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「本よりも、大切な人を愛するべき」というのは、分かりやすいのだけど。(映画「ビブリア古書堂の事件手帖」を観て)

シリーズ累計700万部を超える人気小説を、映画化。

手掛けたのは、「少女」「幼な子われらに生まれ」「Red」の三島有紀子さん。僕が好きな映画監督のひとりです。

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「ビブリア古書堂の事件手帖」と「Red」は、ある意味で対極に位置する作品だと思います。

なので描き方は違っているのが当然なのですが、「ビブリア古書堂の事件手帖」で上手く扱えなかったことが、次作「Red」で活かされたような印象を受けました。どちらの作品にも出演していた夏帆さんは、「Red」の方が格段に切実な美しさを纏っています。

逆に言うと「ビブリア古書堂の事件手帖」は、やや演出として不完全燃焼に終わったような箇所が散見されました。後述するラストシーンにおける主人公の不可解な行動と重なり、なかなか諸手を挙げて推挙することが難しい作品だと感じます。

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例えば、過去シーンにおける五浦絹子(演・夏帆さん)と田中嘉雄(演・東出昌大さん)の情事を描いた場面。

「過去」だと分かりやすく見せるためにモノクロで撮られているのですが、そこに色彩を感じることができませんでした。モノクロなので当たり前といえば当たり前なのですが、許されない恋へと進んでいくふたりの情熱は、必然として何らかの色を帯びていくはずで。あえて「現代」という本編を強調するための策だったのかもしれませんが、あまりに淡白でした。結果的に、主役の栞子と大輔が、何にこだわっているのかイマイチ分からずに終わってしまった印象があります。

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物語は、野村周平さんが演じる五浦大輔(五浦絹子の孫)の視点で進展していきます。黒木華さん演じる栞子も、大輔から見る栞子であることがほとんどです。栞子はヒロインとしてエッジの効いた役なので、「ふつうの人」という立ち位置の大輔視点で進行していくのは問題ないのですが……個人的には栞子の視点で映画を作ってもらいたかったです。

それは野村周平さんの演技に注文をつけたいわけではないのですが、主人公・栞子との間に大輔がいることによって、観る者との距離が開いてしまうという問題が生じてしまいます。

彼女が何を見て、どう感じているのか。本に対する愛情がどれほどあるのか。肝になる部分がダイレクトに伝わっていないことが、じわじわと物語の強度を弱めていったような気がしてなりません。(後述する、ラストシーンの違和感にも繋がります)

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後ろ向きな感想になっていますが、古本屋としての「ビブリア古書堂」はとても趣きがありました。本を愛する美術スタッフがいたのかなと推察できます。

……ですが、本を愛する人間のひとりとして、終盤に栞子が起こした行動はまるで共感できませんでした。「本よりも、目の前の大切な人を愛するべき」というメッセージなのですが、心が相当に痛む場面でもあります。(原作と合わせただけかもしれないですが)

原作がもとになった映画は、既存ファンへの配慮もあり、演出への苦心は想像に難くありません。万人を納得させることはできませんが、ラストシーンは超えてはいけない一線を超えてしまったような気がします。

という意味で、僕がこれまで観てきた三島有紀子さんの監督作品とは、異質な印象を持ちました。

(Netflixで観ました)

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