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嘘をついて幸せなのは、他人かもしれない(映画「Red」を観て)

不倫とか、駆け落ちとか、年始に触れるテーマではない。

それでも映画を観たのは、監督が三島有紀子さんだったからだ。大泉洋さんが主演を務めた「ぶどうのなみだ」「幸せのパン」がとても好きで。全くトーンの違う作品も観てみたいと思ったのだ。

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とにかく主演の夏帆さんの素晴らしさだ。

夏帆さんの存在感なしに映画は成立しない。悲しさも強さも、色気も覚悟も、全部入り。

特に色気がすごい。セクシャルな意味でなく、女性としての色気。

ジェンダーレスの時代に「女性としての」という表現はどうかと思うが、「女性としての」色気としか言いようがない。

その色気とは、女性が誰しも持っている強さと近似しているように思う。やや抽象的だが、鳥が翼を広げ、ゆっくりと飛翔していくような。

夏帆さんが演じる塔子は、経済的に恵まれた家庭で専業主婦をしている。夫は明らかに妻のことを下に見ている。実際に「お飾り」として職場にも駆り出されることもあり「自分の人生って、これで良いんだっけ?」と思い悩む。(その葛藤に対して夫は微塵も気付かない)

息苦しさを感じる塔子が、10年ぶりに元恋人の鞍田(演・妻夫木聡さん)に再会する。彼と同じ職場で働くことになり、やがて再び関係を持つようになるという話だ。

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一般的に不倫とは、社会的には否定される行為であろう。僕自身も、不倫という行為を肯定するつもりはない。

けれど塔子が鞍田との関係によって、自由を取り戻していく過程を、社会からは認められないという理由だけで切り捨てることができるだろうか。僕にはできない。

何より、彼女が揺るぎない覚悟と決断によって生み出す「強さ」は、美しくもある。

正義は、美しさには勝てない。

余貴美子さんが演じる塔子の母は、塔子が夫たちと平穏に暮らそうとすることに疑問を呈する。

塔子の父は、塔子が少女だった頃に母を捨てて家を出てしまった。その事実は、夫の希望により親族に伏せられている。あろうことか「父親は海外で精力的に働いている」という嘘までつかされている。

塔子の母は問う。

「嘘ついて幸せなの?幸せなのは、あちらさんじゃないの?」
「あんた、心底、男に惚れたことないでしょ?」

この問いが、結果的に塔子の決断を後押しさせる。だが塔子の母の問いは人間らしく感じる。少なくとも、嘘をつかせた夫よりも。

嘘をついて家庭を守るか。
本心に従って愛を貫くか。

極端な二択を強いるのがフィクションの運命だが、そのまま観る者への問いにも繋がっていく。

家庭や愛を、別の言葉で置き換えても良い。安定を重視してやりたくもない仕事に就き続けるのか。変化が嫌だから現状維持の立場を守ろうとするのか。などなど。

白い雪に、赤色は目立つ。鮮やかに映る。

その分、向かい風に晒されるかもしれない。でも覚悟があれば、向かい風に対峙できる。

その強さを、夏帆さんの熱演に見出してもらえたらと思う。

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(Netflix、Amazon Prime Videoで観ることができます)

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