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研修のプロがガチで自組織のパーパスをつくって浸透してみた

こんにちは。アンドア株式会社代表の堀井です。私たちは企業の人材・組織のご支援や、プロアスリートの能力開発を支援しています。皆さんとお会いする機会は、いわゆる「研修」が一番身近でしょう。

最近ではプライム上場企業様の【パーパス浸透】施策を数多く支援させていただいています。私自身、スターバックスやリクルートと言った独自のパーパスやDNAが浸透した企業文化を経験してきました。今ではその経験が企業のパーパス浸透施策に役立っていると感じています。

このレポートではパーパスを設定しようと思った動機から、実践している浸透施策まで、ルポ形式で読みやすくまとめました。難しい理論やあるべき論は一切使わず、みなさんと一緒に旅をしている感覚を大切に、それでいて自然とパーパスが見えてくるまでのプロセスを描写してみることにしました。

パーパスとは何か

まずは私たちがプロジェクトや研修などでご案内している概念を見ていきましょう。

PVMVの概念図©アンドア株式会社

パーパスとは「目的」です。ただ、それだけを繰り返し唱えても、なかなか意味がわかりません。なので、会社を航海に出る「船」に例えて整理します。すると、パーパス・ビジョン・ミッション・バリュー(以下PVMV)は次のように説明できます。

■パーパス…なぜこの船(会社)は必要とされるのか
→例えば国にエネルギーを供給するためのタンカーや、人生最高の思い出をつくるための豪華客船など、船は社会から見てなぜ必要とされているのかが明らかであるほど、乗組員や顧客から共感されて持続します。

■ビジョン…この船はどこへ向かうのか
→目的地のない客船に乗組員も乗客も集まらないでしょう。最終港であれ途中経由港であれ、目指す目的地が明確であるからこそ、乗組員と乗客は力を合わせて安全な航海に貢献し合います。

■ミッション…この船は何を果たすのか
→目的地までの航路によって乗組員と乗客の行動も変わります。順風満帆であれば質の高いサービスに興じることができますが、嵐の中や厳しいリスクに見舞われた時はある程度の自由を制限し、規律を遵守することが求められます。

■バリュー…この船らしさとはなにか
→同じ目的地であっても、豪華客船と海賊船の1日はまったく違うものになるでしょう。船は価値観(バリュー)を共有した乗組員と顧客で構成されることで、社会に必要とされる目的(パーパス)を実現します。もし豪華客船に海賊船の乗組員が乗務をしたら、目的地は同じでもとんでもないことになることは容易に想像できるでしょう。

よく聞く「ミッション・ビジョン・バリュー」と何が違うの?

この質問は多くの経営者やパーパス実務者を悩ませる問いです。本質的には同じことを指すのですが、前提となる思想がちょっと違うので、混乱しやすいのです。以下の図で整理しましょう。

PVMVとMVVの概念整理©アンドア株式会社

まず図の左側はPVMVです。上からパーパス、ビジョンの順に並んでいますが、これは【社会からの問い】です。
では、なぜ【社会からの問い】があるのか。それは21世紀は資源の有限性が指摘され、無制限な成長が実現不可能だという共通概念が浸透したからです。つまり、持続可能な成長を実現するという前提が色濃く反映されました。

それに対して右側はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。例えるなら船の乗組員の共通概念と捉えるとわかりやすいでしょう。チームが船や世の中に何を貢献するのかを定義したものがMVVです。PVMVに比べると資源の有限性はあまり考慮されません。

合ってる/間違ってるよりも、共通認識を

PVMVとMVVの違いについて、どちらが正しい/間違っているなどという二律背反の議論には意味がありません。むしろ2つの概念の前提の違いを捉え、対話する全員と共通認識を得ることが重要だと考えます。

パーパス浸透を支援している身なんだから

そんな感じに【パーパス浸透】を強みにご支援させていただいている私たちですが、自分たちの組織ではパーパスを設定していないことに気づきました。そこで、パーパスをつくるプロジェクトを発足させました。

私たちの組織はちょっとユニークです。【コミュニティ】という形をとっており、人材・組織開発を志す講師、営業、デザイナー、企業役員、修行中の方など様々です。完全ジョブ型で、雇用関係は今の所ありません。

