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著…大橋伸一『法廷絵師は見た!』

 法廷絵師として傍聴席の最前列に座り、様々な残虐事件の被告人たちのありのままの姿を描いてきた著者の本。

 この本には、著者が10年以上に渡って描いた法廷画とその裏側に記した素直な感想、そしてそれらの事件についてジャーナリストや作家が寄せた原稿が収録されています。

 著者は被告人たちの傲慢さ、残虐さといったものだけでなく、不幸な境遇、孤独といったものも近くで見聞きしてきました。

 そのため、著者は被告人に対して憤ることもあれば、これまでの数奇な人生を哀れむこともあります。

 例えば池袋通り魔事件の被告人の不幸な境遇に対して著者は同情を示しますが、ジャーナリストがそれに対して、

 「いかにも哀れに感じられるが、社会全体を見渡せば同じような境遇に生まれ落ちた人はたくさんいる。そういう人がみな通り魔になるかといえば、そんなことはない」

(著…大橋伸一『法廷絵師は見た!』 P52から引用)

 と述べているのも興味深いです。

 そう、社会全体を見渡せば幸せな人なんてごくわずか。

 みんな多かれ少なかれ不幸を抱えています。

 それでもたいていの人は、出来る限り法を犯さず日々まっとうに生きているはず。

 不幸な人全員が無差別殺人までやるかと言ったらそうではありません。

 被告人の生い立ちがどんなものであろうとも、そんなの、被害者やその遺族にとっては関係ないこと。

 どんな経緯があって道を踏み外したのだとしても、罪はしっかり償われるべきだとわたしは思います。

 …けれど、著者にしか感じ取れない何かもあったのかもしれません。

 間近で被告人たちの表情を見て、間近でその話を聞いた著者にしか分からない何か。

 人の心というのは本当に複雑ですよね…。

 100%白にもなれない。

 100%黒にもなれない。 

 それを思うと、人が人を裁くことの難しさにも気づかされます。



 〈こういう方におすすめ〉
 裁判に興味がある方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1時間半〜2時間くらい。

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