものを書きました。 https://note.com/hosai16/n/ne5f8f84d02cd 振り返ると、この活動領域を指針として、慌ただしく変化に対応しながらもブレることなく、その変化を受け入れながら進んで来れ

          2021年の始まりに考える20年

          工芸思考と自粛期間

          今年、様々な変化を受容しなくてはいけなかった中で 自粛期間という特異な時間で体験したことは、多くの人にとって意義の大きなことであったと思いますが、私にとっては「工芸思考」という取り組みの転機となったことが大きな変化でした。 「工芸思考」とは、今まで工芸が継承されてくる中で、それぞれの地域、工房に、技術と共に、言葉にはなっていない思想、思考、哲学。そういったモノが受け継がれてきたのではないだろうか。それを掘り起こし、言語化できるものは言語化し、共有していくことが現代の、そして

          工芸思考と自粛期間

          Nonaka-Hill gallery でのexhibition

          気がつけば、covid-19、新型コロナウィルス一色の2020年が終わりに差し掛かり 今年の年始からはじめたnoteは7月以来、約半年も記事を書いておらず、このまま2020年を終えることが出来ないと一念発起して、2020年を振り返る記事を幾つか書こうと決意しました。 手始めに現在進行形のロサンゼルスのNonaka-Hill galleryでのexhibitonについて、このexhibitionは2年ほど前にgalleryの共同運営者であるNonaka-Hillさんが宇治の工

          Nonaka-Hill gallery でのexhibition

          SHOKUNIN @京都伝統産業ミュージアムで見て欲しい三者三様の継承

          京都岡崎の都メッセ内地下一階、京都伝統産業ミュージアムで現在開催中(8月2日まで)の「SHOKUNIN」という展示のご紹介をさせて頂きたいと思います。 2016年、中川木工芸の中川 周士さんと開化堂の八木 隆裕さんが、ミラノサローネで展示された「SHOKUNIN」展。 craft、工芸、職人。我々が培い継承してきたものの本当の価値は何なのか。 そこを見つめる為の、今、自分達がやっている活動の転機であり、原点となるその展示を、今回、日本で再現する試みです。 この試みは単なる再

          SHOKUNIN @京都伝統産業ミュージアムで見て欲しい三者三様の継承

          積み重ねられた文化に接続し、その上にモノを作るということ。

          「茶の湯の道具を鑑賞し、味わうということは如何なることか。」 こういったことを誰かから具体的に教わることはほとんどないと思います。 茶道のお稽古の場では、意図的にそういったことを語ることは避けられていると思います。それは、本来、誰かから直接的に教えられることではなく、時間を掛けて、師や先輩諸氏の会話を聞き、体感を通して、理解し、体得していくものだからでしょう。 しかしながら、そのことが茶の湯に親しんだことのある人と、そうでない人に、それを鑑賞するということに対する意識の断絶

          積み重ねられた文化に接続し、その上にモノを作るということ。

          繋ぐ。という意味~生きる。仕事をする。

          繋ぐ。ということの意味、意義。 生きるということ。死ぬということ。仕事をするということ。人生とは。 新型コロナウィルスの拡大にともない、自宅に閉じ籠ることが多く、またたくさんの方々が世界中で現実になくなっていることから、生や死、人生ということに普段以上に向き合うことの多い日々かと思います。 そんな日々だからこそ、多くの方に見ていただきたいムービーがあります。 私の父、十五世松林豊斎はすい臓癌にて2015年に亡くなりました。その亡くなる前の3ヶ月ほど、父が最期の窯焚きに挑

          繋ぐ。という意味~生きる。仕事をする。

          #not_drink_tea_aloneに込めた想い。補足

          能動的に意思決定し、行動するということの尊さ。 AI時代の暮らしについて思うこと。 以前の記事で、家の中で閉じこもっている苦しさを和らげるのに、自分がお茶を飲んでいる写真に#not_drink_tea_aloneというタグをつけて皆で投稿しよう! 場所や時間が違っても一緒にお茶を飲んでいるって思えるだけで楽しいでしょ。 という活動のことを書きました。 https://note.com/hosai16/n/n236acfd2249f 当初から考えていたことだけれども、あえて

          #not_drink_tea_aloneに込めた想い。補足

          祈るということ~工芸的祈りを考える

          祈るということは、自分が完全に理解できない、分からない領域があるということを受け入れるということである。 これは中川木工芸の中川さんと話をしていた時に出てきた言葉です。以前の記事に書きましたが、朝日焼では窯焚きの前に皆で集まり祈ります。 何に祈っているのか? と問われると、はっきりとした答えは持ち合わせていません。手を合わせて祈ります。窯には火の神様が宿る。そう思いますし、きっと火の神様に祈っているのだと思いますが、窯そのものと言うか、何か大きな存在を漠然とイメージしな

          祈るということ~工芸的祈りを考える