それなのにコミュニティの成長に向けて皆が面白がって知恵や時間を提供し合っています。そんな組織を生み出すための、パーパスづくりの旅を一緒に眺めていきましょう。

DAY1:夜

ある対面研修を終えたその日の夜、合宿メンバーが続々と駅に集まりました。普段は忙しくてめったに集まれない人材開発のプロたちが、2泊3日の合宿でパーパスを生み出す旅の始まりです。

ローカル旅ならではの路面電車

良質なアウトプットは、良質なインプットから

仕事を終えて真っ先に向かったのは、街を代表するラーメン屋さんです。パーパスづくりに【美味しい体験】は欠かせません。これ、冗談で言ってません。本気です。

良質なインプットの例:鹿児島ラーメン

お世話になった諸先輩が口を揃えて言うことがあります。

”良質なアウトプットは、良質なインプットから”

組織開発コンサル諸先輩より

これは何を指すのかと言うと、当然質の高い情報や学術的根拠のことも指します。しかし、人材組織はオペレーティブに予測や改善ができるようなものではありません。情やロマンといった、形容し難い要素までも考慮して行動変容を生み出す、”両利きの感性”が求められます。

回りくどい言い方になりましたが、食・歴史・文化・芸術といった質の高い楽しみをインプットすることも、人材組織開発には欠かせないのです。

大げさに聞こえますが、実際に企業のパーパスづくりも同じです。私たちがパーパスづくりをご案内する際は、アウトプットに至るまでの【体験】というインプットに妥協をしません。

良質なインプットの例:熊本の馬刺し

新鮮な馬刺しと地元産の焼酎。身体も心も満たされたところで対話の準備運動が完了します。

DAY1:深夜

準備運動:問題の本質は何だ?

組織の現状と課題をバリューチェーンに沿って対話©アンドア株式会社

程よくお酒も回っているあたりで組織の現状把握に入り込みます。
さて、組織の現状把握を対話する上で、約束事が3つあります。

約束1.対話をする上で共通のフレームを使おう

例えば組織の現状を整理する上で、上図のようなバリューチェーンモデルを示します。このように対話に参加する全員が、何を切り口にどのような話をするのか、ビジュアルで共通認識をつくることは重要です。

約束2.人ではなく"仕組み"を指摘しよう

組織の現状や問題点を話すことは、気分が良くないこともあるでしょう。その多くの場合は、最終的に人を責めてしまっているからです。
例えば営業部の成約率に問題があったとします。その場合、成績が出ていない営業パーソン個人の内面に言及したり、営業部長の非を問うことは容易ですが、組織の成長の上では言語道断です。一見組織課題に近づいているようで、実際には責任転嫁や問題の隠蔽を生みやすくするアプローチです。この場合の望ましい論点は「成約率を低くしている仕組みはなにか?」です。

約束3.当初のミッション・ビジョン・バリューは達成したのかを検証

これはかなり見落としがちな視点です。組織の問題点を論じるあまり、「何を理想として問題なのか」がすっかり抜けているパターンです。すると、発言力の強い人の問題意識に寄ったり、一般論としてのあるべき論に収束します。すると、当初のMVVに掲げた理想像とは程遠い、【あっったりまえの課題】しか生まれません。だから、組織へのエンゲージメントが失われていくのです。
なので、自組織が取り組んだことや実った成果について、既存のMVVに沿って達成度合いを整理します。その中で「ありたい姿って、何を指してます?」ということを明らかにします。社会的な意義から実務上のプロセスのことまで、人が思っているありたい姿は様々。誰が良い悪いではなく、可視化してすり合わせることが重要です。

今の仕組みから脱却するサインは…

対話の結果、今のままのビジネスモデルでも良いけれど、「何かが物足りない」という話になりました。

・私達は「研修」というビジネスだけをやり続けたいわけではないよね
・周囲の協力者や関係者がいつまでも永続するとは限らないよね
・ミッションに「あきらめを、キッカケに」とあるけど、具体的に誰のことを言ってるの?

現状の組織についての違和感の例

こうした違和感が言語化されたらチャンスです。

いま、変わるときが来た!

