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写真・回想録…ワルデマール・アベグ 文…ボリス・マルタン 訳…岡崎秀『100年前の世界一周 ある青年が撮った日本と世界』

 100年前にタイムトリップして、ドイツ人の青年ワルデマールと共に、時空を超えた世界一周旅行をしている気分が味わえる本。

 アメリカでは、大都会を行き交う人々の様子やや、西部劇のような場所や、イエローストーン国立公園の風景を堪能する。

 日本では芸者さんたちと遊び、花魁道中や、富士山、そして桜に魅せられる。

 中国では万里の長城のスケールの大きさに圧倒され、日の暮れゆく長江の向こうの仏塔を眺める。

 インドではガンジス川で沐浴をする人々を見つめ、タージマハルの美しさとそこに込められた悲しみを感じ取る…。

 素晴らしい世界旅行ですね。

 「ワルデマールは死を恐れていた。夜に限ったことではない。自分の人生が眠りに陥ってしまうことを恐れていたのだ」
 (P11から引用)

 と苦しんでいたという彼が撮った写真が、彼自身が亡くなった後もこうして残っているのが凄い!

 着色してある写真も素敵だけれど、白黒のままの写真も叙情的で美しいです。

 写真に写っている様々な国の方たちもきっととうの昔に亡くなっているだろうに、写真の中ではいつまでも生きているのがなんだか不思議…。

 この方たち自身は亡くなっていたとしても、その子や孫や曾孫たちが今も世界のどこかで暮らしているのかもしれません。

 そんな風に、読む人を神秘的な気分にもさせてくれる回想録をまとめた彼の人生には、世界一周を終えた後も、大きな出来事が起こったそうです。

 ドイツ生まれドイツ育ちのドイツ人であった彼は、ナチズムに反感を抱き、第二次世界大戦後にドイツ国籍を放棄。

 そしてこの本はこう締めくくられます、

 「20世紀初頭に存在していた夢は、爆弾やガス室にまみれて消えてしまったのだ。世界が無垢だったころの風景はもうない。だがそれでも、自分が旅したあのころの写真を見れば、世界が正気を失う前の姿を見ることができる」
(P238から引用)

 …と。

 彼は1961年に亡くなったそうですが、今もなお世界中で、まさに「正気を失っている」としか思えない惨劇が繰り広げられています。

 その度に犠牲になるのはいつだって、この本の写真に写っているような、ごく普通の人々。

 いつか彼の魂が未来の世界へタイムトリップしてきた時に、「世界が無垢だったころの風景はもうない」と落胆するのではなく、「これを写真に収めたい」と思うような美しい風景や人々の笑顔がありますように。

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