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父が好きなドラマは水戸黄門

風車のお題で、風車の弥七を思い出すとは

もっと、こう
お祭りで買ってもらった風車の温かいエピソードや
地上にそびえ立つ風車は風力発電をしているとか
知性とほのぼのが同居していたら
可愛げのある女だったかもしれない

風車の弥七とは、ドラマ『水戸黄門』に出てくる
陰で黄門さま一行を支える役目の忍者
悪代官の手下から、身体を張ってお守りする

晩年の父は、夕方16時から再放送する
水戸黄門が好きでたまらなかった
お決まりの印籠が出てくる際は
「うううっ」声を出して喜んでいた

元気な頃は『水戸黄門』に見向きもせず
リビングで釣の仕掛けを作ったり
読書をしたりなど、趣味に生きる人で
趣味と母さえいれば、それで良いような

これを18年間も見てきたわたしは
実家に戻った折の父にある変化へ驚いた
脳梗塞で半身麻痺だから、釣りや絵は描けない
だとしても、土日曜日に『水戸黄門』がないと
全身で落胆を伝えてくる父に戸惑いがあった

そういえば『水戸黄門』のお話を覚えてない
勧善懲悪であると、大雑把にしか

車椅子や座椅子に座らせた父の姿勢が崩れると
立て直してやり
よだれを垂らすとタオルで拭いてやった
歪んだ父の横顔ならすぐに浮かんでくるのに

父が排泄をしたいと手で決まったサインを出す
コロがついたポータブルトイレは重くて
車椅子の横にポータブルトイレを付け
父を車椅子からトイレへ移す

178センチの大男がわたしへ体重をかける
父の目線は『水戸黄門』から離れない
わたしの肩は父のよだれで濡れながら
父のズボンやオムツを下ろしてトイレに座らせる

「オムツの中でしてくれたらいいのに」

悪代官と越後屋(仮)の悪事が白日のものとなる
助さんや格さんがご隠居と屋敷へ乗り込む
なんか、そんな声がテレビからしてくる
父は興奮しながら声を上げる

「父さん、トイレに集中しよ」
父はわたしを見ようともしなかった

介護って、家族って風車の弥七みたいなもんだ
そして勧善懲悪みたいにスッキリはしない
陰で、陰で、陰で、支え
無茶振りに頭を抱え
ピンチになる前に手を伸ばせる体制でありながら
何が疲労か麻痺して分からない状態の日々

この体験はわたしにどう影響したか
「早くに父を亡くした」ぐらい

残された母、弟、わたしは無風の毎日を暮らす
波も風もないのが当然になった

『水戸黄門』は今でも放映されているのだろうか
風車の弥七は
どの俳優さんが演じているのだろう

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん

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