経営者や事務局は自信を持って違和感を歓迎しましょう。
そして、この日は結論を急がずに、他社のケーススタディや世の中の最新の動きを対話して締めました。なぜなら、対話をするのに十分なインプットが足りません。
つまり、知識、味覚のインプットはありましたが、視覚、聴覚、嗅覚、なにより共通体験というインプットが足りていません。だから、焦ってアウトプットをひねり出しても意味がないのです。

美味しいご飯とお酒の余韻にひたり、今日はここで寝ることにしましょう。

DAY2:午前

2日目の朝を迎えました。この日の大きな目的は【インプット】です。朝食を済ませたメンバーは一路熊本城へ。

記念写真に写る筆者 心の中は笑顔です

組織の意義をアウトプットするために、歴史のインプットを

たかが観光といえばそれまでですが、チームメンバーと観光をする上で大切な視点があります。

・歴史上のリーダーは何を感じ、どのように考えたのか
・歴史上の名もなき市民たちは何を感じたのか

このような視点で展示物や壮大な景色を眺めつつ、意見交換をしていきます。私自身、数々の諸先輩とともに企業の理念プロジェクトを学ばせていただきましたが、歴史的なインプットと企業理念のアウトプットはとても相性が良いです。その理由は以下の3点が企業活動と通ずるからです。

1.不確実さと平穏さを交互に経験してきたこと
2.リーダーの大義のみならず、市民に理解共感されるビジョンが明確に存在したこと
3.困難を乗り越えるために技術的なイノベーションや戦略的な交渉が存在したこと

歴史的インプットと企業パーパスの類似点

特にand,orのメンバーは成り行きに任せて楽しむという共通の傾向があります。ですから、誰がガイドをするわけでも、ファシリテートをするわけでもありません。前提の知識に関係なく、極めてフラットに思ったことを問い合います。その中で、深い気付きが見えてきます。

歴史との対話:加藤清正だったらどう思う?

熊本城の完璧な防衛戦略と機能美に触れるに連れ、
「寝ても覚めても城のことを考えている人がいたのではないか」
「素晴らしい技術者をどうやって見つけ、動機づけしたのか」
といった問いが出てきました。問いと言っても雑談ですが、やはり人材開発のプロ同士、考えることは似ています。

屋根瓦の一つ一つに美意識とプライドが感じられる

そのように雑談をしながら歩いていると、2つの面白い問いが生まれました。

1.もし自分たちが築城当時にタイムトラベルをしたとき、どんな貢献ができるだろうか?
2.もし加藤清正が現代に来たら、私達にどんなアドバイスをしているだろうか?

熊本城散策の中で生まれた問いの例

いつの間にかコアコンピタンスが浮かび上がる

正解があるわけでも、優劣を問いたいわけでもありません。しかし、このように雑談をしていることで自然と【自分たちにしかないもの】が明らかになっています。例えば、

・もし私達も西南戦争で籠城した際、メンバーに籠城の目的と戦略を翻訳するファシリテーションモチベーションの向上ができるのではないか
・加藤清正と対話をしたら、もっと人材開発の基礎技術を学べとアドバイスされているのではないか

自分たちにしかないものを問う問いの例

ここまでバーチャル熊本城見学をご一緒いただいただきありがとうございました。さて、観光する前と後でチームにある変化が起きたことに気づいたでしょうか。

実は、自然に【自分たちにしかないもの】を問いかけ、アウトプットをしていました。経営学的に言うと”コア・コンピタンス”なのですが、空調の効いた会議室で見つけたものと、一緒に汗をかき天守閣から景色を眺めて見つけたもの。どちらのほうがチームの記憶に残るかは明白でしょう。

DAY2:午後

熊本に別れを告げ、”九州横断特急”という列車で一路別府へ。

熊本→別府を約3時間で結ぶ「九州横断特急」

このルートは鉄道ファンである私堀井のこだわりでもありました。
この特急が1日2本のみという希少性。2両編成の気動車というローカルさ。阿蘇の大自然を走り抜ける壮大さ。高原、渓谷、山林をくぐり抜けて大分の都市へと情景が変わりゆくストーリー性。
伝わりましたでしょうか??

