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人財・組織開発で三菱電不正問題から学びとること

乱数を用いて検査成績書を自動生成する
85年から2021年まで鉄道会社93社7万3986台が出荷された

ショッキングなニュースでした。一つの会社の不正問題ではなく、世界に向けてこれまで積み上げてきた”日本の鉄道”というブランドやプライドが崩れかねない意味を有します。

日経新聞でも大々的に論考されています。そこで、私なりに調査報告書を読み込んで、人財・組織開発の視点から問題を切り取って考察してみました。

三菱電機の信用回復はもちろんのこと、多くの健全な企業組織においてこの事案が生きた教訓となり、真面目な努力が世界に向けたブランドとして積み上がっていくことを心から願っています。

【意識の問題】事なかれ主義

1.深掘らない経営層

報告書では、取締役は品質不正に共通する共通の原因や、不正が起きた時点でタイムリーに問題をあぶり出せなかったことについて「議論をすることが望ましかった」とあります。

同様に執行役会議でも、主に事案の事象や原因の報告が行われ、全社的な視点から改善策を議論するに至らなかったと指摘されています。

多くの場合、経営層が【原因究明のやり方を知らない】とは考えにくく、【原因究明の必要性がない】と考えていた可能性があります。後述しますが、端的には「現場の話はよく知らない」意識に加えて「せめて自分は傷つかずに現役を終えたい」意識という【事なかれ主義】によるものが疑われます。

2.品質への過信

「今まで品質に問題がなかったから」「顧客から検査方法について疑われたことがないから」という、今まで積み上げた信頼の上にあぐらをかいた意識です。『起業の科学』の田所さんも指摘していますが、事業が淘汰されるきっかけは【過信】です。部署内で品質部門が牽制を果たせなかったことも、意識の根底には品質への過信があったものと考えられます。

3.「当事者意識」と言う名のなすりつけ

不正の疑義や組織の問題を発見し、報告する機能はあったとのことです。しかし、その後の本社からの対応は「自組織で解決してください」という丸投げ。

エンゲージメントなど組織サーベイでもよく見られることですが、現場は結果に対して本社からのフィードバックや支援を求めているにも関わらず、都合よく【当事者意識】を解釈して解決着手を「丸投げ」することが少なくありません。その場合、よく聞かれるコーポレート側の言い分は以下のようなものです。

事業や部署によって問題が様々で対応が難しい
各組織の当事者意識を啓蒙することが主眼
コーポレートはサーベイの実施とデータ収集がメインであって、解決着手に必要な研修は各組織で実施済みだ

これを【当事者意識のある対応】と呼べるとはいい難いのではないでしょうか。すると、現場には行動分析学で言う【好子消失の弱化】(言ってもメリットが無いなら次から言わない)という法則によってエスカレーション不全になったことが考えられます。

他社でのベストプラクティス

1.経営層から週次でビジョンの意味や具体的な取り組みについて広報

2.経営層が各拠点を自ら訪問し、従業員と対話・傾聴

3.「自社らしさ」や「自社の未来」について対話とアクションプランをつくるワークショップを半期に1回設定

【全社組織の問題】拠点間の交流の欠如

1.ビジョンの翻訳不全

報告書には

現場の多くの従業員が帰属意識をもっているのは製作所や工場であり、会社そのものに対する帰属意識は希薄であった。

とあります。これが会社のビジョンや方針の翻訳不全を生み、さらに【小さくて閉鎖的な組織】の構造を生んだと考えられます。

2.拠点の独立国家化

会社に対する帰属意識が希薄となると、各拠点に独自の解釈が生まれます。解釈には一長一短があります。

いい面では独自の創意工夫や暗黙知の展開という側面があります。

悪い面では組織内で癒着が生まれ、牽制や検証すべき機能が不全になること。また、一つのミスからの教訓が他拠点に活かされず、世の中から見ると同様なミスを多発させているように映ることです。

3.教訓の埋没

今回の件は長崎製作所のなかで健全な報告があったために発覚したものでした。一方で、16年から3年連続で不正問題が発覚している点や、車両用空調装置の不正が35年見過ごされてきた経緯を考えると、たった一人の聡明な社員による問題発見とは考えにくいでしょう。

