著…砂川啓介『娘になった妻、のぶ代へ 大山のぶ代「認知症」介護日記』
長年ドラえもんの声優をつとめてきた大山のぶ代さん。
この本は、大山さんのご主人がご存命だった頃に出版した介護日記。
…大山さんがドラえもんを忘れてしまった…。
大山さん版ドラえもんの、まるで母親のように優しくあたたかい声を聴いて育ち、数々のアニメや映画作品を観てドラえもんとのび太たちの冒険を応援してきた人間にとって、その事実はあまりにも衝撃的。
いちファンですらこんなにショックなのに、その変化を間近に感じたご主人の辛さを想像すると、涙無しにはこの本を読むことは出来ません。
この本によると、ご夫妻はもともと、認知症にならないよう漢字の書き取りや「あれ」「それ」などの代名詞を使わないなどの脳トレを長年してきて、しかもそれらの認知症予防策は大山さん自らが情報収集してご主人に提案してきたそうなのに…。
病気を完全に予防することは誰にも出来ない…と頭では分かっていても、ひどくやるせない感じがします。
そもそも、この本に書かれている大山さんのエピソードは、どれも並大抵のものではありません。
息子を死産。
娘を生後3ヶ月で失う。
次に妊娠したら母体が危ないと宣告される。
子どもが大好きなのに、子どもを産めない。
直腸ガンの手術。
脳梗塞で入院。
そして認知症を発症。
息子のように可愛く思っていたドラえもんのことを忘れる。
感情のコントロールがきかなくなる。
排泄を失敗。
幻覚に向かって話し続ける。
自分が薬を飲んだことを忘れて「これ、誰が飲んだの?」とご主人に尋ねる…。
…一体どこまで試練が与えられるのでしょうか…。
この本には、ご主人自身も高齢でしかも胃ガンなどの健康不安を抱えながら、工夫に工夫を重ねて介護を続け、それでも自分を責め、苦しみ続けたことも綴られていて…、読んでいて胸が締め付けられます。
大山さんの認知症を世間に公表することで、少しずつご夫妻の様子が変化していくくだりは、読んでいて少しだけ救われた気がしました。
しかし、本当は認知症を治す手立てがあれば一番良いのですが…。
認知症の治療方法は現在色々あるけれど、それらはあくまでも進行を少し遅らせるもの。
進行を止めたり、完治させることは残念ながら今の医学では不可能。
ドラえもんが現れて、大山さんにお医者さんカバンを出してくれたら、認知症を治せるかもしれないのに…。
…けれど、ご主人が既にこの世にいらっしゃらないことを知ったら、きっと大山さんは悲しむでしょうね…。
それを思うとひどく切ないです…。
きっとドラえもんだって、亡くなった方を生き返らせることは出来ないから…。
〈こういう方におすすめ〉
大山のぶ代さん版のドラえもんをこよなく愛する方。
〈読書所要時間の目安〉
ページ数から考えると概ね2時間ほどだと思いますが、わたしは3時間以上かかりました。
涙でページが見えなくて。