自然との対話:山肌や渓谷が伝えたいことは?

言葉にはならない自然の美しさと、住んでいる人の表情や情景をイメージするに連れ、私達and,orは社会から何が求められているのかをゆっくり考えるのです。

あいにくの雨模様だが、圧巻の景色を堪能

「ゆっくり考えるのです」と言ってみたものの、実際には3時間という時間を機会に捉えて仕事を処理する方や、その土地に移住した場合の経済性を議論する方など様々。

議論をしない時間がもったいないのではなく、むしろこのようなぼーっとする時間を共に過ごすことが正解に近いと思います。

なぜなら同じ時間でありながらも、人によって捉え方やアウトプットが違う。そのような捉え方の違いが、後にアイディアの違いやアウトプットの相互補完に反映されるのです。これは会議室では滅多に起こりえない、贅沢なグループワークと言えます。

自然との対話で、敢えて"しない"こと

自然との対話におけるポイントは、意義は伝えてやり方は委任するです。
今回の場合、メンバーには事前に九州横断特急の意義や阿蘇の自然の素晴らしさを伝えました。しかし、列車内での過ごし方は自由としました。これは自然との対話における重要な仕掛けになります。

歴史との対話は【言葉】によって対話が成立します。歴史も偉業も言葉によって描写されるからです。
しかし、自然との対話に【言葉】は必ずしも要るとは限りません。山間の緑を見て楽しむ、鳥や虫の音を楽しむ、深い緑の香りを楽しむ。それらは人の感じ方によります。ですから、無理に問いかけることや議論を仕掛けることはしません。

自然との対話では、ぼーっとするのが最高のインプットなのです。

DAY2:夜

そんな感じに自然との対話をしていると、あっという間に目的地の別府へ到着。ところがあいにくの夕立ち模様でした。

そこでハプニングが発生!これぞ、合宿名物の【共通体験】です。

偶発的な共通体験:温泉とご馳走を両立させよ

ハプニングは突然やってきます。しかも、仕事の場面でもよくあることで、ハプニングとは重なるものです。

1.宿泊会場の電子錠が電池切れのために開かない
2.レンタカーを借りようとしたら会員カードを忘れてしまった
3.宿泊会場から歩いて5分のスーパーが閉店していた
4.温泉施設が閉まるまで残り2時間
5.蒸し暑く、雨で衣服が濡れてしまい不快感がMAXに

あとになって明らかになりましたが、実はこのハプニングの対処において、【and,orらしさ】が色濃く反映されていました。人も組織も、真価が問われるのは平時ではなく有事です。

その場で最悪のシナリオが合意されました。

別府に来たのに、温泉に入れなかったという事態だけは避ける

合意した最悪のシナリオ

その上で、最悪のシナリオを回避するためにとった解決策は以下のようなものでした。

1.レンタカー班と料理班の2手に分かれる
2.レンタカー班は粘り強く交渉して車を得る
3.料理班は先に近くの温泉施設で入浴を済ませ、宿で料理班と合流
4.レンタカー班はスーパーで食材を調達し、宿で料理班に渡す
5.レンタカー班は閉店間際の温泉施設に滑り込み、その間に料理班が夕食を準備

作戦は見事に遂行され、全員が温泉体験と、食事にありつける結末を迎えました。

なんとか全員が別府の温泉施設は堪能するミッションは達成した
レンタカー班が調達した食材で、料理班が夕飯を用意

もし、夕食がレストランで用意されていたとしたら組織のチームワークはどうだったでしょう?
もし、24時間温泉に入れる施設があったとしたら組織のチームワークはどうだったでしょう?