多くの社員が不正に気づき、様々な報告や提言を行ったと考えるのが自然です。しかし、それらが活かされなかった組織的構造としては、先述の【拠点の独立国家化】が強く作用したものと考えられます。

他社でのベストプラクティス

1.職域同士の他拠点交流で、1つの問題発見解決を協働プロジェクト化

2.ジェネラリストコース/スペシャリストコースを自己選択できるキャリア設計と、ジェネラリストの多部署経験支援

3.同業他社・異業種交流を組み込んだ次世代リーダー育成プログラム

4.拠点間ななめメンターの導入

【部署組織の問題】部署間の癒着

1.あぶり出しの機能不全

本部・コーポレートと現場の距離断絶が、過去の点検活動で品質不正をあぶり出せなかった原因の一つ

このような指摘から、本社・コーポレート側では不正の報告をファイリングするまでにとどまり、原因分析を行ってボトルネックの発見や技術的・人材組織的な解決着手まで行うことが少なかったと推察されます。

言い換えると、本社・コーポレートの期待される動きとは、事象間に見られる共通の原因を発見し、有効な解決策を提言・提供することでしょう。

2.判断基準の自己解釈

先述の【教訓の埋没】にもある通り、拠点内で牽制を果たすべき品質保証が制作部門との利益相反を憂慮し、不正報告の判断基準を曖昧化するなどしたことが考えられます。

同様のことがマネジメントにも起き、何を以て不正なのか自体を自己解釈することで集団浅慮が発生した可能性があります。

他社でのベストプラクティス

1.不正プロファイルのライブラリ化と、対話を組み込んだ再発防止研修の提供

2.第三者が監修した不正内部通報システムの運用

3.拠点間のマネジメント交流による判断基準のすり合わせ

【マネジメントの問題】ミドルマネジャーの機能不全

1.問題発見の真因把握不足

課長級クラスの多くはデスクワークに忙殺され、自ら足を運んでその実情を組み上げ、一緒に悩み、(中略)強い意志や時間的余裕やを持つことができていなかった

ミドルマネジャーの人財・組織開発に携わる私にとって、こうしたケースで真っ先に疑いたいのは【あらゆる判断がミドルマネジャーに集中する】組織的構造です。

ミドルマネジャーを忙殺に追い込むまで、指示や判断するものが必要なのか。具体的にはメールの数や報告物の数を検証しなければならないでしょう。

もっとも、【独立国家化】が進行した組織においては、各組織が独自のKPIを設定し、対応や報告を求める物の数が多くなりがちです。

2.問題解決の担当者任せ

ミドルマネジャーの忙殺に追い打ちをかけるのが、丸投げされた【問題解決】の議論と報告義務があるでしょう。本社や他拠点の支援が得られないなかで、自らの情報リソース、人的リソース、時間的リソースのみで議論・報告することは現実的ではないでしょう。さらなる差し戻しや報告義務を生み出し、本来必要な【五感を使った実情の発見】から遠ざかります。

3.エスカレーションの躊躇

先述した【好子消失の弱化】によって、エスカレーションする意味や必要性が失われると、ミドルマネジャーで案件を保留・解決する動きが加速します。現場のモチベーションにも配慮し、人的リソースを維持向上に神経を使うミドルマネジャーにとって、【自分でなんとかする】ことが最善の策となってしまう。これがさらなる組織の悪循環を生みます。

他社でのベストプラクティス

1.ミドルマネジャー合宿による早期問題発見・解決共有プログラム

2.ミドルマネジャーの側近を育成する、プレリーダー育成研修の提供

【学び】私達が明日から行いたいこと

多くの問題点を切り取ってみました。

最も重要な原因を敢えて一言で指摘すると、【自分の耳と目で現場の情報を得る】こと。この欠如が組織不正を膨れ上がらせたのだと感じます。

どれほどDX化が進もうと、組織が組織である以上数字や文字に表れない情報にこそ価値がある。その事を忘れてはならないでしょう。本事案は、そんな人財組織開発への教訓として受け止めるべきです。


#日経COMEMO #NIKKEI

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