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瀬戸内寂聴さんのご冥福をお祈りして

瀬戸内寂聴さんの訃報をニュースで知りました。
瀬戸内さんは40年程前、晴美さん時代からよく朝日焼を訪ねて頂き、祖母が親しくさせて頂いてとてもお世話になりました。
祖母の執筆した『朝日焼 土は生きている』という著書にも序文を寄せて頂いた。久々に読み返してみると、生き生きとした素敵な文章のなかに源氏物語や宇治という土地、そして人への瀬戸内さんの愛情を深く感じ、感嘆します。

 宇治が好きでよく訪れる。殊に私は平等院の向こう岸が好きで、そちらの方に足が向く。
 源氏物語の宇治十帖の、八の宮の荒れた邸とはこのあたりかと思うと、それが架空の物語とわかっていて、やはり心が憧れに騒ぐのである。八の宮の美しい三人の姫君が住み、琴や笛の合奏が川波にとけこんだであろうと空想したり、浮舟が身を投げたのはこのあたりであったかなど、岸辺をさまようのが、何度くりかえしても飽きずに愉しい。
 そうした宇治行きで、朝日焼の松林さんとめぐりあった。美しい茶室や、草花の咲き乱れる小径から見下す宇治川こそ、絶景で、ああ、八の宮の邸は、このあたりに建っていたと、紫式部は設定したのだろうと思った。もしかしたら、紫式部の仕えた別荘のひとつが、このあたりにも建っていて、紫式部はここへ来て、この眺めの全てを記憶にたたみこんでいたのかもしれない。

 (中略)

 土は生きている。生きているからこそ、人は土の命にふりまわされたり、魅せられたり、いどんでみたくなったりする。
 やがては全ての人が土に帰っていく。今、私たちの手にすくう土の一塊にも、遠い祖先の骨や血や肉がしみついているのかもしれない。
 土の声に耳をかたむけ、土の物語を語り伝え、土から更に美を焼き出しているこの人々の上に、幸あれと祈らずにはいられない。
(松林美戸子著 朝日焼 土は生きている 序文より)

この序文を書いて頂いて25年後には、父が襲名10年を記念して制作した源氏物語宇治十帖をテーマとした作品を、瀬戸内さんに監修して頂きました。
私も何度か祖母と一緒に嵐山の寂庵にお歳暮を届けさせて頂きました。

長年のご縁に感謝し
土に帰られた瀬戸内さんの
ご冥福をお祈り申し上げます。

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