ハプニングは避けるものではなく、乗り越えるものです。乗り越えた先に【自分たちらしさ】というアウトプットがあるのです。
繰り返しになりますが、もしこの2泊3日が、完璧に用意された会議室で議論を行っていたらどうだったでしょうか?パーパスづくりには質の良いインプットが必要で、その一つは【偶発的な共通体験】と言えるでしょう。

DAY2:深夜

さぁ、組織のパーパスを見つけよう

食事を堪能し終わり、いよいよパーパスの対話が始まります。
とは言え、よくあるグラウンドルールや、自己紹介などをファシリテーターが回すことはありません。落語の一席のように、ここまでの旅の時間が”枕”だとしたら、小気味よく”本題”に入るのです。

パーパスの抽出:もしもand,orがなかったら

パーパスの概念やPVMVの整理は先述の通り共有します。そのうえでパーパスづくりに取り掛かります。材料はand,orのビジネスはもちろん、何よりここまで重ねてきた歴史との対話、自然との対話、共通体験です。

参画者の約半数がコーチングのプロである特性上、素敵な問が投げられました。

もし私たand,orが消滅したら、誰がどんな理由で悲しむだろうか

©アンドア株式会社

痛い質問です。自組織が消滅するなんて、普段は考えたくもありません。
だからこそ仲間と問うことが重要なのです。この質問にはいくつかの副次的な問いが込められています。

・何を以て組織の「死」と見るか
・自組織は社会からどんな理由で必要なのか
・自組織が最も貢献している相手とは誰か

話はそれますが、数年前のとある新規事業イベントでのこと。起業家の方と立ち話になって、私が「成功する起業家はどのような目的を持っているのでしょうか?」と質問しました。
その方は一瞬だけ考えた表情をし、直後にこのように答えました。

結局、目的っていうのは"死生観"なんですよ

とある起業家の結論

その方は続けて言いました。

人だって組織だって、大切な誰かの死に触れたり、自分が死に直面すると、別人のように生きることに真剣になる。僕の身近な成功者は皆そうです。
ということは、少なくとも「どんな最期でありたいか」という死生観を持っていると思います。それも、ハッピーな死生観です。だから人を幸せにしたいという莫大なエネルギーが生まれるんでしょうね。

とある起業家の方の説明より

「なるほど、ごもっとも」という言葉さえ言うのを忘れて、立ち尽くしたことを覚えています。その腹落ち感は衝撃的でした。

話をパーパスづくりに戻すと、自組織の死を定義することは、即ち組織が生きる理由:パーパスになります。
組織の死とは社長が1人だけになることでしょうか?コア技術が代替されることでしょうか?買収や上場もある意味では死です。

そのような対話を経て、and,orは「これだけは失いたくない」という、社会からの要請を言葉にしました。

©アンドア株式会社

この言葉は、当初「ミッション」として掲げていたものです。ところが考えれば考えるほど、社会からの期待であるという認識に至りました。むしろ、本来のミッションである「行動」としては考えにくく、ミッションには他の何かがありそうだという話になったのです。

ビジョンの描写:何屋さんとしてどんな景色を見たい?

パーパスにおいて、自分たちが大切にしていた言葉がすっぽり当てはまると、なんだか家に帰ってきたかのような安心感さえ覚えました。ここから重要なビジョンづくりに入ります。
なぜ重要かと言うと、先述のとおり、21世紀型の志本経営では自分たちだけのビジョンではなく、社会からも共感される必要があるからです。

とはいえ心配する必要はありません。材料は十分に揃っています。社会から共感されるビジョンとは、熊本城でさんざん語り合ってきたからです。

もう一度熊本城で語り合った話に戻りましょう。
加藤清正は完璧な防衛力と機能美を実現するために、職人に何度も何度も作り直しを命じたそうです。
「加藤清正のこだわりはすごいな〜」となるところですが、視点を変えてみましょう。

職人の気持ちになればプライドを持って作ったものが、何度も修正を命じられるなんて「バカバカしい」「やってられるか」となる気持ちになるでしょう。何しろ、その防衛能力が証明されたのは城の完成から約200年後のことです。当時の職人からしたら、「攻められるわけがないじゃーん」と、やる気を無くすのも同情します。

では、どうして職人の気持ちを引き込んであれだけの城が完成したのか。

ビジョンとは、リーダーのビジョンではなく、
参画する人のビジョンでもあったから

筆者の推論

「あなたの仕事が後世までずっと残りますよ」
「いざとなったとき、あなたの大切な家族や後世も、この城で守られることになりますよ」
完全な推論ですが、参画する人のメリット感を具体的に語ってたと思うのです。恐怖心や規制で統制するより、個々人の発意と創意工夫を引き出すのは参画する人のビジョンを語ること。これはいつの世も変わらないでしょう。

そんな歴史の対話を思い出しつつ、and,orがいつも大切にしている言葉でビジョンになり得るフレーズを発見。テキストのヘッダーに入れている言葉でした。

©アンドア株式会社

細かい議論は他の場面に譲るとして、and,orはイノベーションを創発する組織を支援します。そのうえで失敗に温かいことは、何度も再起に挑戦したり、挑戦を後押しする人や組織を増やす基礎になると信じています。逆に、失敗に冷たい社会はイノベーションの創発に反作用します。

普段何気なく問題意識として語られていた言葉が、歴史との対話やパーパスづくりの対話を通して脚光を浴びる。パーパスづくり合宿ならではの醍醐味です。

ミッションの設定:顧客からウケる&顧客にできるを探す

ここでようやくミッションの設定です。ミッションには様々な定義がありますが、私たちは数々の書籍や専門家との対話を通じ、「ビジョンの実現に向けて果たす行動」と定義しています。

サクッと復習

ただ、思ったほど難しくはありません。なぜなら、パーパスとビジョンが見えているから。言い換えると、出発地と目的地が明らかになっているので、あとは「何を行動するの?」を考えるだけです。

そこで重要になる問いがあります。ミッションとはこの公式で具体的にしていきます。

顧客からウケる&顧客にできる

©アンドア株式会社

一方で、ミッションを考える上でよく陥りがちな罠があります。

1.貢献対象がはっきりしない
→例えば「地球上のすべての人に」など。それはそれで素晴らしいのですが、社内外のステークホルダーに理解され、共感が生まれるかというとそうではない。
2.ウケない行動を言っている
→顧客からすると期待していないこと。例えば「目標必達」「シェアNo.1」などは、顧客からするとどうでも良い。
3.できたのかがわからない行動を言っている
→具体性に欠けたり達成基準がよくわからないこと。例えば「常に品行方正に努める」のは、何を以てできていると判断するのかが人によって基準が異なる。

こう述べると、「ミッションとは永遠の理想である!」「貢献対象や達成基準などを明示することは型にはめる思考だ!」というご批判をもらうことがありますが、それは「型にはめたと思いたい」という認知によるものです。

むしろある一人が永遠の理想を語っても、周囲の人に理解や共感がされないのであれば、型にはめる以上のデメリットが生じます。【意味がわからない】というデメリットです。これがやらされ感や、組織の主体性を無くしていく要因になりえます。

型にはめるとか、理想が高い低いという議論は自分の中のもの。それよりも、社会や共感し合う相手から見て創造性を掻き立てる言葉になっているかが重要です。そのための観点が、

顧客からウケる&顧客にできる

なのです。
実は、これも素案は対話済みでした。熊本城で対話した【コアコンピタンス】というものです。

©アンドア株式会社

対話のファシリテーションを強みに、イノベーションを生み出す支援をしたい。それをコミュニティ型組織を生み出すという発想で企業の中から再現したい。
こんな感じでand,orのミッションが決まりました。

バリューの絞り出し:結局and,orらしさはいつどこで?

さて、最難関がバリューの設定です。
かつてチームビルディングのご支援などでは、ミッションやビジョンの設定に多くのパワーを費やします。そしてバリューとなると、案外あっさりと議論されることが多いのです。まるで居酒屋で注文をするかのように、言ったものがホワイトボードに並び、投票形式で絞られるという手法もあります。

ただ、私たちは研究を重ねて考え直しました。バリューほど包括的な概念は無いし、バリューほど日々の細部に至るまで浸透する言葉はない。ということは、具体的な自分たちの行動を振り返って納得するものをつくるべきでは?と。

<再掲>PVMVの概念図©アンドア株式会社

上図で言う「この船らしさとは何か」とは、乗組員の一言一言や、所作の細部に現れるものです。言い換えると、バリューとは具体的な細かな行動から探求するもの。決して思いつきで合言葉を言い合うような、乱暴なファシリテートで決めてはいけないと考えています。

すると、ここまでお読みの皆様はお気づきかと思います。やっぱり材料となる素案が重要なのです。そして、これもやっぱり経験済みでした。

あの、別府に着いてからのハプニングです。

ここからちょっとマジモードで問いを投げていきます。

あのハプニングが発生したとき、もっともand,orらしい決断とは何か

別府の一件からバリューを問う

どんな行動にand,orらしさを感じたのか

別府の一件からバリューを問う

もしand,orらしくない価値観だとしたら、あのハプニングでどのような決断や行動をしていただろうか

別府の一件からバリューを問う

ここで鍵となるのが共通体験です。別府でのハプニングは紛れもなく共通体験。したがって、この体験における判断や行動には、私たちらしさ:バリューが存在しています。コーチ性を伴ったあらゆる問いでそのバリューの解像度を上げていくのです。

また、メンバーは共通体験を経験しています。したがって「and,orらしさとは?」と聴いてもどんどん意見が出てきます。これまたくどいようですが、合宿ならではの醍醐味です。

結果、3つのバリューが誕生しました。

©アンドア株式会社

共通体験、特に困難を乗り越えた体験にはいくつもの判断や行動があり、その一つ一つが「自分たちらしさ」の種です。経験や役職に関係なくバリューを言語化する上で、偶発的な共通体験は欠かせません。

DAY3:日中

合宿も最終日。別れの日です。今日を境に各々の持ち場に帰ります。
そこで大事なことは、設定したPVMVを浸透させる仕掛けです。

パーパスを噛みしめる:離れていても面白がって浸透していく

まず行ったことは、バリューをイラストのスタンプにしました。

やりたい人がやってみよう
©アンドア株式会社
?(はてな)がついたら寄り道しよう
©アンドア株式会社
美学に尋ねよう
©アンドア株式会社

これらのイラストを、Slackのスタンプとして取り入れました。


Slackのスタンプにバリューを採用
©アンドア株式会社


すると、チャットの一つ一つにどのようなバリューが生かされているのか、日々反芻したりフィードバックし合うことができます。

徐々にではありますが、たとえ経費精算の行動一つでも面白がってスタンプを送り合うことで、バリューについて考えて行動する機会が増えます。

これは浸透施策のほんの一例ですが、ポイントは【毎日触れる】です。ご支援した例では、デジタルサイネージや動画を活用したことや、日々の社内での会議や声掛けに応用した例もあります。

ある意味、PVMVは作ってからが勝負。プロジェクト担当者はその事を忘れずに、創造的な組織活動を仕掛けることを楽しんでほしいと思います。

最後に:PVMVを創る当事者として忘れてはいけないこと

ここまで私たちの旅に同行していただいてありがとうございました。
最後にPVMVプロジェクトの当事者として忘れてはいけないことをお伝えしてレポートを閉じたいと思います。それは、

オブザーブ席は取っ払って、全員が当事者になる

これに尽きます。

お気付きの通り、良質なインプットがなぜアウトプットに活かせたのかというと、人によって感じ方や見ていたものが異なったからです。

それを、経験が上だからといってオブザーブ席を設けていたらどうなったでしょう。一見主体性に任せているように見えて、実際は限定的な視野でアウトプットさせるよう仕掛けていることになります。

それだけでなく、アウトプットに後からマウンティングすることだって可能になります。PVMVを決めた後に権力者から「自分で決めた言葉なのだから、責任は取るよな?」と言われてチームはやる気になるでしょうか?

この種のモチベーション減退行動を、私は

後出しマウンティング

と呼び、企業への報告書などで提言しています。

ただ、後出しマウンティングをやる側にも言い分があるのです。それは、

・変化が怖い
・もう自分は十分頑張ってきた
・資源は無限にあると思ってる
・成長は永遠に続くと思っている
・自分が憧れたかつての上司先輩は20世紀型だ
こうした概念を信じているし、信じ込まされたのです。

だからこそ、オブザーバー席ではなく輪に加わるべきです。
その怖さや信じていた世界も、パーパスをつくる上での重要な観点です。

今こそ謙虚に、現実を受け入れ、変化を楽しみましょう。



そして、最後にこの問をプレゼントします。


あなたの人生の最期は、
誰にどんな価値を届けた人だと
言われていますか?


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